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人の書〜エルドラド建国記〜  作者: 水井竜也(仮)
第8章・女騎士アルテミスと統合世界の公爵様

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『迷宮革命』第4話・追憶と先見

この作品では、神話や伝承の偉大なる存在に対しての独自解釈があります。

宗教や信仰への敬意を払いながら描写していますが、エンタメ作品として読んでいただけると幸いです。

 双子の天使の魔法陣で、玉座の間全体が埋め尽くされた。


 たまらず、時間を止める。だが……


「これは……範囲、全域……!?」


 魔法陣から放たれる魔弾。その数が異常だった。

 止まった世界の中でさえも、魔弾は隙間なく配置されている。前後左右、上空、足元。回避経路が存在しない。


 時間を動かせば、私は弾幕に呑まれる。


 双子の飽和攻撃。単純な威力ではない。空間そのものを“未来込み”で制圧する術式。私がどう動こうと、どこかで必ず射線に入る。


 そうだ。『時間停止』の唯一の弱点は飽和攻撃。


 だからこそ、四聖獣のオーラを身に纏い、魔法防御を高めたかった。


「時間停止では無理……ならば、やるしかないわね」


 私は、魔弾一つひとつに意識を伸ばす。



「我が信奉を捧げる神『サトゥルヌス』よ!


 我が因果の理に触れることを許したまえ!


 我の身に振りかかる災厄を払い給え!


 かの魔弾の運命を改変する奇跡を!」



 『サトゥルヌス』を、讃える言葉。


 そして、私は因果に触れる。時間ではなく“運命”に。


 魔弾を意識する。軌道。角度。発動点。魔法陣の構造。

 魔弾の“私に当たる未来”を、ほんの少しだけ、ずらす。


「くっ、あぁぁぁぁっ!」


 世界の流れを、わずかに捻じ曲げる。


 それだけなのに、汗が頬を伝う。視界が白む。

 権能の力を急激に吸われているのだ。


「……これで」


 時を、動かす。


 次の瞬間。無数の魔弾が、一斉に解き放たれた。


 だが……


 私に直撃するはずだった一発が、頬をかすめる。背後に迫っていた光が逸れて、柱を撃ち抜く。


 全てが、私を避けていく。


 魔弾の嵐の中心は、静かな凪だった。


「……なっ!?儂らの、奥の手が……」


「こんな未来、見えなかった……」


 双子の瞳が、見開かれる。


 必殺の飽和攻撃を失敗させた反動か、二人はその場にへたり込んだ。

 玉座の間のマナは、ほとんど枯渇している。


 ……だが。


「演技、という可能性もあるわね」


 私は知っている。『権能によって強化された魔法』は本来、マナ不足を補うためのものだった。

 権能を魔力へ変換する術がある以上、戦闘不能とは限らない。


「お姉様、『時間停止』が来ます!」


「くっ、これまでかのぅ」


 私は、再び時間を止めた。拘束のために、双子の背後へ回込もうとする。


 その時!ぞくり、と背筋が冷えた。


 止まった世界の中で。二人の天使の瞳が……


 私を、追っている!?


「……これは!」


 時間は止まっている。雲も、空気も、宙に舞う塵でさえも。


 なのに、二人の視線だけが、ゆっくりと動く。

 黒い姉の右目、白い妹の左目が、怪しく光る。


 見られている。時間の“外”から。その感覚に、胸の奥が軋んだ。


 ……この感覚を、私は知っている!


 ◇◇◇


「うぁぁぁっ!」


 私の手から、訓練用の木刀が弾き飛ばされる。


「ふふふ。休憩にしよう、サティーナ」


 私の兄、クロノス・オブ・イスラエールが言う。


「お兄様は、ズルいですわ!『千里眼』を使うなんて!」


「……いや、今のは純粋に、剣の腕だったのだけど」


 やれやれと、お兄様は肩をすくめる。


 その時、水入りのバケツが二階から落ちてくる。


「……おっと、危ない危ない」


 お兄様の目が怪しく光って、水入りバケツを避ける。


 それは、魔眼『千里眼』の発動。


「こんなトラップを用意してたんだね、サティーナ?」


「あと、ちょっとだったのに!!」


 お兄様は『千里眼』の持ち主だった。


 剣を振る私の動きに、迷いがあれば即座に指摘する。私が踏み込む前に、既に最適な位置に立っている。


 圧倒的な戦闘センスと、未来を読む目。


 だが、稽古が終われば、穏やかな兄だった。

 勤勉で、正しく、誰よりも王に相応しい人。


 ……それが、あの『事件』で。


 ◇◇◇


 ……過去を思い出し、胸が締めつけられる。


 この子たちは、お兄様ではない。だが、似ている。

 二人の目が、時間停止を越えて、私を見ている。


 私は、息を吐いた。


 そして、時間停止を解除する。


「……降参よ」


 私は両手を挙げて、降参の意思を示した。


 双子は、ぽかんと私を見上げた。


「な、なぜですか?」


「まだ、戦えるはずじゃろう!?」


 双子の追求に、私は首を振る。


「いいえ。時間停止に加えて、運命まで捻じ曲げた。これは、難易度設定に問題があった……ゲームマスターとしては、失格ね」


 なんでも有りなら、ゲームではない!私は、盤面ごと書き換えてしまったのだ。

 迷宮の主は、魔王は、与えられたルールの中で戦う存在でなければならない。


 私は、双子を見つめる。


「それで……あなたたちのことを、教えてほしいの」


 一瞬の沈黙。双子の天使は互いの顔を見合わせる。


 やがて、黒い天使が高らかに笑った。


「かっかっか!儂はフレイ!見ての通り、黒ゴスロリ衣装をこよなく愛する天使じゃ!」


 白い天使が、丁寧にお辞儀をする。


「あらためまして、魔王様。私はフレイア。白ゴスロリ衣装を愛している、フレイお姉様の双子の妹です」


 ……緊張感の余韻が、少し崩れる。


「その目は?」


 私の問いに、二人は一瞬だけ視線を交わした。


「儂のは『追憶の瞳』じゃ!儂が過去を視る」


「私は『先見の瞳』です。私が未来を視ます」


 なるほど。『千里眼』ではなかったけど『時間停止』に抗ったのは、やはり魔眼の力だったのね。


 じゃあ、魔王攻略RTAの謎解きをしないと!


「じゃあ、フレイが私の能力を?」


「うむ。過去を見て、お主が時間を止めることを突き止めたのじゃ!」


 小柄なフレイが胸を張る。小柄なのに、胸は……いかんいかん。

 私は咄嗟に目線を、妹の天使に向ける。


「じゃあ、フレイアが未来を?」


「ええ。私は、魔王様の宣言の瞬間を、事前に視ました」


 だから、塔の攻略タイミングも、城への侵入時刻も、正確だった。


 『千里眼』ではない。だが、二人揃えば、過去と未来を繋ぐ。


 今は、マナ頼りの魔法も訓練すれば、『権能によって強化された魔法』を使えるかも知れない。


 フレイとフレイア、北方の神話……温泉での、朝。双子……?


 私は妙な引っかかりを覚えながら、魔王としての職務を果たす。


「それで、あなたたちの望みは?」


 私は双子を見て、問いかける。


 こんなに早く、攻略されるとは思わなかった。

 この子達が望めば、エルドラドを解放し、魔王としての権力を明け渡さなければならない。


 まだ『迷宮革命』……ダンジョンに挑むことによる、住民たちの成長を成し遂げていないのに。


 双子はお互いを見合わせる。


 フレイが、にやりと笑う。


「儂らの……」


 フレイアが、真っ直ぐに私を見る。


「望みは……」


 魔王を追い詰めた、勝者の笑み。

 私は、玉座を降りる覚悟をした。



「「 魔 王 様 に 仕 え る こ と 」」



 玉座の間に、奇妙な静寂が落ちる。


「……へっ?」


 思わず、私の間の抜けた声が漏れた。

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