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元地縛霊が逝く異世界脱出記~入れ替わり令嬢蜂須賀渚~  作者: 茄伊かいん


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暴力にはそこまで抵抗ない

「大丈夫?さっきの以外にも仲間がいるかもよ」

「そうでしょうね……移動される前に助け出さなければ」


 出入口から漏れる光も見えなくなり、先程受け取ったランプの灯りを頼るのみとなった我々二人は脇道から様子を窺っていた。


「ちょっと先に僕だけで偵察してくるよ。ランプ貸して」

「幽霊なのに物を持ったりできるのですか?」

「あのねぇ、それすっごい今更な疑問だよ?このテオドール君人形が目に入らないの?」


 人形を眼前に押し付けながらテオドールさんが言う。確かシャルロット嬢にしか視認できない不便さを少しでも緩和すべくセビーチェンさんが持たせた物。これを扱える時点である程度の干渉は可能とわかる話だった。


 オカルトというのはそうパブリックイメージ通りでもないらしい。


「じゃ行ってくるから待っててよ。もし敵と鉢合わせたら幽霊らしく全力で脅かし「うぎゃぁぁぁぁぁあ!!!!」





「…………前言撤回、偵察とか言ってる場合じゃなさそう」


 漆黒の闇をつんざく女性の叫び声。響きはいささか間抜けだが……もしかしなくともシャルロット嬢の声だ。


「テオドールさん背面は任せます。急いで向かいましょう!」





───────────────────────






「ぎゃあああああ!こっち来んなっす!」



 ただいま絶賛全力疾走中。早い話が、敵に見つかってしまったのである。


 プラシドさんと合流すべく進んでいたところに敵と思われる灯りを視認。やり過ごそうと下水道管の陰に隠れたもののギリギリで見つかり今に至る。


 しかもよりにもよってこいつさっき役得がどうこう言ってた奴だ!いろんな意味でこいつに捕まるのが一番最悪だ!


「お、おらぁ!どうやって抜け出したか知らないがな、人質のクセにつけあがりやがって!」


 なんだか相手から慣れない様子が感じ取れる。しかし追いかけっこも流石に疲れてきた。私にも灯りはあるとはいえ視界は決して良いとは言えず、気が気じゃない。


 せめて多対一にならないよう、元の監禁部屋周辺まで逃げたいところだが。……と、そんなところまで考えたあたりで思い出した。



「…………あ、今の私、魔法が使えるんだった」


 だいぶ慣れてきたとはいえつい最近まで普通の日本人だったわけで、あんまり切羽詰まるとうっかりこの事実を忘れてしまう。


 さっそく追手に向き直り、通路全体を防御壁で塞ぐ。


「ぐおっ!?」


 レオンの時にも使ったけれど、名付けるとしたらハチスカ☆シャッターとかだろうか。


 怯んでしまえばステゴロに不慣れな女子高生でも気合いでなんとかなる。特に今は魔法も運動神経も抜群のシャルさんなのだから。


「ハチスカ☆ニー・バット!」


 胸板に膝蹴りを食らわせ、駄目押しに腹にもう一発。


「うごぇ…………き、聞いてないぞ。こんなことになるとか……」

「…………?」


 呻き声をあげつつ、なにやら気になることを言う追手。


 だが、もはや掴みかかってくることもなくなってきた彼の背後に、もう一つの影が現れた。


「新手!?」

「な、仲間かぁ……?気を付けろ、この人質つよ…………うっ!」



 言い終えることなく、追手はトドメの手刀一発で制圧された。


「ご無事でしたか!いや、なんか心配するだけ無駄だったような気もしていますが」

「なんかこいつ気の毒だねー。やばいの相手にしてさ」

「プラシドさん!それにテオドールも!」


 新手かと思った影はプラシドさんだった。傍らにテオドールがランプを持って浮かんでいる。


「テオドール、なんですそのお人形さん」

「再会したてで聞くことがそれ!?」


 味方に出会えた安心感からか、何故か真っ先にこの質問が出てしまった。


 まあ拐われた人間を助けに突入するシチュエーションでお手々に人形をはめたパ○ットマペット状態だったら気になって当然だと思う。だから許してほしいところだ。




「……ところでお二人とも、呑気に会話している場合ではなさそうですよ」

「いや僕そんなつもりないけど……でもそうだね。人が来そう」


 狭さ故か音が響きやすいこの空間で先程の騒ぎ。流石に気付かれてしまったか、こちらへ向かってくる足音が複数聞こえる。



「わたくしが監禁されていた部屋がすぐそこにありますわ。一度、そこで伸びている敵ごとそちらに逃れましょう」

■ハチスカ☆シャッター

通路全体を防御壁によって塞ぐことで敵の行く手を阻むことが出来る他、不意打ち気味に使うことで相手を怯ませることができる。

■ハチスカ☆ニー・バット

助走を付けて、相手の顔や胸板に跳び膝蹴りをするほぼ魔法無関係の技。渚が戦闘に巻き込まれた時に備え、自称女神が面白半分で伝授したもの。

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