親方!空からプラシドさんが!
「ちょっ、なんだってそんなことに!?」
急な話に困惑する。プラシドさんは"先生"の居所に攻めこんだのだから、私も命の心配をしていなかったわけではない。
だがそんな状況で、サポートのためついていったはずのテオドールがプラシドさんを放って降りてくるのはおかしい。何か私の想定とは違う危機が起きている。
「プラシドが敵に吹っ飛ばされてさ、ガラス破って外に出ちゃったんだよ。なにアイツ、後ろに目でもあるのかな」
「外にって……今プラシドさんは!?」
「壁の出っ張り掴んで耐えてたよ。一瞬で降りてきたからちゃんと見てはないけど、落ちてきてないってことはまだ耐えてる筈。けど…………」
……けどの先は聞きたくない。
見上げても、ここからはプラシドさんの姿が見えない。つまりそれほどの高所で耐えているということ。王都のアルメリア大聖堂ほどではないとはいえ、これが無駄に縦にも横にもでかい建造物であるのが恨めしい。
見るとテオドールが柄にもなく青ざめている。多分私自身もそうだろう。感覚でわかる。
落ち着こう、プラシドさんは下っ端だけどタフな方なのは最近わかってきた。早めに手を打てば死ぬなんてことには……
「テオドール、あなたが運んで降ろすことはできませんの!?」
「む、無茶言わないでよ。そりゃ物を掴んだりとかはできるけど、全然力入んないし……」
彼が物体に干渉できているのはこの世界に満ちている魔力の賜物と聞いている。私の時とは事情が大きく異なるのもあって、この世界で幽霊が何をどこまでできるのかは未だよくわかっていない。
警護の方々に説明する間も惜しい。選択を間違えたら、プラシドさんは…………
「……っ!行ってくるっす!」
「お嬢様!?何をしていらっしゃるのでー!?」
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
無鉄砲にも上空へ飛び出す。疲労も時間も考えないままに昇り、プラシドさんを探していく。スタートの瞬間こちらの様子に気付いたマリーも顧みぬままに。
この場でプラシドさんが死ぬとしたら、それは私のせいだ。あんな無茶な提案をしたから彼のピンチを招いた。
私の行動によって誰かが死ぬなんて許容できない。死人の私がこの場にいること自体間違いだらけなのに、それが誰かの死に繋がるなんてあってはならない────
「はぁっ……はぁっ……プ、プラシドさんは…………」
強い風の中、疲労で上昇も困難になりながらも、必死に辺りを見回す。
頭が回らなくなってきた。空中で留まるだけでも辛くなってくる。幽霊時代なら小さい時に見た戦隊みたいに楽勝で空を飛べたのに。翼が生えたりはしないけど…………
さっき私とプラシドさんが別れた辺りまで上昇した。最上階はもっと上──────
「シャルロット、上!落ちてくる!」
「ふぇっ!?」
テオドールの叫びが耳に入り空を見上げると、視界に入ったのは人間の背中。それはどんどん大きくなっていく。
「えっちょっどうするっすかこれ!」
「今更慌てる場合じゃないよ!受け止めてよ!」
咄嗟に足場の面積を広げ、腰を落として待ち構える。覚悟を決めて腕を広げ、必死に衝撃に耐える。
成人男性一人分の重みが十代の乙女を襲ってくる。当然ながら体重に耐えきれず全身が足場に打ち付けられ、集中を欠いたことでその足場はどんどん降下を始めていた。
「うぐっ……!があっ!」
「このまま落ちてったら共倒れだよ!?耐えてよ!」
「わ……わかってるっすよ…………!」
持っていかれそうな意識を堪え、なんとか足場に力を込めて降下を抑制する。若くして死んだとはいえ、体育会系のタフさを舐めないでほしいね…………!
急ブレーキによる腰の痛みを我慢しながら、プラシドさんを寝かしてゆっくり立ち上がる。なんやかんやで、もうここまでくれば飛び下りても死にはしないレベルまで降下できてきた。
「はあっ、はあっ、ひとまず生きてる…………プラシドさんは……?」
「ぐっ……生きてます…………か、感謝しますねシャルロット嬢……いてて」
無事を確認できて一安心し、今度はゆっくりと地上へ降りようと意識を向けようとした矢先、
頭上に響いたのは、爆発音だった──────




