表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人の書〜エルドラド建国記〜  作者: 水井竜也(仮)
第8章・女騎士アルテミスと統合世界の公爵様

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
92/100

『統合世界』第7話・七つの欠片

この作品では、神話や伝承の偉大なる存在に対しての独自解釈があります。

宗教や信仰への敬意を払いながら描写していますが、エンタメ作品として読んでいただけると幸いです。

 私たちは『強大な存在』の手がかりを求め、領内で聞き込みを始めた。


 最初に葛葉様が持ってきた輝く石は、『右の篭手』へと姿を変えた。


 その後も、領民たちが輝く石を持ってきてくれた。


 『左の篭手』『胴当』『草摺』『左の脛当て』『右の脛当て』


 だが、いずれも皇国風の鎧甲冑の部位に変化する。

 ……おかしい。『強大な存在』が“殺生石”ならば、なぜ鎧になるのか? 


 私が首を傾げていると、アルテミスが足早に現れる。


「サティーナ様。新たな石が見つかったようです。発見した領民が応接の間に、いらしています」


 今は、すべての『強大な存在』を集めることが先決ね。


「分かったわ。すぐに向かいましょう」


 ◇◇◇


 応接の間は、王宮の玉座の間を縮小したような造りになっている。元の領主が威光を示すために整えたものを、そのまま使っていた。


 玉座に腰を下ろし、私は告げる。


「我が、クロノシアの領主。サティーナ・フォン・クロノシア公爵である。此度は足労をかけた。どうか楽にして、話を聞かせてほしい」


 領主としての威厳は出しつつ、領民を気遣うって難しいわね。


「は、はい!ありがとうございます、サティーナ様!」


 そこに跪くのは、日焼けした農夫のようだった。

 農夫は頭を下げ、手はわずかに震えていた。


 ……萎縮している。これでは、領主失格ね。


「石の前に、あなたのことを教えてくれないかしら?」


 私は玉座を降り、跪く領民を立たせる。

 アルテミスが「またですか」とでも言いたげな視線を寄越すが、気にしない。


「クロノシアは、まだ発展の途中よ。領民である、あなた方の声が、何より大切なの」


 私の砕けた口調に、農夫は目を瞬かせ、やがて口を開いた。


「私は、朱雀湖の東岸の湿地帯で、稲の試験栽培をしております」


 葛葉様の発案だ。米が食べたい、という願いから始まった事業だったが、稲の面積あたりの収量は高い。成功すれば領の食糧事情は一変する。


「ええ、聞いています。あなた方の尽力で、順調に生育してるとも」


 農夫は照れながら、話を続ける。


「……ですが、新しい作物のために、野生動物たちによる被害が頻発しているのです。穂を食べられたり、泥浴びのために倒されたり……」


 農夫は、おもむろに腕をまくった。


「これは?」


 そこには、深く抉れたような傷跡。


「熊に襲われました。森が近く……作業中に」


「なんと!」


 アルテミスが鋭く反応する。


 農夫は静かに続けた。


「元々、荒地だった所に大規模な農地ができたのです。森は再生しつつありますが、動物たちが暮らしていくには、まだ、十分ではありません」


 自らの傷よりも、森と人の均衡を語る声。


「私たちにできるのは、森と人間との境界を示すことだけです。どうか、領主様の御力で……子どもたちが安心して暮らせる村を!」


 再び跪こうとする彼を、私は止めた。


 自然が甦れば、すべてがうまくいくと、どこかで思っていた。


 自然と人間との共存……言うのは容易い。


 だが、その最前線では、常に力と力がせめぎ合っているのだ。


 そのとき、アルテミスが農夫に歩み寄る。


『人の子よ。我が眷属が無礼を働いた。許してほしい』


 空気が震え、光が満ちる。それは、ただ『権能』が発動したのではない。


 女神『アルテミス』!?


『……あなたの傷を、癒しましょう』


 しかし、農夫は首を振った。


「いいえ。この傷は、『サトゥルヌス』の信徒として戦った証。御言葉だけで十分です」


 女神は、しばし彼を見つめ、やがて頷いた。


『分かりました。勇敢なる信徒よ』


 そして、私に向き直る。


『サティーナ。あなたは良き領民に恵まれましたね』


 私は、女神『アルテミス』に胸を張って答える。


「ええ。クロノシア領は、素敵な人たちばかりよ!」


 私の言葉を聞き、アルテミスは穏やかに微笑む。そして、糸が切れたように倒れ込んだ。


 ◇◇◇


 私は、農夫を見送った。


 アルテミス様のおかげで、女神『アルテミス』様と話すことができた、と満足そうだった。


 私は、都市計画の見直しと、『聖剣団』による巡回の強化を約束した。


 だが、森で暮らしたことがない熊は、森では暮らせない。彼らもまた、森と人間の境界線で揺れている存在なのかも知れない。


 境界を作るのは、排除のためではない。共に生きるため。


 ◇◇◇


 私は、農夫が持ってきてくれた石を鑑定するために、応接の間に、みんなを集める。


 おそらく、これで最後?そんな気がする。


「それにしても、どうして皇国風の鎧甲冑なのでしょう?」


 ニョルズが顎に手を当てる。皆が首を傾げる。


「私の予想が外れたということね。でも、領民と向き合うことができたのは、収穫だったわ!」


「ですが、毎回、玉座を降りるのは、公爵としてどうかと思います」


 アルテミスが釘を差す。


「だけどオレは、そっちの方がサティーナらしいって思うぜ!」


 スカジが反論する。


 その場は、サティーナだからしょうがない、という雰囲気になる。


 気恥ずかしさから、私は、わざとらしい咳払いをする。


「……ごほん!それでは『強大な存在』の正体を確かめるわよ!」


 私は『サトゥルヌス』を讃える言葉を紡ぐ。



「我が守護神『サトゥルヌス』よ!


 かの石の運命を、紐解きたまえ!


 我らの善となるものか、悪となるものか、


 我らに、指し示したまえ!」



 権能の力の発光。輝く石は反応し、形を変えていく。


 光が収束し、形が現れる。それは……


 『兜』


 皇国風の鎧甲冑の部位は、七つ目。


「……これで、鎧一式かしら?」


 私は、苦笑する。拍子抜けして、みんなも笑みが溢れる。


「……仕方ないわね。これは領民との絆の証として、ここに飾っておきましょうか。アルテミス、お願い」


「かしこまりました」


 アルテミスが、兜を持ち上げ、鎧へと近づく。


 そのとき!


「石の発見位置が……北斗七星の並びに!?」


 葛葉様が地図を睨み、叫んだ!


「アルテミス殿!止め……」


「えっ?」


 だが、兜は既に据えられていた。


 カチリ、と不気味な音がする。

 七つの部位が揃った鎧が、低く震えた。


 次の瞬間……鎧の目が、怪しく紅く光った。 

高評価&ブックマークをいただけると、大変励みになります。

関連:『アルテミスの森〜熊に襲われた農夫の話〜』

https://ncode.syosetu.com/n2931lf/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ