危ない橋を叩いて渡る
「…………プラシドさん、このまま付いていく勇気、ありますか」
猿轡を一瞬だけ外し、プラシドさんの耳元に小声で囁く。プラシドさんは何も言わない。首を横に振ることすらしないのは、彼も悩んでいるということだろうか。
もうすぐ例の脇道を通り過ぎる。選択の時は間近に迫ってきた。
『あ、もしもし蜂須賀さん?今話せます?』
悩んでいたところに、唐突に自称女神からの連絡が入ってきた。
『なんすか女神様。今忙しいんで手短に頼むっすよ』
話している場合ではないのだが、自称女神の表現がどこか引っ掛かり応答することを決めた。
『その近辺で例の魔法が観測されまして。これまでと同じく不発に終わったようですが……なのでそちらの様子を伺おうと』
『…………!』
私を……シャルさんを狙う理由であると思われる世界を繋ぐ魔法。それが観測されたということは、やはりこの移送の目的は。
『今別のところに連れていかれてるとこなんすけど……おそらく行き先で』
『すぐにでも行うつもりでしょうねぇ。シャルさんの時と同じ、完全版の魔法を』
疑惑が確信に変わった。それは是が非でも欲しい情報が側にあるのと同義。
…………腹を括ろうか。
「ブラシドさん、わたくしは行きますからね」
そう囁いた瞬間、プラシドさんの覆面から唯一見える目が大きく見開かれた。
一拍おいて呆れたように目を閉じると、彼は小さく頷いた。この共同戦線を結んだ時のセビーチェン先生が思い出される態度。またしても無理を通してもらったわけだ。
『そうだ蜂須賀さん、もう一つ共有しておきたい事実があります。弟子一号から報告された内容なのですが……』
『まだ何かあるんすか?』
『弟子一号がテオドール少年とコンタクトをとった際、周りのメンバー……ルシエラちゃんといいましたか?が興味深いことを話していたようでしてね』
テオドールと、ルシエラが?確かにあの二人に接点はあるが、しかし行動を共にするような何かがあっただろうか……。あの無邪気な後輩幽霊のことだから、何か暗躍しているのかもしれない。後で問い詰めないと。
というかちゃっかりルシエラをちゃん付けしてなかった?
『興味深いというと?』
『ルシエラちゃんと一緒にいたアンジュなる人物の考察なのですが、犯人一味が利用したと思われる未知の魔法についてで『………………!?ちょっと待つっす自称女神!』
突然左の脇道の扉が開き光が差し込んできたのに気が付き、思わず会話を遮る。
周囲の一味も一斉に音がした方を向き、私は慌てて猿轡をつけ直し目を閉じた。すると、
「……っ!危ない!」
プラシドさんがそう呟き、一気に前に飛び出す。そうして足を踏み込んだ彼の背後では、脇道から投石が弾丸のような勢いで放たれる。
壁に着弾した筈の石が跡形もなく消えているということは……これも魔法?
「な、なんかヤバそうだよ、ほら、さっさと行くよ!」
攻撃によりプラシドさんの前後で分断された一味に雪崩れ込んできたのは、守衛姿のプラシドさんと同じ装備の集団。前にも見た憲兵だろう。
救出に来たんだろうけど、決意した直後にこれは間が悪い…………!




