『迷宮革命』第9話・薬草採取の依頼
この作品では、神話や伝承の偉大なる存在に対しての独自解釈があります。
宗教や信仰への敬意を払いながら描写していますが、エンタメ作品として読んでいただけると幸いです。
冒険者ギルドでの生活にも慣れてきた。
私は掲示板の前に立ち、並べられた依頼書を一枚一枚、興味深く眺めていた。
「薬草採取……ですか」
この依頼には奇妙な点があった。
難易度は低く、安全性は高い。だから報酬も安い。
しかし、大量に依頼が出されている。
新人冒険者の御用達クエストと言えなくもないが、他の依頼を押し退けて掲示板を占有している。
「わざと、でしょうかね」
思わず呟く。
このギルドは、妙に“整いすぎている”。にもかかわらず、ここだけが妙だ。
……まるで、試されているような。
「おーい、何ぶつぶつ言ってんだ?」
隣で腕を組んでいる獣人が、不機嫌そうに顔をしかめる。
「依頼の偏りです。今日も薬草採取とハチミツ採取しかありませんでしたよ」
私は肩をすくめる。
「は?んなもん、いつものことだ」
怪訝な顔をして、獣人が言う。
「ダンジョン攻略には回復薬が必要だろ?」
確かにその通りだ。僧侶による回復は有効だが、『マナ』には限界がある。
だからこそ、冒険者たちはギルドで販売されている回復薬に頼る。
……だが、高い。
一度のダンジョン探索で数本は必要になる。それだけで、数日分の稼ぎが消えることも珍しくない。
「その代金を稼ぐためには、薬草だろうが、ハチミツだろうが採ってこなきゃな!」
もっともだ。だが……
稼ぐために潜る。しかし、潜るために稼がねばならない。
この循環に、私は違和感を覚えていた。
「ふふふ。すべては主の導き……無駄な依頼など存在しませんわ」
私たちのパーティのヒーラーである、天使の女性も話題に加わる。
「薬草の群生地は、既に見つけています。今は確実に、次のダンジョン攻略の準備を整えるべきですわ」
ダンジョン攻略での収入は大きい。モンスターがドロップする魔導核はギルドが買い取ってくれるし、宝箱には金品の他に有用な装備が入っていることもある。
「ええ。今は薬草採取のクエストに集中しましょう」
私は気を取り直して、目の前の依頼に向かうのだった。
◇◇◇
森の奥は、静かだった。湿った土の匂いと、木々のざわめき。
私たちが見つけた、薬草の群生地。
「よしよし。まだ、他の奴らに見つかってないようだな」
獣人が、草を一本引き抜く。私は確認のために依頼書と照らし合わせる。
細長い葉に、淡い光沢。葉脈の走り方も特徴的……間違いないようだ。
「そう言えば、なぜ『薬草』というのでしょう?確かに、他の植物と見た目が違いますけど……」
天使が疑問を口にする。
「『薬』ってことか?じゃあ……食ってみるか!」
止める間もなかった。獣人は躊躇なく、それを口に放り込んだ。
「なっ!?……あなた、正気ですか!?」
口の中で咀嚼しながら、顔をしかめる。
「……くそ、苦ぇな」
獣人の感想。私は思わず頭を抱えた。
「通常、未知の植物は毒性を疑うべきです!段階的な検証を……」
「……あれ?」
獣人が、自分の腕を見つめる。そこには前回のダンジョン探索で付いた傷があったはず……
「先ほどまであった、傷が……」
「それだけじゃねぇ……痛みが引いてる?」
私は、言葉を失う。
「まさか……回復効果……?」
「ほらな。やっぱり『薬』なんだよ!」
いやいや、そういう問題ではない。
「あなたね!いきなり食べるなんて、非効率的で危険な検証方法です!」
「だが、結果としては“正しい”……違うか?」
したり顔の獣人は、まったく悪びれた様子がない。
「やはり……主の思し召しですわ!」
天使が、感極まった様子で祈りを捧げる。
直感的な獣人と敬虔な天使。理解し難い。だけど……
「ふふ……あなたたちは、実に興味深い」
私は思わず、笑いが漏れるのだった。
しかし、その時!草むらが揺れた!
「おーい!」
突然の声に振り向くと、別のパーティがこちらへ歩いてくる。
人間に、フィッツ。そしてドワーフ。
「薬草がこんなに、たくさん……お前らも依頼か?」
薬草の群生地がバレた……まあ、仕方ない。
「ええ。薬草採取です」
「こっちはハチミツ採取だ!」
人間の返答に、フィッツが背中に背負った籠の中身を見せてくれる。
「美味そうだな。少しもらうぞ!」
止める間もなく、獣人がハチミツを食べる。
「ちょっ、あなた!……すみません、ウチのメンバーが……」
私は彼らに謝る。なんで他人の物に手を出すのか!?
「は、はははっ……お腹が空いてたのかな?」
「あああっ、僕たちの依頼品が……」
「おいおい……また採るの、手伝ってもらうからな」
獣人は手を舐めながら、口を開く。
「……不思議だ。疲労感が無くなった」
その言葉に、天使が反応する。
「素晴らしいですわ!きっとこれは、主のお導きです!!」
一瞬、理解ができなかった。しかし……
「……薬草は傷を治し、痛みを和らげる。ハチミツは疲労感を癒し、薬草の苦みを甘みで緩和する」
「……マジか!?」
私が口走ると、人間が声を上げた。
「どういうことでしょう?」
フィッツは首をかしげる。
「ハチミツ採取の依頼書を見せてもらえますか?」
「ああっ!」
私たちの依頼書と人間たちの依頼書を見比べる。
「……やはり。依頼主が同じです……クロノシア公爵?」
「……俺の記憶が確かなら、この世界には貴族なんて居ないはずだぜ?」
ドワーフが謎の公爵を否定する。
「何者かは分かりませんが、この人物は……」
私は確信をもって、みんなに告げる。
「私たちに回復薬の材料を集めさせていたのです!」
人間は、静かに頷く。
「ああ。そして、回復薬は高額で流通している」
ダンジョン攻略に必須の回復薬。それと依頼のカラクリが露わになった。
偶然にしては、出来すぎている。なぜ、ここまで揃っているのか?
言いようのない不気味さに、全員、黙り込んでしまった。
その沈黙を……
「……作ろう。僕たちの手で回復薬を!」
フィッツの声が打ち破った!
「ふはははっ!おめぇ、身体は小っちゃいのに、大胆なんだな!気に入った!」
獣人が笑い出し、フィッツの頭を乱暴に撫でる。
「よし来た!俺が簡易の調合器具を作ってやる!」
ドワーフが、工具を並べ始める。
「主は、“答え”をお与えにはなりません。ですが、“導き”は常にそこにありますわ」
天使は感激し、天に祈りを捧げる。
「お前の仲間たち、最高だな」
不意に人間が、私に囁く。
「ええ。あなたたちも!」
これが冒険者。これがパーティ。
点と点が繋がる。この瞬間のために、私は思考しているのだ。
実に……興味深い!
◇◇◇
魔王城の玉座の間。
優雅にお辞儀をしたパイモン君が報告してくれる。
「我らが魔王様。予想通り、回復薬の売れ行きは、減少傾向にあります」
その表情は悲観ではなく、上機嫌だった。
「どうやら、冒険者たちは『回復薬の作り方』に気づいたようね」
そう。自ら学び、発見する。それが自立を促す。
「……魔王様。もはや彼らに“教えること”は、残っていないのでは?」
教官役でもあるパイモン君は、冒険者たちを誇らしく思っているようだ。
「いよいよね……彼らが本格的に、ダンジョンに挑むのは!」
彼らの旅立ちを、演出してあげなきゃ!
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