共犯者は大事にしよう
「バレてない?」
行きと同様塀を飛び越え、お土産片手に庭まで降りる。降りずに直接窓からシャルさんの部屋に入ってもいいが、如何せんこの飛行魔法がかなり頭が疲れる代物なので、一休みしないとやってられない。
庭先を1人で掃除しているマリーと話しつつ息を整える。私が戻ってくるのに備えてこの役割を買って出てくれたらしい。ありがたい話だ。
「怪しまれているような感じはありませんがー、今日1日、遅れた勉強を取り戻すために頑張っているという設定にしましたのでー、早くお部屋に戻られた方がよろしいかとー」
「ありがとう!お土産があるから数分後にしれっと部屋を訪ねてきて!」
そう伝えて再び宙を駆ける。シャルさんの部屋を探し、音を立てないようそっと窓を通り抜け、何食わぬ顔で机に向かう。
マリーは人が訪ねてこないようにするための口実に勉強のことを挙げていたが、ぶっちゃけ勉強の遅れは事実ではあるので、今日この後は本当にそっちを頑張る必要がありそうだ。
そんなことを考えていたら、伝えた通りにマリーが部屋に入ってきた。ティーポットとカップを携えて。
「さて、今日は本当無理を言ってしまってごめんなさいね?」
「記憶がないとはいえー、品行方正を体現するお嬢様の我が儘ですからねー。何かあるのだろうとは思いましてー」
残念ながら中身は普通の女子高生の悪霊。品行方正なんて柄ではない。
「私は家というよりお嬢様の味方ですからねー。悪巧みとか人並みに好きですしー」
この人はこの人で、公爵家の従者とは思えない人となりだ。結構好きよりなタイプではあるけれど。
「そういえばさっきも言ったけど、お土産があるわよ。一緒に食べましょ」
「先日も豆のお菓子を頂いたばかりですのに。ありがたくご相判に預からせていただきますねー。ちなみになんでしょうかこれ?」
「えーっと……"ジュダイナ教クッキー"」
なんか、いかにも観光地という感じの品物だ。夏休み明けの野球部でこういうのよく貰った気がする。思ったより俗世に染まった存在なのか……?
「観光業に力を入れているのかしら」
「否定はしませんがねー、こういった品の売上で炊き出しなど行っているみたいですしー、拝金主義に走ったわけではなさそうですよー」
「そういうものなのね……あ、美味しい」
勘で選んだわりにいいチョイス。淹れてくれた紅茶も美味しい。
「そういえばー、お帰りになったらお伝えしようとしていたことがあるのですがー」
「?」
「なんでもマーシレス商会というところからー、発注していたドレスの採寸があるので出向いて欲しいとの話でー、明日急遽そちらへ向かっていただくことになりそうなんですよねー」
ドレスかー。今来ているのも私視点では十分豪華である一方、これは普段使いの、生活用のものであるらしく本気の余所行きドレスに袖を通したことは入れ替りが始まってからも一度もない。ちょっと興味あるな。
「ドレスの用意が必要な何かがあるの?」
「これも覚えてらっしゃらないのですねー。今年は当代の国王陛下が即位50周年でしてねー。それを記念して大きな式典が行われるのでー、それ用に頼んでいた物だそうでー」
即位50年はなかなかすごいな。年齢がいくつかは知らないが、私の人生の倍以上の年月も国王をやっているわけだ。
「なんだか楽しそうね」
「そうなのでしょうねー。もっとも、私どもは参加できませんがー。ですがお嬢様はまだ伴侶がいらっしゃらないわけですからー、お嬢様目当ての殿方でも湧いてでないか心配ですよー」
……そういえばその問題があった。
私がシャルさんである間に進展がないといいのだが…………。




