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人の書〜エルドラド建国記〜  作者: 水井竜也(仮)
第8章・女騎士アルテミスと統合世界の公爵様

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『迷宮革命』第10話・パーティの旅立ち

この作品では、神話や伝承の偉大なる存在に対しての独自解釈があります。

宗教や信仰への敬意を払いながら描写していますが、エンタメ作品として読んでいただけると幸いです。

 冒険者ギルド本部。簡素なテントから始まった組織は、いつの間にか訓練施設を併設する大きな建物になっていた。


 その前の広場は、いつになく賑わっていた。


 僕は、背伸びをしながら人混みの向こうを覗き込む。


「すごい人だね……」


 つい先日までは冒険者について、よく知らなかった者たち。

 冒険者ギルドが主催する、新人冒険者講習を受けた大勢の同志たちだ。


 僕たちは、待ち望んでいた。


 今日が、“卒業”の日だからだ。


「いよいよ、って感じだな」


 隣で人間が、肩を回しながら言う。


「くそ……ようやくかよ」


 獣人も、どこか落ち着かない様子で地面を蹴っている。


 ドワーフは腕を組み、エルフは静かに周囲を観察していた。


「すべては主の導き……素晴らしい門出ですわ」


 天使は、いつものように微笑んでいる。


 僕は、胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じていた。


 最初は、ただの依頼仲間だった。


 薬草を採って、ハチミツを集めて。


 それだけだったはずなのに。


 気づけば僕たちは、一緒に笑って、一緒に考えて、一緒に進んでいる。


 これが、“パーティ”なんだって、そう思った。


 ◇◇◇


「静粛に!」


 高い声が響いた。


 壇上に立っているのは、ギルドの教官のパイモンさんだ。

 その隣では、バルバトスさんが相変わらずビスケットをかじっている。


「本日をもって、君たちは、冒険者としての基礎課程を修了しました!」


 ざわめきが、ぴたりと止まる。


「これより先は、君たち自身の選択と責任において、進むことになります!」


 その言葉は、不思議と重かった。


 誰かに守られることはない。誰かが答えをくれるわけでもない。


 それでも、僕たちは進む。


「くふふ……ではここで、ギルドマスターより祝辞をいただきます!」


 その一言で、空気が変わった。


 ……ギルドマスター。


 このギルドを作った人物。噂ばかりで、姿を見た者はいない。


 ざわめきが広がる中、一人の人物が壇上に現れた。


 革の防具を着て、髪を結い上げている女性。何処となく高貴な雰囲気が漂う。


「……本日は、お日柄も良く」


 第一声。その声を聞いた瞬間、僕の心臓が大きく跳ねた。


「……え?」


 隣で、人間も息を呑む。


「おい……まさか」


 ドワーフが低く唸る。エルフは、静かに目を細めていた。


 そして、天使は……


「ああっ……主よ」


 うっとりと、呟いた。


 壇上の人物は、淡々と語り続ける。


「あなたたちは、自由になりました」


 静かな声。だけど、不思議と全員に届く。


「誰に従う必要もない。誰に命じられることもない」


 その言葉に、僕は息を飲む。


「だからこそ……その先にある結果は、すべてあなたたち自身のものです」


 空気が、張り詰める。


「進むのも、止まるのも」


 その声は、優しいのに。


「栄光も、敗走も」


 逃げ場がない。


「……さあ、選びなさい!」


 それだけだった。命令でも、強制でもない。


 ただ、委ねられただけ。それなのに……


 僕たちは、理解してしまった。


 この人が、誰なのか。


 ◇◇◇


 祝辞が終わり、ざわめきが戻る。


「……おい、どうしたんだよ」


 人間が、隣の獣人を見た。


「……俺は」


 低い声。獣人は、瞬きすらできずにいた。


 拳を握りしめ、歯を食いしばったまま。


「動けなかった。奴の正体は、すぐに分かった」


 その言葉は、絞り出すようだった。


「あれは、魔王……魔王サティーナだった!」


 悔しそうに、拳を震わせる。


「なのに……身体が、言うことを聞かなかった」


 そうだ。僕たちはギルドマスターが、魔王サティーナであることに気づいた。


 雰囲気は違った。幻術の類かもしれない。だけど、声が……あの『宣戦布告』の時と同じだった。

 周りの冒険者たちは、どうだろうか?大半は気づいてなかったかもしれない。


 沈黙が落ちる。


 恐れ。疑問。混乱。焦り……そして、無力。


「……くそっ!!」


 獣人が吐き捨てる。


「俺は……まだ、弱い」


 その言葉を、誰も笑わなかった。


 だって、僕も同じだったから。魔王を目の前にして、すくんでしまったのだ。


「……ならさ」


 でも、気づけば、僕は口を開いていた。


「強くなればいいよ」


 自分でも、驚くくらい自然に。


「一人じゃ無理でもさ」


 みんなが、僕を見る。


「僕たちがいるじゃないか」


 一瞬の静寂。


「……は、はははっ!」


 人間が笑った。


「そうだな。俺たちはパーティだ!」


 ポンポンと、僕の肩を叩く。


「ふはははっ!言うじゃねぇか、チビ!」


 ドワーフが豪快に笑う。


「……興味深いですね」


 エルフが静かに頷く。


「ふふふ……すべては主の導き」


 天使は、満足そうに微笑む。


 獣人は、しばらく黙っていた。不意に、身体が震える。


「……くっ、くくく。ふはははっ!」


 やがて、笑い始めた。


「おめぇは、いつもそうだ。ウジウジと迷っている俺が、バカみたいに思えてくる!」


 僕は見上げて、獣人の顔を覗き込む。


「“くそ”みたい……ですか?」


 虚を突かれた獣人は、乱暴に僕の頭を撫でる。


「……“くそ”じゃねぇ。悪くない気分だ!」


 その目は、もう迷っていなかった。


 ◇◇◇


 僕たちは、歩き出す。


 同じ方向へ。同じ目的へ。


 だけど……きっと、その意味は一人ひとり違う。


 冒険者ギルドに背を向けた時、大きな音が鳴った。


 それは、色とりどりの花火。


 僕たちの門出を祝うように、空に打ち上がっている。


 振り返るとパイモンさんやバルバトスさん、講師の皆さんが手を振っている。


 もう、怖くなかった。一人じゃないから。


 僕たちは、進む。自分たちで、選ぶために。


 これは『勇者』の物語じゃない。


 選び続ける、僕たちの物語だ。

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