020話
その後すぐ、ドアが破壊されるような激しい音が響き、複数の人間が室内になだれ込んでくる気配がした。
「なんということだ!? 皆の者、急いでエイジスに癒しの魔法を! お使い様、無理に動かないでください! 目も口も開けないでください! 今すぐ癒しの魔法でお体を癒しますので……どうか、そのままで!」
その声は落ち着いてはいたが、緊迫感があり、年配で立場のある人物だとわかる。とりあえず、その言葉に少しだけ頷いて従った。……が、頷くという動作がこの世界でも同意として通じるのかは、ちょっと疑問だ。
ともあれ、この体の持ち主の名前が「エイジス」であることが判明。ひとつ情報が手に入った。
「長様、このまま癒しをかけても効果が薄いかと。一度、清めてからでなければ……」
先ほどの声よりも若い声が、そう口にする。――清める? 汚染か何かで、除染が必要な状態なのか?
「確かに、そのとおりじゃ……お使い様、すぐにお体を清めますゆえ、もうしばらく、じっとしてお待ちくだされ。おい、ウォータースプラッシュでお洗いせよ。丁寧にな、丁寧にやるんだぞ」
どうやら最初の人物は、「長」と呼ばれているらしい。集落か部族の最高責任者か、それに近い立場だろう。そして私のことを「お使い」と呼んでいることから、神(仮)が何らかの手回しをしてくれているのだと察する。
次の瞬間、勢いのある冷水が体に叩きつけられた。名前からして、これは水の魔法――ブシャーッと洗い流す系だろうなと思っていたので、そこまで驚きはしなかった。ただ……冷たい。とにかく冷たい。
そして、気づいた。私が冷たいのだ、と。だから余計に水が冷たく感じるのだ。……まあ、ついさっきまで死んでたんだから、体温が下がっていて当然か。
治療の準備中とはいえ、せめて温水でやってくれないの? ヒート+ウォータースプラッシュで混ぜ湯くらいできそうなのに……と、勝手な期待を抱いてしまう。
冷水による洗浄がしばらく続いた頃、体がカタカタと震え始めた。いや、これ――蘇生直後に冷水ぶっかけて体温下げてどうするよ。
そう思っていたところに、誰かがぶつぶつと呪文のようなものを唱える声が聞こえてきた。次の瞬間、体の芯からじんわりと温かさが広がってきて、だるさや寒さが徐々に和らいでいく。
この作業は何人かが交代で行っているようで、かなりの時間がかかった。けれど、気づけば私は寒さも違和感も、ほとんど感じなくなっていた。……いや、まだ体が濡れているから、多少の冷えは残ってるけど。
「もう大丈夫でございます、お使い様。お体のためとはいえ、無礼なことをしてしまったこと、部族の代表としてお詫び申し上げます。もう、お体を動かしても大丈夫でございます」
そう言われ、ゆっくりと目を開ける。しかし、久しぶりの現実の光源に、目も、あるいは精神もついていかない。私はゆっくりと手を上げて目を覆い、光を遮ることで視覚情報に慣れていこうとした。
やっとまともに見えるようになったとき、私はようやく状況を把握した。
ウッディーな部屋――だが、水浸しでひどいありさまだ。そして、私の周囲には、細身でイケオジとイケメン、そして美女たちが立っていた。
……が、見慣れないものがある。
全員の耳が、横に長く、先端が尖っていた。
「これは……エルフ、か?」
異世界での、最初の言葉だった。




