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人の書〜エルドラド建国記〜  作者: 水井竜也(仮)
第8章・女騎士アルテミスと統合世界の公爵様

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『迷宮革命』第5話・温泉秘話

この作品では、神話や伝承の偉大なる存在に対しての独自解釈があります。

宗教や信仰への敬意を払いながら描写していますが、エンタメ作品として読んでいただけると幸いです。

 双子の天使・フレイとフレイアは、魔王こと私、サティーナに勝利した。


 彼女たちは、私に望みを告げる。


「儂らの……」


「望みは……」


 一拍。その言葉が、この世界の秩序を変え得る。



「「 魔 王 様 に 仕 え る こ と 」」



 玉座の間に、奇妙な静寂が落ちる。


「……へっ?」


 思わず、私の間の抜けた声が漏れた。


「いやいやいや!なんで、勝ったあなたたちが、私に仕えるの!?」


 勝負は、私の降参で終わったはずだ。時を止め、運命すら捻じ曲げた私は、ゲームマスターとして難易度設定をミスった。


「儂らは、魔王サティーナに、仕えるのじゃ!」


「そうです。魔王様に仕えるのが、私たちの望みです」


 混乱する私に脇に、双子天使は顔を見合わせて話し合う。


「あれ?魔王様の宣言だと、魔王を倒した者に望みの褒美を与える、ってニュアンスですけど」


「そうじゃ。だから儂らの『魔王に仕える』は有効のはずじゃ!……のう、魔王!」


 急に振られて、理解が追いつかない。


「あ、えっと……確かに、望みは思いのまま、みたいな感じだったけど……」


 勝者の双子天使が、敗者の魔王に仕える。意味が分からない。


 だが、もっと意味が分からないのは、その直後だった。


「サティーナァァ!あの、ちんまい天使どもは、どこだ!!」


 豪快な声と共に、扉が勢いよく開く。現れたのはスカジだ。


「落ち着いてください、スカジさん。魔王城の扉は壊れませんが、威厳は壊れます」


 その後ろには、ニョルズが肩をすくめている。


「威厳なんざ、最初からないだろう?」


「いや、あるわよ!?」


 思わずツッコミを入れてから、私は咳払いをした。


「ごほん……で、二人とも。どうして、そんな血相で?」


 ニョルズが、一歩前に出る。


「サティ様。あの双子の天使ことですが、温泉で出会ったのです」


「あの子たちと……温泉で?」


 あの時の記憶が、じわりと浮かび上がる。


 朱雀湖のほとりの温泉宿。湯気に包まれた夜。

 私は、スカジとニョルズを仲直りさせるために、山と海の中間、すなわち温泉に訪れていた。


 そして、三人で宿泊場で寝た。川の字になって。

 それから翌朝……確かに、お酒が入っていた、だけど……


 私たち三人の他に、五歳くらいの少女二人が、一緒に寝ていた!


 私は……なんだか、怖くなって逃げ帰った!今にして思うと……


 私は、頭痛がする頭を抱えながら、双子を見る。

 黒ゴスロリの姉・フレイは腕を組み、白ゴスロリの妹・フレイアはニコリと微笑む。


 やっぱりだ!あの夜に、彼女たちは温泉にいた!


 ……そう確信した私の脳裏で、思考の歯車が噛み合う。


 ◇◇◇


 北方の神話が成立する以前、偉大なる地母神がいた。


 その名は、女神『ネルトゥス』。


 人々は『ネルトゥス』を信仰し、感謝を捧げていた。


 しかし、時代は移り、神々の神話が立ち上がる。


 古き地母神『ネルトゥス』は、神話に取り込まれるも、そのままの姿では影響力が強い。


 だから、海を司る男神『ニョルズ』として、神話に編纂された。


 つまり『ニョルズ』は元々、『スカジ』と同等以上の女神だった……?


 ……じゃあ、温泉での出来事は?


 女神は、地母神の系譜。肥沃な大地。


 『スカジ』も、もちろん『ネルトゥス』である『ニョルズ』も。


 『サトゥルヌス』は農耕神。大地に種を蒔く。


 ……うそっ!

 つまり、地母神の権能によって、天使のたちは創造された?


 そして、その触媒は……農耕神?


 ◇◇◇


「……ィーナ、サティーナ!!」


 スカジに、肩をゆすられる。


「どうしたんだ?しばらく反応がなかったぞ」


 ……今の思考は、いったい?


「ごめんなさい。少し、考え事をしていて……」


 スカジは、やれやれと溜め息を吐き、双子を見る。


「お前たち、勝手に出歩くなと言ったはずだろう」


 スカジが、額に青筋を立てる。


「かっかっか!戦場に赴くのは、天使の性分じゃ!」


「ごめんなさい。でも、確かめたいことがありまして」


 フレイとフレイアは、悪びた様子がない。


「彼女たちは、親を探している、と言っています」


 ニョルズが、報告してくれる。『親』という単語が引っかかる。


「それから、ボクのことを『ママ』、スカジさんを『母さん』と呼んでいるんです」


 うはっ!これは、マズイ!!


 視線を感じて、双子を見ると、二人と目が合う。気まずい。


 スカジが、首を傾げる。


「そういやサティーナ。あの時、お前だけ先に帰ったよな?」


 ニョルズも、続ける。


「ええ。朝には、もう、お姿がありませんでした」


 私は、一瞬、息を止めた。なぜそこを掘る。


「そ、そうだったかしら?」


 自分でも驚くほど、声が裏返った。


「……とにかく。あの双子は今後、魔王城で保護するわ。私を倒したけど、敵意はない」


 私の宣言を聞き、スカジが笑う。


「はっはっは!面白いではないか!仲間が増えるなら、強い方が良い!」


 同意して、ニョルズも頷く。


「サティ様。クロノシア領での仕事で、ボクは魔王城の手伝いができません。彼女たちの力を借りましょう」


 そうと決まれば、私はフレイとフレイアを鍛える。

 魔王サティーナの、立派な手下として!


「二人とも、勝手に出歩くのは禁止。仕えるなら、まずは規律を覚えなさい」


「分かったのじゃ!」


「はい、魔王様」


 双子は揃って頭を下げた。その仕草は愛らしい。どこまでも無垢だ。


 スカジの目が細まる。


「ほう?勝ったのは、あっちだろう?」


「……細かいことはいいのよ!」


 鋭いツッコミに、私は言い返すのがやっとだった。

 その様子を見た、スカジとニョルズ、フレイとフレイアは、笑い出した。


 なによ、もう!!


 和やかな雰囲気が漂う中、空間が、わずかに震えた。


『サティーナ』


 この世界の意思、エルドラドの思念が語りかけてきたのだ。


「エルドラド。どうしたの?」


 エルドラドは、奥歯に物が挟まったように告げる。


『最後の勇者の召喚時に、我はお前たち以外の、強力な気配を呼び寄せたのだが……それに心当たりはあるか?』


 エルドラドの突飛な話に、困惑する面々。


「強力な……気配!?」


 なぜだろう。葛葉様の後ろ姿が、私の脳裏をよぎった。

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