表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人の書〜エルドラド建国記〜  作者: 水井竜也(仮)
第8章・女騎士アルテミスと統合世界の公爵様

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/100

『統合世界』第10話・皇都の守護神

この作品では、神話や伝承の偉大なる存在に対しての独自解釈があります。

宗教や信仰への敬意を払いながら描写していますが、エンタメ作品として読んでいただけると幸いです。

 葛葉様の鬼火が描く北斗七星の陣に、ペルセポネの『冥界の女王』の権能が満ちる。


「主殿、降霊の準備が整いもうした!」


「いつでも大丈夫ですわ!」


 暴れる怨霊の鎧の攻撃を耐える私たちに、葛葉様とペルセポネが告げる。


「……さあ、将門公。どうか、お越しください!」


 鬼火で描かれた陣が光を放つ!


 それは禍々しい瘴気を払う、厳かな光。


 将門の怨霊は、忌々しげに眺めている。


 崩れ落ちるのでもなく、反撃してくる気配もない。ただ、空気だけが張り詰めている。


『なん、だ?……この感覚は!?』


 北斗七星の陣が、ひとつずつ星のように輝く。七つの光が空中で結び、人影を描いた。


 それは鎧とは違う。瘴気でもない。澄みきった霊威だった。


 張りつめた弦のような、しかし、穏やかな力。


「将門公と、お見受けします」


 私は、自然と膝を折っていた。威圧ではない。

 ……格の違いだ。


『……いかにも』


 低く、落ち着いた声が、応えた。


 姿を現したのは、現代の平将門の神霊だった。


『どうやら、古の怨念が、暴れておったようじゃの』


 しかし、鎧のそれとは決定的に違う。怒りではなく、静かな眼差しをしている。


『知らぬ!』


 怨霊が吼える。


『なぜ、そのような姿をしている!なぜ、朝廷の犬に成り下がった!誇りは、どこへやったのだ!?』


 空気が震える。瘴気が、再び噴き上がろうとする。


 しかし、降臨した将門公は動じない。


『犬、か』


 小さく笑う声が、静かに広がる。


『儂は従ったのではない。守る形が変わっただけじゃ』


 瘴気の投槍が宙に浮く。怨霊の鎧が、将門公を睨みつける。


『守る?裏切りを、守りと言うか!』


 放たれる投槍!……しかし将門公の神霊は、それを手で掴み、浄化してしまう!


『裏切りとは、誰の目から見た言葉かの?』


 言葉が、槍よりも鋭く、怨霊を貫く。


 私は、息を呑んだ。


 ……守る形が変わっただけ。


 それは、逃避ではない。諦めでもない。時間を経た者だけが辿り着く、視座。


『……思い出すのじゃ』


 将門公が、鎧へ歩み寄る。


『儂らは、誰のために剣を取った?名か?意地か?それとも……』


 その声は責めない。ただ問いかける。


『従う者たちのため。守るべき土地のためでは、なかったかの』


 瘴気が、揺らぐ。

 鎧の中から、かすれた声が漏れる。


『我は……我は、討たれ、晒され、笑われた……!』


 怨嗟の源。それが怨霊の鎧の根源だと言っていた。


『そうじゃな……だが、その後も、土地は続いた。人は暮らし、子は生まれた。儂らが守ろうとしたものは、消えはせぬ!』


 瘴気の密度が薄れていく。


 私は、気づいた。


 あの鎧は、怒りそのものだと思っていた。でも違う。怒りにしがみついて、自分を保っていただけ。


『儂は、お主じゃ』


 将門公が、鎧の胸に手を当てる。


『新たな都を守護する役目を見つけた、お主の未来の姿なのじゃ』


 鎧の刀が、音もなく床に落ちた。


『……我は……』


 声が、幼子のように震える。


『守りたかった、だけ……だった』


 その瞬間、瘴気が霧散した。爆発も、断末魔もない。


 鎧は空洞となり、崩れ、光に溶ける。


 ◇◇◇


 将門公が、こちらへ向き直る。その眼差しは厳しくも、どこか温かい。


 私は一歩進み、深く頭を下げた。


「此度の失態は、私の責任です。将門公に、このような些事で、お出でいただき……申し訳ありません」


 沈黙が落ちる。


 やがて、低い笑い声。


『かっかっか。些事、か……だが、見事であった』


 顔を上げると、将門公は穏やかに頷いた。


『力でなく、道を選んだ……魔王とやら、名に似合わぬことをする』


 将門公の言葉に、胸が和らいだ。


 確かに、私は力を求めた。だが、鎧の怨霊を鎮め、歴史と和解した……ギリギリだったけど。


「あの、将門公……よろしければ、北東の建立予定の神社に、あの鎧を祀ってもいいでしょうか?」


 図々しくも、私は平将門に、お願いしてみる。

 鬼門の神社に祀る御神体を、まだ決めてなかったのよね。


 虚を突かれた将門公は、一瞬驚いた顔をする。しかし……


『……かっかっか!お主、相当のやり手じゃな!?』


 将門の神霊は、一頻り笑うと息を整えて話し始める。


『……この地、クロノシアと言うたか?』


「はい」


 私は、平将門の目を見て答える。


『……鎧を祀れば儂の力も、この地に届こう。クロノシア領の北東の守護、承った!』


 みんなが歓声を上げる。神霊は目を細めて、その様子を眺める。


「ありがとう……ありがとうございます、将門公!」


 私は、今一度、深く礼をする。


『異郷の地で怨念を止める。その地で再び守護の役目を見つける……縁とは、面白いものよのう』


 その言葉とともに、霊威が空へ昇る。


 後に残ったのは、あの鎧だった。


 禍々しさは消え、誇らしげに光っている……私には、そう見えた。


 長い年月をかけて、怨念は神霊になった。変われるのだ。


 ……だから、きっと人も……私も。

高評価&ブックマークをいただけると、大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ