Sideルシエラ 無意識を侵略する魔法
「一体なんなんだ?あの坊や」
「わかりません!なにぶん秘密の多い子で……」
「ほーん。まあいい、続けるぞ」
そう言って目線を手元の資料に戻す。
「あの坊やからもわかる通り、人間の魂は魔力の干渉を受けやすい可能性があるって仮説がある」
テオドールからもわかる通り……確か彼が物体を持ったりすることができるのは、周囲の魔力を彼が集中させることで物理的な干渉を可能にしているのだと言っていました。シャルロット様も防御壁を駆使して彼を捕らえたと話しておりましたし。
「そもそも魔力自体私らの意思に同調してその姿を自在に変える物っていうのが定説だ。……なら」
「逆もまた然り…………なんじゃないか」
「「…………っ!」」
人間の意思に同調して姿を変える魔力の逆。
つまり……魔力の意思に同調して人間が変わる?
いやまさか、そんなことがあるのでしょうか。
「例えば相手に虚偽を信じ込ませたり……なんなら、洗脳紛いのことだってできる。それが私の仮説だ。考えるだけで恐ろしいね。セビーチェンに使えばいろいろ便宜を図ってくれるようになるかなとか考えたが」
「ただ、まだ師匠の考察、悪く言えば妄想の範囲でしかないですね」
「そうなんだけどね。解析したメモとにらめっこして考えついた内容と、最近のヴィルジニーの症状が似てるものだから」
そういえばこの話は、アンジュさんがご自身の考察の下、ヴィルジニーさんが真実を話していると判断したことが重要な要素でしたね。
「魔力は常に体内に留まり続けるものではない。仮に魔法という形で放出しなかったとしても、無意識に少しずつ流出し、循環していく。この辺は君らも知ってるよな?」
「授業で習いますから!それはもう初期も初期に!」
「であればこの洗脳も長くは続かない。いずれは植え付けられた意思も抜け落ちる。その分記憶の欠落が生じるというところまでが、私の考察の全てさ。まったく、全てが当たっているとまでは思わんが、私でもなければわからんぞこんなの」
記憶の欠落が生じる。その症状と、ヴィルジニーさんとシャルロット様の事件の繋がりが根拠となったわけですか。
…………そうなると。
「その魔法に関する情報は、シャルロット様の事件の現場で見つかったとのことですよね?ならば、シャルロット様の身にも……!」
「ん、ああそうだね。彼女の記憶喪失にもなんらかの形でこの魔法が絡んでいると見て間違いは…………あれ?」
「…………今、なんと仰いましたか」
驚愕で開いた口から、なんとか言葉を絞り出す。
シャルロット様が…………記憶喪失。そんな筈はありません。事件の以後も、それまでと同じように……
いや、同じではありません。細部に感じていた違和感が、今の私の行動に繋がっているのですから。
「あーあ。やっぱ話しちまったか。口軽いからいつかこうなるんじゃないかとは思ってたんだがな……」
呆然とした私達の背後から突然声がした。振り返ってみるとそこにいたのは……
「セビーチェン先生!」
「よーセビの字。悪い、バレた」
「バラしたの間違いだろうが」
ヘラヘラと応対するアンジュさんに澄ました顔で突っ込む先生。なるほど、腐れ縁と聞いていた関係性が確かに窺えます。
「薄々こうなる気がして待機してたが正解だったな。バトンタッチだ、こっからは俺が話す。先に言っておくが…………外に漏らしたら容赦しないからな」




