あの日の家族と+α
夜も七時を回り、すっかり真っ暗になってしまった。普段は門限を過ぎて出歩かないような時間に、お父さんと2人歩いている。
なんてったって今日はお楽しみなのだから。
「トメさーん!久しぶりー!」
「おう、ご無沙汰じゃのう渚ちゃんよ!」
待ち合わせていたお店に入り、目当ての男の人にかけ寄る。トメさんこと福留さんはお父さんの職場の先輩。今日はお父さん含めた3人で久しぶりの外食だ。
お父さんとは親子……ほどではないけど、結構年が離れているトメさん。だからなのか私もお父さんもとても可愛がられていて、時々こうして飲みにさそってくれる。
「場所取りご苦労様です。すんませんね遅くなっちゃって」
「気にせんでええよ。とりあえず俺らは生頼むとして、渚ちゃんどうするん?」
「じゃあコーラにする」
いつも大人達の飲みニケーション?っていうのに混ざれないのは少しさびしく感じる。でもあと10年のガマンだから、その時を楽しみに待つしかない。
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「そういや聞いたぞ渚ちゃん。ついに野球始めたって?」
皆での乾杯を済ませて、しばらく出された焼き鳥を食べるのに集中していたらトメさんにそう聞かれた。
「うん。まだベンチだけど、楽しいよ」
トメさんもお父さんも、そして私も大の野球好き。ついに念願叶って少年野球チームに入って、今日で大体1ヶ月ぐらいが経っていた。
昔からずっとやりたいと思ってはいたけど、いつも大変そうなお父さんにこれ以上無理もさせたくないと思って内緒にしていたのに、いつのまにか気付かれていた。やっぱりお父さん相手に隠し事はできなかったらしい。
「そりゃよかったのう。今年はカープも調子ええし、ええスタート切れたんじゃないか。ポジションは?」
「こないだ練習試合ライトで出た……けど出番なかったし、ポジションとか今はまだわかんない」
「始めたてはそんなもんですよ。…………はぁ」 「なんじゃ、中日は今芳しくないけぇ気まずいんか」
「そこまで察しつくんならほっといて下さいよ」
こういう日は、普段はおしゃべりではないお父さんの口数が増えるからうれしい。別に私との会話が楽しくないわけじゃないとは思うんだけど……。
でも帰りがおそくて顔を合わせる時間もそんなに多いわけじゃないからわからない。
「そういやのう蜂須賀、お前まだええ人は見つかっとらんのか?」
「ぶっっっ!?」
おどろいた拍子にお父さんが飲んでたお酒をふきだした。私も開いた口がふさがらない。
「独り身じゃろ?誰か探しとったりせんの?」
「探してませんよ。大体俺、戸籍上はまだ離婚はしてないんですから……ああでも、もう失踪届出せるのか」
びっくりした。お父さん再婚する気があるのかと思った…………。そんなそぶり今まで見せたことなかったし。
「お母さん帰ってくる気無さそうだもんね。むしろ帰ってきたら私が追い出しちゃう」
「ああそれがいいよ渚。ってことなんで、当分浮いた話はなさそうですよ。結婚はもう懲り懲りです」
「………………大変なんじゃのう」
お父さんに寄りそってくれる人が、私以外にもいてくれればなと思いはする。でも、今の平和な2人暮らしが崩れるくらいなら今のままがよっぽどいい。
「渚は俺みたいにならないようにな」
「はっはっ、詳しい話は知らんが、確かに反面教師にした方がええ要素がいろいろあるみたいじゃけぇのう。悪い男に引っ掛からないようにせんといけん……つって、わからんか」
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「ふぉふふぉふぇふぁん、ふぉふぉふぉへふぉふぉへふふぁいふぁふぁいふぁ…………!?」
ぼんやりとした頭の中が段々と晴れてくる。なんだか懐かしい夢を見たような……
寝起きの頭で、なんとなくそんなことを考えたところで、現状のおかしさに気がついた。
ちゃんと喋れていない。口に何か噛まされて……恐らく猿轡をされていて、声が言葉をなしていない。しかも、視界が真っ暗だ。目隠しに手足の拘束までされている。
「ふぉのふぉうふぉう、ふぁふぁふぁ…………!」
ついに警戒していた事態。シャルさん誘拐事件パート2が開始された………………!
■福留さん
愛称はトメさん。渚の父親の先輩で、広島弁で話すかなり大雑把な人。面倒見が良く渚とも仲良し。




