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人の書〜エルドラド建国記〜  作者: 水井竜也(仮)
第8章・女騎士アルテミスと統合世界の公爵様

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『迷宮革命』第7話・冒険者ギルド

この作品では、神話や伝承の偉大なる存在に対しての独自解釈があります。

宗教や信仰への敬意を払いながら描写していますが、エンタメ作品として読んでいただけると幸いです。

「……魔王に、勝てるわけがない」


 人間族の長老は、そう言い切った。


 年老いた声は乾いていて、諦めの色があった。


「『勇者』でさえ、勝てなかったのだ。儂らのような()()()()()に、何ができる?」


 周囲の者たちも、頷くばかりだ。誰も反論しない。


 ……いや、できないのだ。


 魔王サティーナ。あの圧倒的な存在を、遠目に見ただけで理解した。

 あれは、俺たちが、どうこうできる相手じゃない。


 長老は、ゆっくりと俺を見て諭す。


「生き延びることを考えよ……それが、現実じゃ」


 ……現実。


 その言葉が、やけに重く胸に残った。


 魔王サティーナの『宣戦布告』。


 あの日から長老たちは、『勇者召喚の魔法陣』の再稼働の方法や、人間の勇者・アルテミスの行方を探している。


 ふと、両手に残る感触を思い出す。剣を握り、何度も叩き落とされたあの感覚。


 勇者・アルテミスに稽古をつけられた日々。


 勝てないと分かっているのに、あの人は俺たちに剣を教えた。

 何度倒されても、立てと言った。意味なんて、分からなかった。


 なぜ、そんなことを……


 ◇◇◇


 人間族の都は、不安な顔をする者で溢れていた。


 そんな中、広場の中央に、見慣れないものが立っているのに気づく。


 粗末な木の板。そこに、大きく書かれた文字。


 『冒険者ギルド設立』。


「……なんだ、これ」


 近づいてみると、簡素なテントが張られていた。


 中には、帳面を広げて羽ペンを走らせている少年と、ビスケットを食べている男性が椅子に座っている。

 二人とも妙に整った服装をしていて、周囲の空気から明らかに浮いている。


「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへ、ようこそ!」


 先ほどまで仏頂面だった少年が、にこやかに笑った。


「……冒険者、ギルド?」


 聞き慣れない言葉に、思わず眉をひそめる。


「ええ。魔王討伐を目指す方々のための、支援組織です」


 さらりと言ってのける、その口調に、違和感を覚える。


 まるで……それが当たり前であるかのように。


「支援、って……」


「登録制度、依頼の斡旋、報酬の支払い。それに、初心者講習も行います」


 淡々と説明される内容は、どこか現実味がない。


 いや、むしろ逆だ。現実的で合理的すぎるのだ。


 今まで、この世界には、そんな“仕組み”はなかったのに……


「……そんなことして、何になる」


 思わず、疑いの言葉が出る。


 少年は、きょとんとした顔をして、それからクスリと笑った。


「魔王に、挑むのでしょう?」


 当然のように言われて、言葉に詰まる。


 確かに、魔王サティーナに挑まなければ、俺たちは支配されたままだ。

 しかし魔王は強大で、俺たちは……()()()()()だ。『勇者』じゃない。


 その時、後ろから小さな声が聞こえた。


「あの……」


 振り返ると、小柄な身体に尖った耳……フィッツが立っていた。


 不安げに、でもまっすぐに、受付の少年を見ている。


「ぼ、僕も……魔王に挑戦しても、いいんですか?」


 その問いに、思わず息を呑んだ。


 あまりにも無謀で、あまりにも真剣だったからだ。


 少年……ギルドの職員は、にやりと笑った。


「……くふふふ。もちろんです」


 その笑みは優しかった。だが、どこか底知れないものを感じさせる。


「冒険者ギルドは、あなた方を歓迎しますよ」


 フィッツの顔が、ぱっと明るくなる。


「ほ、本当ですか……!」


「ええ。誰であろうと、志がある者は、冒険者になれます」


 その言葉に、胸の奥が強く揺れた。


 誰でも、なれる?俺たち、()()()()()でも?


 ……その時、ふと気づく。アルテミスの言葉を。


 いや、言葉じゃない。あの人は多くを語らなかった。

 だが、剣を交える中で、何かを伝えようとしていた。


 何度倒されても、立てと。諦めるなと。


 ……あれは、戦い方じゃない。


「……選べってことか」


 思わず、呟いていた。


 戦うか、逃げるか。自分で選べと。


 フィッツが、俺を見上げているのに気づく。


「あなたも……冒険者になるんですか?」


 その目は、少し震えていた。


 怖いのだろう。俺だって怖い。でも……


「……ああ、一緒にやろうぜ」


 俺は、頷いていた。自分でも驚くくらい、自然に言葉が出たのだ。


「魔王を倒すんだろ?」


 フィッツは一瞬きょとんとして、それから力強く頷いた。


「はい!僕たちは……『勇者』の子孫ですから!」


 その言葉に、周囲の空気が少し変わる。


 誰もが、どこかで聞いたことのある話。


 勇者の血を引く者たち。


「フィッツの勇者・葛葉が言っていました。僕たちには『力』が眠っている、と」


 俺は、テントの中へ足を踏み入れた。


「……登録、する」


 少年の職員は満足げに頷き、男性の職員は驚いたのかビスケットを落とす。


「こちらに、お名前をどうぞ」


 魔王を倒した歴代の勇者は、住民と同化していった。今では、誰もが『勇者』の子孫だ。


 だけど、勇者の血なんて大層なものじゃない。


 俺は、このフィッツの『勇気』に背中を押された。


 自分の運命は、自分で選ぶのだ、と。


 ◇◇◇


 冒険者ギルドの初めての講習が行われる。


 魔王城の壁面には、エルドラドが、その様子を映してくれる。


 私、サティーナは、静かに見守るのだった。


『では、これから講習を始めます』


 パイモン君の声が、講義室に響く。


『まずは、装備を整えるところからです』


 しかし、周囲はざわめいた。


『装備……?』『剣とか、盾とか?』『魔族の宝物にあるらしいが……』『おいおい、そんなの博物館に飾っているぞ』『どこで買えばいいんだ?』


 その問いに、パイモン君は天を仰ぎ、カメラ目線になる。こっち見んな。


『まずは、基礎訓練しようか……いいよね、パイモン?』


 ビスケットを食べてたバルバトスが提案する。


『……ああ。頼んだよ、バルバトス』


 パイモンの決定に、新人冒険者たちは悲鳴を上げる。


「困ったものね。インフラが整っていたから、鎧鍛冶くらいあると思っていたのだけど……」


 私は、肩をすくめる。


『魔族との争いは全て「勇者」が行っていた。民は戦う術を持たぬ』


 エルドラドも、お手上げといった様子。


『どうするのです、魔王様。冒険者ギルドを作って冒険者たちを、それとなく導く作戦がパーですよ?』


 モニター越しに、パイモン君が語りかけてくる。


 ……装備がない。


 つまり、エルドラドの民には“戦う文化”そのものが存在しない。


「……詰んでるじゃない」


 だが、それでも!


「……なら、作るしかないわね」


 私の頬が、自然と吊り上がる。


「『現実チート』、解禁よ!」

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