因果応報
「ウォルス領が大変な状況にあるのはわかっていらっしゃったでしょう? それなのに途中まで手を出した事業を放置したんですもの。そのせいで領民たちが苦労することをどうとも思われないんですか⁉︎」
領民に寄り添う優しい自分というイメージに酔ったのか、リリアンが最後には興奮したようにフレアに言葉を叩きつけてきた。
「……お言葉ですけれど、今後領地を発展させていくことが婚約破棄の慰謝料としてお約束したことですわ。お二人もそのことを了承したと思いますが?」
「そ……それは……」
サミュエルもリリアンも、フレアの言っていることが理解できないわけではないのだろう。
しかしどれもが耳が痛いことばかりだから、自分たちに都合の良いように記憶を改ざんしているだけなのだ。
「いつまで経っても、ご自分たちに問題があることがわからないのですね」
もはや何を言っても無駄かもしれない、そう思ったフレアの横から、状況を静観していたエイダンが声を発する。
「フレア、何を言っても理解できない愚かな人たちとはどれだけ話しても無駄さ」
いつにないきつい言い方に驚いたフレアが見れば、エイダンは笑顔を浮かべて毒を吐いている。そして彼の瞳はまったく笑っていなかった。
(……エイダンもお父さまやお母さまと同じ人種だったのね)
つまり、笑いながら心の中に大きな怒りを飼う人たちだ。ある意味、怒らせたら一番怖い人たちでもある。
「今回の言いがかりについては、ルックベルト家から正式に抗議の手紙を送る」
エイダンはそう続けた。
「何だと? そんなことを言う権利がお前にあるとでも?」
その言葉に眉をひそめながらサミュエルが答えた。
エイダンが言っているのはリックベルト家当主から抗議をするということだ。サミュエルはエイダンのことを、フレアを口説いている令息としか思っていない。だから疑問に思ったのだろう。
(でもエイダンは次期リックベルト当主よ。抗議内容も含めて、お父さまは反対しないでしょうね)
「ある」
「やけに自信満々なんだな。フレアを口説いているだけの男に、そんな権利があるものか」
「フレア嬢、だろう? 言葉に気をつけるんだな」
もはやエイダンは敵対心を隠しもしない。
「人に責任を押しつけ、求めるばかりで自分は何の努力もしない。そんな人間の言うことに貸す耳はない」
そう言い切ると、エイダンはフレアに退室をうながした。
「サミュエル様、リリアン様、今後は私への接触は控えていただくよう求めますわ」
そのことを、フレアはリックベルト家からの抗議文に入れるつもりだ。
もうこの二人とは接点を持つことすら嫌だと、そう思った。
♢♢♢
ウォルス家はルアール国に古くから続く侯爵家だ。
領内にある鉱物を元手に大きな事業をいくつも手がけ、一時は国内で一番豊かな領地と言われた時代があった。
しかし時を経て、自然からの恵みである鉱物の産出量が減るにつれてかの領地の経営は傾いていく。
それでも、ウォルス領を導く当主が有能であったのなら結果は違ったのだろう。
能力のない者が先頭に立つことの弊害。
ただその血を継いでいるという理由だけで当主となった者の手によって、傾き始めた経営はさらに悪化していった。
そしてあっという間に、ウォルス領は国内でも有数の貧しい領地へと落ちていく。
今までの国への貢献、さらには長く続いた家を簡単になくすことはできないことを理由に、国はいくばくかの手当てと多少の優遇措置によって爵位の返上までは至らないように調整した。
もしかの領地に優秀な後継者が誕生すれば、あるいはかつての隆盛を取り戻すことができただろう。
しかし没落して以降、当主の子孫に優秀な者は現れなかった。
ウォルス領では密やかに囁かれている噂がある。
領地の没落は、幸運の女神を手放した結末だ。
それは当時の当主の愚かな劣等感故だった、と。
そして暗愚な当主の存在は、その後も長く語り継がれたのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
本編はいったん区切りとなりますが、この後サミュエルSideの番外編、リリアンSideの番外編を考えています。
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