全員生存
「ん……痛た…………」
痛みとともに目を覚ますと、そこは馬車の中であった。どういう経緯があったかわからないが、椅子の上に寝かされていたらしい。
必死に意識を失う直前の記憶を引き出そうとする。確かあの時は、プラシドさんを受け止めて、その後爆発を見て…………?
「ああよかった、目を覚まされたのですねー!?すみませんね、このような場所に寝かせてしまいましてー」
「え、ええ……ここは一体?」
「憲兵の方が公爵家から奪われた馬車を見つけてくださいましたのでー、気絶なさったお嬢様はひとまずこちらに待機していただいていたのですよー。まだ移動できる状況ではなさそうですのでー」
そういえば移動中に馬車ごと私はさらわれたのだったか。しかしそもそも、何故私は気絶するようなことになったのか?
「爆発があったのは覚えているけれど……そうだ、プラシドさんは!?死んだりしてませんわよね!?」
「落ち着いてください、彼なら無事です。骨折したりはしているようですがー」
「そう、それならよか……痛っ」
一瞬気が抜けたと同時に体が痛む。特に肩と頭が鈍く痛い。幽霊やってた頃よりましではあるが、ここまで無理をしたのは久々だ。
「無理なさらないでくださいねー!?憲兵の皆様ほどではないとはいえー、お嬢様も無傷なわけではー……」
見るとマリーの目は少し涙ぐんでいた。ただでさえ目を覚まさなかった時期がある中でのこれだ。相当心配をかけてしまったのは間違いない。
そうだあの時、瓦礫が落下してくるのを避けながら降下していても、もう限界で足場がなくなって──────
「…………はは」
「お、お嬢様?」
…………口ばかりだな、私。悲しくって笑えてくる。
シャルさんの身体に傷を残すわけにはいかない。そう何度も自分で言ってたわりに、行動にちっとも反映されていないじゃないか。
プラシドさんのことだって、無事?無傷じゃないし、私のプランのせいで命の危険に晒した事実に代わりはない。
私は結局、こちら側の人間達を舞台装置ぐらいにしか感じていなかったんじゃないか?
シャルさんのため?自分がカッコつけるために、無責任さはなにも変わらないまま突っ走っていただけじゃないか?
私は生きていて、生きた人間を相手にしている。そんな当然の事実を、正しく認識しきれていなかったんじゃ…………そう思わざるを得ない。
「…………憲兵のジャンさんから聞いた話によりますとー、プラシドさんが落とされた直後に突入に成功、敵の首魁に出会ったそうなのでー」
静寂の中、マリーは急にそう切り出した。
「ん……ああそういえば、まだなにがあったのか聞いてなかったわね」
ひとまず現状を知ること。自称女神から押し付けられた私の使命を忘れちゃ駄目だ。
「それで、なにがあったの?」
「防御壁でジャンさん達を阻んだ末、敵は周囲の荷物に魔法で着火。憲兵達は爆発物だと判断し撤退、そしてその通りに……ドカーン!と、なった次第でしてー」
あの時見た爆発。あれは自爆だったのか?
「あ、安心してくださいませー?現状、敵味方双方に死者は出ておりませんのでー。ただ、敵の首魁は見つかっていないそうですがー……」
「そう……なの」
敵も巻き込まれ脅威は去った、なんて考え方は楽観にもほどがあるか。そもそも敵が用意していたものなのだ。逃げおおせていても不思議ではない。手段は想像着かないけど……
こんなことを1人で考察したって、仕方がないか。
「マリー、ならやはり怪我人は沢山出ているのよね」
「はい?まあ皆、命に別状はないようですがー」
「なら私はゆっくり休むから、あなたは憲兵の皆様を手伝って差し上げて」
「!いやしかしー、私はお嬢様の側にー…………」
「いいから……緊急時に人手なんていくらあってもいいでしょう」
悩むマリー。流石にさらっと行ってはくれないか。彼女もシャルさんに仕える者として責任ある立場なのだし。
とはいえ、悩む余地があるようなら、もう一息か?
「仕事とはいえ、わたくしを救いだしてくださった方々にもしものことがあったらと思うと不安で仕方がないの。やってくれる?マリー」
経緯の正確さは今はどうでもいい。最近はこういう演技もスラスラできるようになってきて、少し恐ろしさも感じる。
「…………わかりましたお嬢様ー、あなた様の頼みであれば仕方がありませんのでー。何かあればすぐ周囲の人間に申し付けてくださいねー」
「ありがとうマリー。後は任せたわ」
覚悟を決めた様子で馬車を出るマリーを見届け、こちらはそっと自分の身体を探る。
目当ては携帯。なんやかんやで、プラシドさんにもマリーにも存在に気付かれていないようでなによりだ。
…………2人も、心配してるんだろうな。




