第21話
翌日。
全身鏡の前に立つ九十九は、自身の服装を見ながら難しい顔をしていた。
果たして、世の高校生は異性と外で会う時にどういう服装をするのか? いや、別に意識しているとかではなく、単純に不安なだけで、だって男と会うのとはわけが違うだろう? ドレスコードとかあるのか?
ぐぬぬと唸って十五分。
いくら考えても埒が明かないと悟った九十九は、シンプルな白シャツにグレーのスラックスを合わせ、スニーカーを履いて家を出た。
少しだけそわそわしながら、新宿アルタ前で待つこと十分。
「おはよう」
時刻は十二時きっかり。
頭上から降ってきた声に、九十九は顔を上げた。
……濃紺色の長袖ブレザーと、スクールバッグ。月曜に見た時と全く変わらない黒月の姿に、九十九は力なく笑い、「おはよう」と返した。
「待ったかしら?」
「十分ほど」
「男なら一時間前に来ようと、今来たところと言いなさい」
「今来たところです」
スマホをしまう九十九の薄ら笑いと、無気力な雰囲気を見て、黒月の眉間に皺が寄る。
「……何? 来たくなかったならそう言えばいいじゃない?」
「ん? 来たくなかったなんて思っていないけど」
「なら何でそんなにヘラヘラと、死んだ魚のような目で気色の悪い笑顔浮かべているわけ? バカにしているの?」
「……ああ、違う違う」
なぜか怒り出した黒月を前に、九十九は天を仰ぐ。
「鏡の前で何分も悩んでいた自分が、アホらしく思えてね。結局、僕も普通の男子高校生だったらしい。女の子に誘われて、浮かれていたんだよ」
予想外の返答に、黒月がキョトンとした顔で固まってしまう。
自分という人間の新たな発見に溜息を吐いた九十九は、「笑ってくれ」と自嘲するように微笑んだ。
その笑顔に一瞬だけ口をあわあわさせた黒月が、ふいっとそっぽを向く。
彼女は行き場のない感情で指をモジつかせながら、ほんの少しだけ喜色の込もった声で呟いた。
「……バカね」
「バカだろ? まぁでも、休日の外出で制服着てくる方も、どうかと思うけどね」
「何を言っているの? 女子高生の制服は、そこらのブランドよりも価値があるのよ」
「じゃあ僕も制服で良かったな」
「男子の制服になんて毛ほどの価値もないわよ」
「こうやって世の男女は対立していくんだろうね。……で、どこ向かっているの?」
「いいからついてきなさい」
二人は軽口を言い合いながら、喧騒の街、新宿へと繰り出した。
そうして到着したのは、ルミネEST。オシャレなレディース服店がひしめき合う、新宿屈指の若者向けファッションビルである。
九十九は黒月の背中を追うまま、同年代の女子に混じってドアを潜った。




