019話
「んっ……あれ? やっぱり声、違うか……」
あのあと即座に転生作業が行われて、私は一瞬で意識を失い――そして今、この状態になっていた。
何か大げさな装置が現れるわけでもなく、魔法陣のような演出もなし。ましてや数字の流れるトンネルを通るようなSF的な演出もなく、ただ意識を失い、気づいたら――体があった。それだけ。
「それにしても……だるっ。触覚、嗅覚、聴覚は確認……あ、味覚も……うわ、にがっ! なんか、口の中が苦い!」
口を動かした瞬間、妙な苦みに気づいた。それだけじゃない。乾燥しきっているのか、唇が張り付いていて、開こうとすると皮膚が引きはがされるような感覚とともに、ピリッと痛みが走った。少し出血したようで、血の匂いと味がわずかにする。
「はは……血の味、なんだか懐か……あれ? 鉄さびっぽい匂いは同じだけど、味が……ちょっと甘い? えっ、糖尿か、この身体?」
目を開けようとしても、まぶたが同じように張り付いて動かない。これはまずい。口を開けて、なんとか唾液を出し、それを瞼に塗り込んで穏やかに開けようとするが、水分が足りていないのか唾液がなかなか出ない。
「どうにも、私が知ってる“血”とは違うな……それとも、なにか薬品の影響でショック死した名残りなのか……」
本人としては普通に話しているつもりだったけれど、実際には口の動きもうまくいかず、唇はさっきの通りの状態。口内も潤っていないせいで、たぶん外から聞いたら総入れ歯を外したおじいちゃんみたいな発声だったろう。
――なのに、そんなことまで冷静に考えてる私って、どうなんだろう。
そんなことをしていると、聴覚が複数の足音を捉えた。慌ただしく走るドタバタとした足音。
ただそれだけなのに――どれだけ長く、あの無音の空間にいたのかも分からないが――その日常的な音が、妙に心地よく、懐かしく感じられた。




