『統合世界』第6話・風の聖獣
この作品では、神話や伝承の偉大なる存在に対しての独自解釈があります。
宗教や信仰への敬意を払いながら描写していますが、エンタメ作品として読んでいただけると幸いです。
クロノシア領の執務室で、私、サティーナ・フォン・クロノシア公爵は、思案にふけっていた。
魔王城で聞いた『強大な存在』という言葉が、今も私の思考の中心にある。
あれは、脅威の警告ではない。むしろ、可能性の提示では?
強大な存在……それはきっと、葛葉様を、さらに高みへと導く鍵に違いない。
そう結論づけた私は、公爵として皆を招集した。
執務室に集ったのは、アルテミス、ペルセポネ、葛葉様、ニョルズ、ルシファー、スカジ。クロノシア領の発展計画を共に担ってくれている、かけがえのない仲間たちだ。
「まずは感謝を。あなたたちの尽力で、クロノシアは日々、発展しているわ。本当にありがとう」
公爵として、私は頭を下げた。
アルテミスは治安維持組織『聖剣団』を、ペルセポネは格式高い学舎『ペルセポネ・アカデミー』の設立を。
葛葉様とルシファーには、鬼門に建立する神社と、裏鬼門に配置する『ルクス・ノクティクス教会』の監督を。
ニョルズは領主館と領内の宿泊施設の指導、スカジは鉱山の街の整備を担当してもらっている。
アルテミスが慌てて、姿勢を正す。
「もったいなき御言葉です、サティーナ様!」
ペルセポネが自信満々に微笑み、葛葉様が頬を赤らめてはにかむ。
スカジが豪快に笑い、ルシファーは恍惚とした眼差しを向け、ニョルズは穏やかに頷いた。
「まずは、これを見てほしいの」
私は、クロノシア領の地図を広げる。
そこには領都と地形、外周部の十二の街などが描かれていた。
「クロノシア領の発展には、『風の聖獣』が必要なのよ」
唐突な私の宣言に、皆、首を傾げる。
「サティーナ。『風の聖獣』とは、何だ?オレたちの仕事と関係があるのか?」
スカジが疑問を呈す。
「サティ様。クロノシア領が、四聖獣によって支えられていることは理解してます。ですが『風』とは?」
ニョルズが確認する。
「我は、陰陽道を習得しつつあるが、クロノシア領は『気』が循環する良い環境だ」
ルシファーが引き継ぎ。
「そのために、東側地域の灌漑として青龍川を整備しました。荒地だった自然が回復しつつあります」
アルテミスが結ぶ。
ペルセポネと葛葉様は『風の聖獣』という言葉を吟味しているようだった。
私は、地図を指さして皆に確認する。
「北に山地。東に河川。南に湖水。西に街道。それぞれ、水・木・火・金を象徴し、四聖獣を祀っている」
玄武、青龍、朱雀、白虎。今は迷宮を兼ねる、四つの塔に鎮座している。
葛葉様が、弟子を採点するように告げる。
「それは確かに、陰陽道の基本的な配置として、理にかなっておりまする」
ここまでは、おさらい。私は続ける。
「そして中央の領都には、農耕神『サトゥルヌス』の権能を持つ私がいる。土を司る存在として」
アルテミス、ルシファー、スカジ、ニョルズは驚愕する。
「な、なんだってーーー!?」
しかし、ペルセポネが口を開く。
「確かに、東洋魔術としては理想的かもしれない。だけど、西洋魔術の『マナ』は枯渇してしまいますわ!」
西洋魔術の専門家の指摘に、私は頷く。
「問題は、そこなのよ。西洋魔術では、土・水・風・火を四大元素とする。これは物質の状態変化を示すとも言われている」
私は、窓の外へ視線を向けた。
「今のクロノシアは循環が上手く機能している。でも……『風』の『気』が弱い」
「『風』ですか?」
アルテミスは聞き返し、続きを促す。
「『風』は“変化”をもたらす。変化のない都市は、やがて停滞し、廃れるわ」
「な、なんだってーーー!?」
アルテミスらが、また声を上げる。
しかし、葛葉様は同意する。
「『気』の循環は基礎。しかし、循環だけでは閉じてしまいまする」
ペルセポネが、唇に指を当てる。
「確かに、そうですわ。だから『風の聖獣』ですの?」
いよいよ、本題に差し掛かった。
「私は、クロノシア領を理想郷としたい。それが神々と領民のためになると信じている」
その言葉に、皆、同意するように首肯する。
「そのために、新たな聖獣を祀る。その役目を……葛葉様に、お願いしたいのです」
葛葉様に視線が集まり、葛葉様が確認する。
「主殿、それは理解いたしもうした。しかし、どうやするのでござりますか?」
みんなの注目が、私に集まる。
「エルドラドは、私たちを召喚した時に、私たちとは別の『強大な存在』を取り込んだらしいの」
強大な存在……その言葉を聞いた時に、私は葛葉様を思い浮かべた。
「葛葉様には、強大な存在の力を取り込んでいただく。そして、ペルセポネの協力で『風の聖獣』の権能を創り出すのです!」
「な、なんだってーーー!!」
三度目の絶叫が、執務室に木霊する。
しかし、ペルセポネは冷静だった。
「でも、その存在が、葛葉様に適合するとは限りませんわ」
葛葉様も静かに言う。
「……葛葉が、葛葉でなくなるやもしれませぬ」
その指摘に、胸がわずかに痛む。
「……だからこそ、まずは『強大な存在』の正体を、見極める必要があるわね」
沈黙が落ちる。執務室には、希望と不安が漂っていた。
その空気を打ち破るように、葛葉様が懐から小さな石を取り出した。
「そう言えば主殿。葛葉は、これを見つけもうした」
淡く輝く石。確かな霊気を放っている。
鼓動が早まる。きっと、これが『強大な存在』
伝説を封じ込めたという、殺生石!?
「葛葉様、その石をお借りします……『サトゥルヌス』よ!この石の運命を解き明かせ!」
権能を発動する。運命の糸が視界に広がる。
「説明しよう!サティーナ様は、『サトゥルヌス』様の運命を司る権能を応用し、鑑定ができるのだ!」
アルテミスが高らかに叫ぶ。
「それは、誰に向けた説明だ?アルテミス」
突飛な行動を訝しむスカジ。
権能の光が収束し、情報が形を成す。
『右の篭手』
「……篭手?思っていたのと違うわね」
それは皇国風の鎧甲冑の一部としか思えなかった。
だが、石は確かに、強大な力を宿している。
ペルセポネが微笑む。
「とりあえず、石を集めてみましょう?」
葛葉様も目を輝かせて。
「葛葉も、お手伝いいたしまする!」
『強大な存在』。それが何かは分からない。
しかし、『変化』がなければ、クロノシア領は将来滅ぶ。
その『変化』を『強大な存在』が、もたらしてくれるはず。
「……集めましょう!」
私は決断した。みんな、顔を見合わせて同意してくれる。
それが、クロノシアに新たな風を呼ぶと信じて。
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