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人の書〜エルドラド建国記〜  作者: 水井竜也(仮)
第8章・女騎士アルテミスと統合世界の公爵様

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『迷宮革命』第6話・はじまりの敗北

この作品では、神話や伝承の偉大なる存在に対しての独自解釈があります。

宗教や信仰への敬意を払いながら描写していますが、エンタメ作品として読んでいただけると幸いです。

「はぁっ、はぁっ……くそダセェ」


 ここは魔族の都の外れ、北の塔の中……ダンジョンなんて呼ばれてる場所だ。


 俺は走り疲れて、岩影に蹲る。


「……逃げ回ってばっかじゃねぇか、俺は」


 ふと、脳裏をよぎるのは、前の獣人の勇者・玉藻。


 あいつは強かった。俺ら獣人を力でねじ伏せて、この世界を統一するとか言い出した。バカげている。


 だが、俺の心は躍った。


 ケンカっ早くて、腕っぷしだけは自信があった俺が、あいつの下で戦えるなら……そう思った。


「ははっ……なんで、上手くいかねぇんだ」


 ……でも、もういない。


 魔王に殺されたのか、逃げたのか。それすら分からねぇ。


「魔王……サティーナっ!」


 歯を噛み締める。


 あの日……魔王サティーナが『宣戦布告』をした日。


 あの目だ。あの余裕だ。全部、気に食わねぇ。


 正義か、執着か。そんなのどうでもいい……俺は、あいつをぶっ倒す。


「……だが、このザマだ」


 水晶の回廊。光が反射して、やけに綺麗で……クソみてぇに戦いにくい場所。


 そこに耳障りな音を響かせて、飛び回る奴らがいる。


「ちっ、また来やがった!」


 それは、水晶でできた兵士。今度のは、とびきりデカイ。


「……水晶のゴーレムって奴か!?」


 俺を見つけて、コアが光り出す……あの光線が来る!


 俺は岩影から転がり出る。直後、岩が粉々に砕ける音。


「……この野郎っ!!」


 爪を振るう。


 だが、弾かれた。まるで岩に叩きつけたみてぇに。


 水晶ゴーレムの、鈍重に見える腕が振り下ろされる。


 鈍い痛み。


 壁に叩きつけられ、床に転がる。


 ……ああ、痛てぇ。


 視界が血で滲む。爪はヒビ割れて、肉は裂けている。


「まだ……終われるかよ……!」


 それでも、負けられねぇ。


「魔王を倒す……そのためなら、命だって惜しくない!」


 ……これは、きっと意地だ。


 勇者・玉藻が見せてくれた夢の先を、俺は追い続けているんだ。


 だが、水晶ゴーレムのコアが、ひときわ強く光る。


 もう立っているので精一杯だ。次で終わる……そう直感した。


 そんな時、二つの影が現れる。


「……また、お主か」


 黒い翼の黒いひらひらした服の天使。


「無謀な挑戦は、感心しませんね」


 白い翼の白いひらひらした服の天使。


「どけ……!俺は……!」


 二人の子どもの天使が、俺とゴーレムの間に割って入る。


「黙って見ておれ」


 黒い天使が軽く手を振る。


 それだけで魔力が走り、無数の棘がゴーレムを串刺しにする。


「……終わりです」


 そこへ、白い天使が、静かに手をかざした。


 水の刃が幾重にも重なり、ゴーレムの関節を的確に断ち切る。


 崩れる水晶。巨体が音を立てて沈む。


 ……あっけない。だが、それが現実だ。


 俺は歯を食いしばり、拳を震わせていた。


「なんでだ……俺は……こんなに……!」


 情けねぇ。今回ばかりじゃねぇ。

 何度も、何度も、俺は助けられている。


 黒い天使が、俺を睨む。


「力任せでは、倒せぬ。そのようでは、魔王には届かぬのじゃ!」


 白い天使が、俺に笑いかける。


「仲間を集めるのです。そうすれば、きっと魔王を倒せます!」


 俺の心は、揺れていた。

 悔しさと、迷いと、ほんの僅かな……理解。


「……行くぞ!」「はい、お姉様」


 二人の天使は、それ以上何も言わず、姿を消した。


 俺に残されたのは、敗北と、ひとつの“答え”。


 ◇◇◇


 魔王城の玉座の間。


 私、サティーナは、魔王として双子の天使たちを呼び出していた。


「『権能によって強化された魔法』……使いこなしているみたいじゃない!」


 私の言葉に、双子の天使……フレイとフレイアは顔をほころばせる。


「そうじゃろ、そうじゃろ。儂らにかかれば、習得なぞ造作もないことじゃ!」


 フレイは、自信満々に胸を張る。黒いゴスロリ衣装までもが、ふりふりと揺れて主張する。


「マナの枯渇を防ぎ、威力を底上げする……『権能によって強化された魔法』は、素晴らしい技術ですね」


 フレイアは、控えめに使用感を報告する。白いゴスロリ衣装は揺れは静かだが、その確かな存在感を示す。


 『フレイ』と『フレイア』は、北方の神話における神々であり、双子の兄妹として知られている。


 兄である『フレイ』は、豊かな実りと平和を司る神で、太陽の恵みや大地の繁栄を象徴する存在だ。


 一方、妹の『フレイア』は、愛と美、そして戦と死すらも司る多面的な女神であり、戦場で命を落とした魂の半数を自らの館へ迎え入れるという。


 この神々の名前を受け継いだ天使の姉妹なら、権能の発動条件を満たしている。


 そして『権能によって強化された魔法』も。


「あなたたちの様子を見て、権能の使い方も教えていくつもりよ」


 私の言葉に、フレイとフレイアは目を輝かせる。


「儂らは、もっと強くなれるのか?」


「魔王様。私たち、頑張ります!」


 二人の可愛らしい配下は、やる気に満ちていた。


 ……そこに。


『サティーナよ。先日の「強大な存在」のことについてなのだが……』


 この世界の意思であるエルドラドが、語りかけてきた。


「ああ、そうじゃ!魔王よ。お主、抜けがけしたな?」


「私たちを仲間外れにして、ボス戦をしてたみたいじゃないですか!?」


 双子の天使は異口同音に、不平不満を叫ぶ。


 ボス戦……平将門の呪われた鎧を集めて、召喚した怨霊と対決したことかしら?


「あれは偶発的な戦いだったし、あなたたちはダンジョンで修行中だったでしょ?」


 私の指摘に、フレイとフレイアは納得しつつも、ほおを膨らませる。かわいい。


「あなたたちを信頼してないわけじゃないわ。じゃなければ、()()をお願いしたりはしない」


 実際、彼女らは強い。『権能によって強化された魔法』も数日で習得した。


「……まあ、それならば」「お役に立てているのなら」


 双子は少し、機嫌を直してくれたようだ。


『……ごほん!サティーナよ、「強大な存在」は、まだ残っているようだ』


 話を割り込まれたエルドラドは、わざとらしい咳をして話題を戻す。ごめんて。


「風の聖獣……葛葉様の強化のためのものだと思ったのだけど、平将門の鎧だった」


 それはそれで、和解した将門公に鬼門を守護してもらうことになったから、結果オーライだったけど。


「今度こそ……かもね」


『ああ。「強大な存在」の気配は九つ。はっきりと分かる』


 私とエルドラドは悪巧みをする友達のように笑い、双子の天使は首をかしげる。


 そうだ。()()の報告をしてもらおうかしら。


「……ごほん!それでは、魔王サティーナの配下・フレイとフレイアよ。()()の報告をせよ!」


 私は居住まいを正し、魔王らしい威厳で告げる。


 双子の天使の表情は、ぱっと明るくなり、優雅に礼をしてから述べる。


「うむ。冒険者たちは弱い。戦い方を知らぬ」


 フレイが、肩をすくめながら話す。


「ですが、意志はあります。命を賭ける覚悟も」


 フレイアが、静かに補足する。


 ……なるほど、“弱い”。けれど、“折れてはいない”。


「……エルドラドの民は、やり直せるかも知れない」


 かつて『勇者』に頼りきりだった者たち。


 部外者を『魔族』と呼び、さらに部外者である『勇者』をぶつけて、その財を奪う。


 エルドラドの自己防衛の手段とは言え、この世界ではそれが常識だったのだ。


「特に、知識がなく特攻する者が後を絶たん」


「これでは、()()を遂行できません」


 任務。私は、双子の天使の修行のついでに、無謀な冒険者たちをサポートするようにお願いした。


 同様に冒険者に変装した『ソロモンの72柱の悪魔』にも、ダンジョンを巡回してもらっている。


「……そう。足りないのは、力じゃない」


 エルドラドの民は、勇者の末裔だ。歴代の魔王を打ち倒した者たちの血筋なのだ。


「個の強さに頼るから、無謀になるのじゃ」


「集団で動くことを知らないから、死にかけるのです」


 フレイとフレイアも気づいている。彼らに必要なのは“仕組み”だと。


「それを教えればいい」


 双子が、わずかに目を細める。


「教える……とな?」


「戦い方を、ですか?」


 私は、首を横に振る。玉座の背に体を預け、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「いいえ。“戦い方”じゃない……どうやって強くなるか、その“過程”よ」


 役割分担。情報共有。装備。依頼。報酬。成長。


 点ではなく、線で繋ぐ……そう、それは。


「……私に、いい考えがある!」


 迷宮を“ゲーム”として成立させるための、最後のピース。


 しかし、双子は顔を見合わせる。


「魔王よ、それはフラグでは……?」


「トラブルの予感がします!」


 なぬ!?げせん!!

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