『統合世界』第7話・七つの欠片
この作品では、神話や伝承の偉大なる存在に対しての独自解釈があります。
宗教や信仰への敬意を払いながら描写していますが、エンタメ作品として読んでいただけると幸いです。
私たちは『強大な存在』の手がかりを求め、領内で聞き込みを始めた。
最初に葛葉様が持ってきた輝く石は、『右の篭手』へと姿を変えた。
その後も、領民たちが輝く石を持ってきてくれた。
『左の篭手』『胴当』『草摺』『左の脛当て』『右の脛当て』
だが、いずれも皇国風の鎧甲冑の部位に変化する。
……おかしい。『強大な存在』が“殺生石”ならば、なぜ鎧になるのか?
私が首を傾げていると、アルテミスが足早に現れる。
「サティーナ様。新たな石が見つかったようです。発見した領民が応接の間に、いらしています」
今は、すべての『強大な存在』を集めることが先決ね。
「分かったわ。すぐに向かいましょう」
◇◇◇
応接の間は、王宮の玉座の間を縮小したような造りになっている。元の領主が威光を示すために整えたものを、そのまま使っていた。
玉座に腰を下ろし、私は告げる。
「我が、クロノシアの領主。サティーナ・フォン・クロノシア公爵である。此度は足労をかけた。どうか楽にして、話を聞かせてほしい」
領主としての威厳は出しつつ、領民を気遣うって難しいわね。
「は、はい!ありがとうございます、サティーナ様!」
そこに跪くのは、日焼けした農夫のようだった。
農夫は頭を下げ、手はわずかに震えていた。
……萎縮している。これでは、領主失格ね。
「石の前に、あなたのことを教えてくれないかしら?」
私は玉座を降り、跪く領民を立たせる。
アルテミスが「またですか」とでも言いたげな視線を寄越すが、気にしない。
「クロノシアは、まだ発展の途中よ。領民である、あなた方の声が、何より大切なの」
私の砕けた口調に、農夫は目を瞬かせ、やがて口を開いた。
「私は、朱雀湖の東岸の湿地帯で、稲の試験栽培をしております」
葛葉様の発案だ。米が食べたい、という願いから始まった事業だったが、稲の面積あたりの収量は高い。成功すれば領の食糧事情は一変する。
「ええ、聞いています。あなた方の尽力で、順調に生育してるとも」
農夫は照れながら、話を続ける。
「……ですが、新しい作物のために、野生動物たちによる被害が頻発しているのです。穂を食べられたり、泥浴びのために倒されたり……」
農夫は、おもむろに腕をまくった。
「これは?」
そこには、深く抉れたような傷跡。
「熊に襲われました。森が近く……作業中に」
「なんと!」
アルテミスが鋭く反応する。
農夫は静かに続けた。
「元々、荒地だった所に大規模な農地ができたのです。森は再生しつつありますが、動物たちが暮らしていくには、まだ、十分ではありません」
自らの傷よりも、森と人の均衡を語る声。
「私たちにできるのは、森と人間との境界を示すことだけです。どうか、領主様の御力で……子どもたちが安心して暮らせる村を!」
再び跪こうとする彼を、私は止めた。
自然が甦れば、すべてがうまくいくと、どこかで思っていた。
自然と人間との共存……言うのは容易い。
だが、その最前線では、常に力と力がせめぎ合っているのだ。
そのとき、アルテミスが農夫に歩み寄る。
『人の子よ。我が眷属が無礼を働いた。許してほしい』
空気が震え、光が満ちる。それは、ただ『権能』が発動したのではない。
女神『アルテミス』!?
『……あなたの傷を、癒しましょう』
しかし、農夫は首を振った。
「いいえ。この傷は、『サトゥルヌス』の信徒として戦った証。御言葉だけで十分です」
女神は、しばし彼を見つめ、やがて頷いた。
『分かりました。勇敢なる信徒よ』
そして、私に向き直る。
『サティーナ。あなたは良き領民に恵まれましたね』
私は、女神『アルテミス』に胸を張って答える。
「ええ。クロノシア領は、素敵な人たちばかりよ!」
私の言葉を聞き、アルテミスは穏やかに微笑む。そして、糸が切れたように倒れ込んだ。
◇◇◇
私は、農夫を見送った。
アルテミス様のおかげで、女神『アルテミス』様と話すことができた、と満足そうだった。
私は、都市計画の見直しと、『聖剣団』による巡回の強化を約束した。
だが、森で暮らしたことがない熊は、森では暮らせない。彼らもまた、森と人間の境界線で揺れている存在なのかも知れない。
境界を作るのは、排除のためではない。共に生きるため。
◇◇◇
私は、農夫が持ってきてくれた石を鑑定するために、応接の間に、みんなを集める。
おそらく、これで最後?そんな気がする。
「それにしても、どうして皇国風の鎧甲冑なのでしょう?」
ニョルズが顎に手を当てる。皆が首を傾げる。
「私の予想が外れたということね。でも、領民と向き合うことができたのは、収穫だったわ!」
「ですが、毎回、玉座を降りるのは、公爵としてどうかと思います」
アルテミスが釘を差す。
「だけどオレは、そっちの方がサティーナらしいって思うぜ!」
スカジが反論する。
その場は、サティーナだからしょうがない、という雰囲気になる。
気恥ずかしさから、私は、わざとらしい咳払いをする。
「……ごほん!それでは『強大な存在』の正体を確かめるわよ!」
私は『サトゥルヌス』を讃える言葉を紡ぐ。
「我が守護神『サトゥルヌス』よ!
かの石の運命を、紐解きたまえ!
我らの善となるものか、悪となるものか、
我らに、指し示したまえ!」
権能の力の発光。輝く石は反応し、形を変えていく。
光が収束し、形が現れる。それは……
『兜』
皇国風の鎧甲冑の部位は、七つ目。
「……これで、鎧一式かしら?」
私は、苦笑する。拍子抜けして、みんなも笑みが溢れる。
「……仕方ないわね。これは領民との絆の証として、ここに飾っておきましょうか。アルテミス、お願い」
「かしこまりました」
アルテミスが、兜を持ち上げ、鎧へと近づく。
そのとき!
「石の発見位置が……北斗七星の並びに!?」
葛葉様が地図を睨み、叫んだ!
「アルテミス殿!止め……」
「えっ?」
だが、兜は既に据えられていた。
カチリ、と不気味な音がする。
七つの部位が揃った鎧が、低く震えた。
次の瞬間……鎧の目が、怪しく紅く光った。
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関連:『アルテミスの森〜熊に襲われた農夫の話〜』
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