第18話
「……何で、ここに?」
「あら、私がどこにいようと、あなたには関係ないでしょう? 何? 詮索? 相変わらずの変態ね?」
「はい、変態はすぐに去ります。さようなら」
「待ちなさい。あなたもこうなるわよ?」
見るも無惨な姿になった熊さんをフォークで指され、九十九は無言で着席した。大きな溜息を吐き、切り替えて彼女と目を合わせる。
「はぁ。……昨日ぶり。怪我の具合は?」
「完治しているわ。依絆くんは?」
「少し肋が痛むくらいかな。裂かれた腕も、折れた骨も治っているし、本当優秀だよあそこの医療チーム」
「いくらでも殺し合えるってことね」
「うん、あんまり外でそういうこと言わないでね」
数分後。
丁寧に口を拭いた黒月が席を立ち、一緒に九十九も立ち上がる。
レジで当然のように「ごちそうさま」と笑いかけてくる彼女を一睨みし、九十九は仕方なく二人分の会計を済ませた。
外に出ると既に陽は落ち、夜の新宿が顔を覗かせている。
無言で彼女の隣を歩く九十九は今、少しばかりの緊張を感じていた。
初めて出会ったのが、あんな場所だったせいか。濃紺色の長袖のブレザーを着て、両手でスクールバッグを持つ黒月の姿に、本当に同じ世界に生きているんだ。という謎の感動が生まれていた。
「……そんなにジロジロ見ないでもらえる? 不快よ」
睨み上げられた切れ長の目から、九十九はサッと視線を逸らす。
「失礼。夏なのに長袖なんか着て、暑くないのかと思ってさ」
「女の子は寒さに弱いのよ。男ならその程度の知識持っておきなさい」
「勉強になります」
……はて? この人はどこまでついてくるんだ? いや、たまたま帰り道が同じなだけか。
「にしても、昨日今日で会うなんてね。偶然って恐ろしいね」
「偶然なわけがないでしょう? この時代、本名が分かればおおよその住所は特定できるもの。あなたの場合、幼少期から沢山の賞を貰っていたみたいだから、その分見つけ易かったわ。九十九 依絆、白銀高校二年、母親と犬との三人暮らし、住居は西新宿の高級タワーマンション。随分と良い暮らしをしているのね」
「うん、あそこに交番があるから、一緒に行こうか?」
「自首でもするの?」
「君がね⁉︎」
こてん、とわざとらしく首を傾げる黒月に、流石の九十九も恐怖する。
こいつっ、善悪の区別がついていないのか⁉︎ 現代日本にいちゃいけないタイプの人間だろ‼︎
駅に入った九十九は、眉間を揉みながら溜息を吐く。
「え、とりあえず何で? 趣味ストーカー?」
「ストーカー? 人聞きの悪いことを言わないで。依絆くんに甲斐性がないから、私の方からわざわざ会いに来てあげたのでしょう? なぜ第一声がお礼じゃないの?」
「ありがとうございます」
「よろしい。スマホを出しなさい」
九十九がポケットから出したスマホをひったくり、黒月は勝手にアドレスを登録する。
「はい。これで連絡が取れるでしょう? 感謝なさい」
「感謝します」
「それと依絆くん、来週の土曜空いているかしら? 空いていなくても空けなさい」
「塾が」
「空いているわね。今後の方針を話し合うわよ」
「拒否権は」
「勿論ないわ。それじゃ、またね」
去っていく黒月に手を振りながら、九十九は考えるのをやめた。




