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DEATH TERRARIUM  作者: 美味いもん食いてぇ


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第25話


「……地下に森まで造るのか」


 運営のこだわり具合に関心を通り越して呆れていると、『装着してください』というアナウンスと共に、地面から小型の台が競り上がってくる。その上には、背中側にボタンの付いたショルダーベルトが置かれていた。



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ゲームジャンル:【Mission】 ルール:【鬼ごっこ】 タイムリミット:【30分】 これより、ルール説明を始めます。

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 鬼ごっこ……。

 九十九はショルダーベルトを装着しながら、アナウンスに耳を傾ける。



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 現在、このフィールドには30名のプレイヤーが存在しています。

 クリア条件は、ゲーム終了時に10pt以上を保持していること。

 達成できなかった場合、ペナルティが発生します。

 同様に、ボタンを異能以外の物で隠した場合も、ペナルティが発生します。

 ポイントは、以下の方法で増減します。


【1】他のプレイヤーのボタンを押すことで、+1ポイント。

【2】押された側は、−1ポイント。

【3】他のプレイヤーを殺害することで、+5ポイント。


 尚、同一プレイヤーからポイントを奪えるのは、一度きりです。

 それでは、10秒後にゲームを開始します。

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 カウントダウンを耳に、九十九はストレッチをしながら再度ルールを噛み砕く。

 要するに、制限時間までに10ptを集めて、ボタンを守り切り、殺されずに逃げ回れってことか。殺人以外にもポイントを得る手段がある以上、誰も殺さずにゲームをクリアできる可能性がある……ように見えるが、これは罠だ。

 マイナスになった人が0に戻っても、相互間で±0にしない限り、そのマイナスは誰かに移っただけ。そして+1を持った人間をわざわざ見つけて奪うなんて、そんな非効率なことをする人間はいない。

 つまり一度マイナスが生まれてしまうと、八割がた三十人の中からマイナスが消えることはない。なるべく殺したくないという優しさや、押せれば良いという甘えで、中途半端な数字を持った人間が多発した場合、必要最低値を大幅に超えた殺戮が起きる可能性がある。

 最も合理的なのは、十人を縛り上げて他二十人の200pt分を背負わせるやり方だが、現実的じゃないし倫理的にも却下だ。

 となると、やっぱり二人殺すのが一番平和的と言える。最大生存人数=五×殺された人数÷十。

 つまり、二十人死んで十人生き残るのが理想的。


「ガルム」


 虚空から現れた黒犬が、テンション高めに九十九の周囲を走り回る。


「……さぁ、勝ちに行こう」


 甲高い電子音と共に、人生二度目のデスゲームが始まった。


「ガルム、近くのプレイヤーを探してきてくれ」


「ゥルッ」


 駆けていくガルムを見送り、九十九は辺りを見回す。

 手頃な茂みを見つけ、その中に身を潜めた。眼前の小枝に列を成す蟻を見つめながら、九十九は静かに深呼吸する。


 ……前回のゲームで心に決めたこと。

 拾える命は全て拾う。

 それが、僕がゲームに参加する上で、己に誓った理念だ。自身のクリアを前提として、他者のために動く。それこそが僕がゲームに参加している意味であり、意義であるのだから。


 今回のゲームで僕にできるのは、±0サムで起こり得る負の連鎖を断ち切ること。だから僕は、−1と+1を持った人間以外は狙わない。

 このゲームの敵は、マイナスを意図的に波及させる+1を持った人間だ。


 遠方から銃声が聞こえてくる。各所でプレイヤーがぶつかっているのが分かる。

 九十九は顔を上げ、戻ってきたガルムを茂みに迎え入れた。


「ハッハッハッ、ゥルルッ、ガルッ」


「あっちに二人で、こっちに一人。分かった。バレては? ないね。よし、案内お願い」


 茂みから飛び出した九十九は、ガルムの後を追いながらホルスターに手をかけた。

 ……僕には、今回のゲームで確かめなければならない問題が一つある。

 それは、僕が自分の手で人を殺せるのか、という問題だ。そのためにも、一度は一人で参加する必要があった。


「ハハッ! ちょれぇっ、俺の異能なら楽勝だなこのゲーム!」


 近くから声が聞こえ、九十九は咄嗟にガルムを抱き上げ木の裏に身を隠す。

 ゆっくりと顔を覗かせると……いた。二十数m先の木の上。一人の男が手の平の上で石を遊ばせながら、望遠鏡で遠くを眺めていた。

 あんな高さまでどうやって?

 九十九の疑問は、すぐに解消される。よく見ると彼の周囲には、不思議な風の流れができていた。小枝や塵によって可視化されているその風は、恐らく彼が発生させているもの。

 ああいう異能もあるのか。


「よっ!」


 男が石を放り投げた瞬間、突風に乗った石がかなりの速度で森の奥へ消えた。そして数秒後。「よしっ」とガッツポーズした彼の背中のボタンに表示される、+2の表示。

 ……なるほど、分かり易くて助かる。


「アイギス、叩き落とせ」


「――っな⁉︎」


 アイギスが虚空から飛び出すと同時に、九十九もホルスターから銃を抜き放ち構える。

 驚く男の顔面に照準を合わせ、二発発砲。男に向かってすぐさま駆け出す。走る九十九の目に映るのは、肩を抑え落下する男の姿。顔面への一発は風で逸らされ、もう一発が運良く肩に命中したのだ。


「クソがッ‼︎」


 風で落下速度を緩め、反撃に出ようとした男。その足に半透明の触腕が巻き付く。


「あ⁉︎ んだこれ――」


 瞬間、触腕をブン回したアイギスが、男の体で木の幹を殴りつけ、地面に叩きつける。「カッハ⁉︎」と血を吐く男をそのまま大木にブン投げ、激突してバウンドしたところを縛り上げた。


 しかし男とて、デスゲームを勝ち抜いてきたプレイヤーである。この程度で気絶などしない。

 男の目が血走り、体に巻きついたアイギスごと宙に浮かぶ。


「ぉアアアアアアアアッ‼︎」


「くっ⁉︎」


 男は朦朧とする意識の中全力で風を操り、自身の周囲に大旋風を発生させた。


 枝やら石やらが高速で飛び回り、堪らず木の後ろに隠れた九十九に少なくないダメージを与える。

 っ銃で、いや、この中に撃ったら僕に当たる可能性もある。どうする⁉︎


 頭部を守りながら突破口を探していた九十九は、しかしそこで気づく。

 アイギスが振り解かれていない。それは、男の周囲だけ風の流れが緩いということ。

 九十九は即座にアイギスをオートからマニュアルに移行し、上下を反転。右手を振り上げ、思いっきり振り下ろした。


「あ? ――ゴぎゅ⁉︎」


 上下逆様になった男が、頭から地面に落ちる。落ちる。落ちる。何度も叩き落とされ地面に頭の形の穴が出来上がった頃、風の威力が一気に弱まった。


「アイギスっ、首!」


 マニュアルからオートへ。銃をしまい木の影から飛び出した九十九が、腰裏のナイフのグリップを掴む。そしてアイギスが露出させた首めがけ、一閃。勢い余ってすっ転び、地面を転がった。


「……いてて」


 起き上がる九十九を、アイギスが引っ張り立たせる。後ろを振り向くと、ゴボゴボと声にならない悲鳴をあげていた男が、ちょうど事切れるところだった。

 ……死んだ。

 九十九は恐る恐る男をナイフでつつき、+5になっている自身のボタンを確認する。

 ……死んでいる。

 血濡れたナイフを片手に、男の前に回り込んだ。

 ……殺した、僕が。

 頭と喉と口から血を流す男の目は、瞳孔が開き、遥か遠くを見つめたまま動かない。初めての殺人。初めての同族殺し。

 九十九は驚いていた。……大して感情が動いていない、自分自身に。


 巨大鼠を殺した時と、然して違いはない。肉を斬り裂く感覚が、まだ少し慣れないくらい。ゲームというルールに則り、お互い合意の上で殺しあったのだから、何の問題もない。そう考えている自分がいる。

 ……もしかして、僕はデスゲームというものに向いているのかもしれない。


「……まぁ、こんなもんか」


 もう少し動揺するものと思っていたが、案外すんなり受け入れられた。

 僕の精神は、人を殺したところで動じない。それが分かっただけでも、今回参加した意味がある。


 九十九はナイフを鞘に納め、汚れた服をはたきながらその場を去った。


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