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人の書〜エルドラド建国記〜  作者: 水井竜也(仮)
第8章・女騎士アルテミスと統合世界の公爵様

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『統合世界』第6話・風の聖獣

この作品では、神話や伝承の偉大なる存在に対しての独自解釈があります。

宗教や信仰への敬意を払いながら描写していますが、エンタメ作品として読んでいただけると幸いです。

 クロノシア領の執務室で、私、サティーナ・フォン・クロノシア公爵は、思案にふけっていた。


 魔王城で聞いた『強大な存在』という言葉が、今も私の思考の中心にある。


 あれは、脅威の警告ではない。むしろ、可能性の提示では?

 強大な存在……それはきっと、葛葉様を、さらに高みへと導く鍵に違いない。


 そう結論づけた私は、公爵として皆を招集した。


 執務室に集ったのは、アルテミス、ペルセポネ、葛葉様、ニョルズ、ルシファー、スカジ。クロノシア領の発展計画を共に担ってくれている、かけがえのない仲間たちだ。


「まずは感謝を。あなたたちの尽力で、クロノシアは日々、発展しているわ。本当にありがとう」


 公爵として、私は頭を下げた。


 アルテミスは治安維持組織『聖剣団』を、ペルセポネは格式高い学舎『ペルセポネ・アカデミー』の設立を。

 葛葉様とルシファーには、鬼門に建立する神社と、裏鬼門に配置する『ルクス・ノクティクス教会』の監督を。

 ニョルズは領主館と領内の宿泊施設の指導、スカジは鉱山の街の整備を担当してもらっている。


 アルテミスが慌てて、姿勢を正す。


「もったいなき御言葉です、サティーナ様!」


 ペルセポネが自信満々に微笑み、葛葉様が頬を赤らめてはにかむ。

 スカジが豪快に笑い、ルシファーは恍惚とした眼差しを向け、ニョルズは穏やかに頷いた。


「まずは、これを見てほしいの」


 私は、クロノシア領の地図を広げる。

 そこには領都と地形、外周部の十二の街などが描かれていた。


「クロノシア領の発展には、『風の聖獣』が必要なのよ」


 唐突な私の宣言に、皆、首を傾げる。


「サティーナ。『風の聖獣』とは、何だ?オレたちの仕事と関係があるのか?」


 スカジが疑問を呈す。


「サティ様。クロノシア領が、四聖獣によって支えられていることは理解してます。ですが『風』とは?」


 ニョルズが確認する。


「我は、陰陽道を習得しつつあるが、クロノシア領は『(マナ)』が循環する良い環境だ」


 ルシファーが引き継ぎ。


「そのために、東側地域の灌漑として青龍川を整備しました。荒地だった自然が回復しつつあります」


 アルテミスが結ぶ。


 ペルセポネと葛葉様は『風の聖獣』という言葉を吟味しているようだった。


 私は、地図を指さして皆に確認する。


「北に山地。東に河川。南に湖水。西に街道。それぞれ、水・木・火・金を象徴し、四聖獣を祀っている」


 玄武、青龍、朱雀、白虎。今は迷宮(ダンジョン)を兼ねる、四つの塔に鎮座している。


 葛葉様が、弟子を採点するように告げる。


「それは確かに、陰陽道の基本的な配置として、理にかなっておりまする」


 ここまでは、おさらい。私は続ける。


「そして中央の領都には、農耕神『サトゥルヌス』の権能を持つ私がいる。土を司る存在として」


 アルテミス、ルシファー、スカジ、ニョルズは驚愕する。


「な、なんだってーーー!?」


 しかし、ペルセポネが口を開く。


「確かに、東洋魔術としては理想的かもしれない。だけど、西洋魔術の『マナ』は枯渇してしまいますわ!」


 西洋魔術の専門家の指摘に、私は頷く。


「問題は、そこなのよ。西洋魔術では、土・水・風・火を四大元素とする。これは物質の状態変化を示すとも言われている」


 私は、窓の外へ視線を向けた。


「今のクロノシアは循環が上手く機能している。でも……『風』の『(マナ)』が弱い」


「『風』ですか?」


 アルテミスは聞き返し、続きを促す。


「『風』は“変化”をもたらす。変化のない都市は、やがて停滞し、廃れるわ」


「な、なんだってーーー!?」


 アルテミスらが、また声を上げる。


 しかし、葛葉様は同意する。


「『(マナ)』の循環は基礎。しかし、循環だけでは閉じてしまいまする」


 ペルセポネが、唇に指を当てる。


「確かに、そうですわ。だから『風の聖獣』ですの?」


 いよいよ、本題に差し掛かった。


「私は、クロノシア領を理想郷としたい。それが神々と領民のためになると信じている」


 その言葉に、皆、同意するように首肯する。


「そのために、新たな聖獣を祀る。その役目を……葛葉様に、お願いしたいのです」


 葛葉様に視線が集まり、葛葉様が確認する。


「主殿、それは理解いたしもうした。しかし、どうやするのでござりますか?」


 みんなの注目が、私に集まる。


「エルドラドは、私たちを召喚した時に、私たちとは別の『強大な存在』を取り込んだらしいの」


 強大な存在……その言葉を聞いた時に、私は葛葉様を思い浮かべた。


「葛葉様には、強大な存在の力を取り込んでいただく。そして、ペルセポネの協力で『風の聖獣』の権能を創り出すのです!」


「な、なんだってーーー!!」


 三度目の絶叫が、執務室に木霊する。


 しかし、ペルセポネは冷静だった。


「でも、その存在が、葛葉様に適合するとは限りませんわ」


 葛葉様も静かに言う。


「……葛葉が、葛葉でなくなるやもしれませぬ」


 その指摘に、胸がわずかに痛む。


「……だからこそ、まずは『強大な存在』の正体を、見極める必要があるわね」


 沈黙が落ちる。執務室には、希望と不安が漂っていた。


 その空気を打ち破るように、葛葉様が懐から小さな石を取り出した。


「そう言えば主殿。葛葉は、これを見つけもうした」


 淡く輝く石。確かな霊気を放っている。


 鼓動が早まる。きっと、これが『強大な存在』


 伝説を封じ込めたという、殺生石!?


「葛葉様、その石をお借りします……『サトゥルヌス』よ!この石の運命を解き明かせ!」


 権能を発動する。運命の糸が視界に広がる。


「説明しよう!サティーナ様は、『サトゥルヌス』様の運命を司る権能を応用し、鑑定ができるのだ!」


 アルテミスが高らかに叫ぶ。


「それは、誰に向けた説明だ?アルテミス」


 突飛な行動を訝しむスカジ。


 権能の光が収束し、情報が形を成す。


 『右の篭手』


「……篭手?思っていたのと違うわね」


 それは皇国風の鎧甲冑の一部としか思えなかった。

 だが、石は確かに、強大な力を宿している。


 ペルセポネが微笑む。


「とりあえず、石を集めてみましょう?」


 葛葉様も目を輝かせて。


「葛葉も、お手伝いいたしまする!」


 『強大な存在』。それが何かは分からない。

 しかし、『変化』がなければ、クロノシア領は将来滅ぶ。

 その『変化』を『強大な存在』が、もたらしてくれるはず。


「……集めましょう!」


 私は決断した。みんな、顔を見合わせて同意してくれる。

 それが、クロノシアに新たな風を呼ぶと信じて。

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