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婚礼の日に、あなたは他の人の隣り  作者: 神宮寺 あおい@受賞&書籍化


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20/21

サミュエルの後悔<二> Sideサミュエル

 頬を膨らましながら子どもっぽく膨れるリリアンを見て、サミュエルは大きなため息をついた。


「とにかく、伯爵家の夜会は断るんだ」

「いやよ!」


 堂々巡りにしかならないような言い合いにサミュエルの苛立ちが膨れ上がっていく。


「リリー、君にはマナーが足りていない」

「なんですって⁉︎」

「この前、公爵家主催の夜会に参加しただろう? あの後公爵夫人にも注意を受けた。私の婚約者として参加するのなら、恥ずかしい真似はしないでくれ」


 サミュエルの言葉にリリアンの顔がサッと赤らんだ。

 自身の行いに思い当たる節があるのかどうかはわからないが、いずれにせよサミュエルの言っていることに対して不満があるのは見てとれる。


「なんでそんなことを言うの⁉︎」

「そんなこと、ではないだろう? 貴族のつき合いにおいてマナーは重要だ」

「サミュエルは、私の自然体なところがいいって言ってたじゃない!」


 たしかに、フレアが令嬢として完璧とも言える存在だったからか、サミュエルはリリアンの貴族らしくない素直なところを好ましく思っていた。

 しかし素直と言えば聞こえはいいが、リリアンの場合は思ったことを考えなしにすぐに言ってしまうのと変わらない。

 もっといえば、自分の心のままに動く分配慮が足りないことも多々あった。


 それでも、そのことが邸宅内、もしくは男爵領内で留まっている間は問題なかったのだ。

 それが急に侯爵家当主の婚約者として高位貴族の集まる夜会に参加すれば、何が起こるかなんて火を見るよりも明らかだろう。


「自然体なのと礼儀がなっていないのでは違う。それくらいわからないのか?」


 いくぶん冷ややかな表情でそう言えば、何かを言おうとしていたリリアンが口を閉じた。


「……わかったわよ!」


 そして少しの沈黙の後、捨て台詞のようにそう吐き捨てると執務室のドアを音を立てて閉めながら出ていった。


(まったく。あれでも貴族の令嬢なのか? 小さな子どもと変わらないじゃないか)


 サミュエルにしてみれば、ただでさえ疲れていたところにさらに頭痛の種がやってきたようなものだ。


(あれが私の妻になるだと? 勘弁してくれ)


 しかし、サミュエルとリリアンが結婚することはすでに決まっている。フレアに対する慰謝料である限り、止めることなどできなかった。


(誰かマナー講師をつけた方がいいか)


 そう考えるものの、良い講師を雇えばその分授業料が高い。

 さらにはリリアンが素直に講師の言うことを聞くとも思えず、お金と時間を浪費する未来しか見えなかった。


 八方塞がりな状況にサミュエルの頭の痛みがさらにひどくなる。

 

(リリーに対して恋愛感情はないと、もっと伝えれば良かったのだろうか?)


 フレアが悪いと言いながらも、そう思ってしまったのは未練なのかもしれない。


 元々サミュエルはリリアンのことをただの幼馴染としか思っていなかった。

 もちろん、カミラには乳母として世話になったし、リリアンとも幼少期から一緒にいたから情はある。

 ただしそれはあくまで幼馴染としての情だ。


 それなのになぜいつもフレアよりもリリアンを優先したのか。

 それはひとえに、優秀なフレアに対する劣等感ゆえだった。

 そのことをサミュエルは長い間認められなかったけれど。

 しかしフレアとの婚約が破棄され、新たにリリアンとの結婚を待つ身となって、現実として突きつけられてしまえば目を逸らすことができなくなった。


リリアンを優先すれば、フレアは心を乱す。


 その事実に気づいたのは偶然だ。

 ある時侯爵邸でフレアと一緒にいるところに男爵領から使いが来た。

 リリアンの体調が悪く、サミュエルが駆けつけるだけの理由はたしかにあった。

 フレアだって快くミュラー邸へと送り出してくれたけれど、その時サミュエルは気づいてしまったのだ。

 フレアの瞳に嫉妬とも呼べる感情がよぎったことを。


 誰もが完璧な令嬢として褒め称えるフレアが、サミュエルの行動に振り回されている。

 フレアの優秀さを誇らしく思いながら、どこか歪んだ劣等感を感じていたサミュエルにとって、その事実が驚くほど己の自尊心を満たしてくれた。


 それからだ。


 まるでフレアの気持ちをはかろうとするようにサミュエルがリリアンを優先し出したのは。


 さらには、リリアンがあえて大事な時を狙ってサミュエルを呼んでいることに気づいていたが、フレアの心を揺さぶるためにリリアンの策略にのった。

 サミュエルにしてみれば、幼馴染を心配する心優しい自分を演出しつつ、フレアの気持ちを乱してどちらの立場が上なのかを思い知らせるのにちょうど良かったのだ。

 

 そしてそんなことが当たり前になった結果が今である。


 サミュエルは心のどこかで、フレアは自分が何をしても許してくれると思っていた。

 我慢にも限度があるのだと、気づくことができなかったのだ。


 そもそも自分の優越感のために人の気持ちを利用しようとしていたのだから、今の状況は自業自得でしかないのだろう。


 そこまで思いを巡らせて、サミュエルはうつむくとグッと唇を噛んだ。

 

 フレアはもう戻ってこない。


 そのことを、今もまだ、認めたくはなかった————————————。

数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。


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よろしくお願いします。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


新しい話を始めました。

よろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。


タイトル↓

『辺境の令嬢は王子の愛を求めない』

辺境伯令嬢が王子をかばって背中に怪我をした。

消えることのない傷痕を負った令嬢は王子から求婚されたが、同時に社交界では他の令嬢から蔑まれ……。

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― 新着の感想 ―
更新待ってました~ 話を紡ぎだすのは大変だと思うけど、楽しみにしてますよ
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