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人の書〜エルドラド建国記〜  作者: 水井竜也(仮)
第8章・女騎士アルテミスと統合世界の公爵様

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88/100

『迷宮革命』第3話・双子の天使

この作品では、神話や伝承の偉大なる存在に対しての独自解釈があります。

宗教や信仰への敬意を払いながら描写していますが、エンタメ作品として読んでいただけると幸いです。

 ……おかしい。


 玉座に腰掛け、四つの塔へと意識を伸ばした瞬間、私は眉をひそめた。


 玄武。青龍。朱雀。白虎。


 『仲間との絆』を司る私の権能は、本来ならば四聖獣の鼓動を確かに伝えてくるはずだった。遠く離れていようと、塔の上にいようと、手に取るように分かるはず。


 なのに……反応が返ってこない。


「……どういうこと?」


 虚空に問いかける。返事はない。冷たい空気だけが、玉座の間を満たしている。


 その時だった。


「サティーナ!」


 エルドラドの声が、城壁を震わせるほどの緊迫を帯びて響いた。


 反射的に、私は時を止める。世界が、静止する。


 守護神『サトゥルヌス』の時間を司る権能によるものだ。


 見上げた空間に、一本の魔法の矢が固定されていた。私の眉間を、正確に射抜く軌道で。


「……なるほど」


 凍りついた時間の中で身を捻り、矢の軌道から外れる。解除。


 直後、矢は玉座の背後を貫き、爆ぜた。


「やれやれじゃ。今のが『時間停止』ということじゃな?」


 振り向けば、黒いゴスロリ衣装を纏った天使が、腕を組んで立っている。黒翼。金の瞳。小柄な身体に似合わぬ、老獪な声音。


「はい、お姉様。しかし……今がチャンスです!」


 対になるように、白いゴスロリ衣装の天使が、様子をうかがう。白翼。銀の瞳。こちらは素直そうな声色だが、視線は一瞬も私から逸れない。


「もしや……四天王を倒して、ここに!?」


 最終決戦では、四聖獣のオーラを纏うことで、属性魔法を無効化できるはずだった。だが、その気配は未だ戻らない。


 黒い天使が、愉快そうに目を細める。


「そうじゃ。既に迷宮攻略は、始まっているのじゃろ?」


 白い天使が、控えめに笑う。


「ふふふ。あなたが魔王様で、間違いありませんか?」


 ……面白い。正直、冒険者がここに来るまで、しばらくかかると思っていた。


「いかにも、我は魔王サティーナ!可愛らしい冒険者よ、挑戦を認めよう!」


 私の宣言を聞き、双子は同時にマナを練る。空気が震え、玉座の間の燭台が揺れる。


 黒の天使が手を振り下ろした。


「今じゃ!」


 放たれた魔力の茨の矢を、私は横へ跳んで回避する。だが、着地したその先に、白の天使の魔法陣が既に展開されていた。


「お任せを!」


 高速回転する水の刃が、足元から襲ってくる。


「くっ……!」


 再び、時間を止める。


 静止した世界の中で、私は息を整える。避けた先に罠。まるで……


「まるで、私の権能……『時間停止』を知っているみたいね」


 水の刃を避けて、私は後退した。止まっていた時間を共に戻す。


 しかし、二人の天使は、余裕を崩さない。


「私から仕掛けます!」


「よし、きた!」


 今度は白い天使が、高速回転する水の刃を投げつけてくる。


「このっ!」


 私は回避したが、水の刃は空中で弧を描いて追ってくる。


 なぜ、避ける方向が分かる!?


「儂を忘れてもらっては困るぞ?」


 黒い天使の魔力が、私の足元に蔓を這わせている。


 追ってくる水刃、這い寄る蔓。


「時間停止っ!!」


 停止した時間の中で、大勢を整える。


 彼女らは、私が時間停止できることを知っている。どこで知ったのかは疑問だけれど。


 その上で対策を講じている。だが、回避する方向が分かっているような軌道を、あの水の刃は見せた。


 私は、魔法の包囲網を抜け、時間の流れを元に戻す。しかし……


 ズルッ!!


 足裏の感触が、消えた。視界が急転し、天井が見えた。


 ズデンッ!!


 やがて鈍い痛み……私は、転んでいた!?


「しまった!!」


 羞恥で混乱する頭を振る。そうだ、最初の水刃の魔法陣。それから溢れた水で足を滑らせたのだ!


「それを狙っていたのじゃ!」


「さあ!これは、どうですか?」


 既に魔力を練り上げた双子の攻撃をかわすためには、時間停止しかない。


 くっ、何もせずに、時間停止を浪費させられる。


 落ち着け。止まった時間の中で、私は足元を確認しながら、距離を取る。


 ……ひとつ、仮説が浮かぶ。彼女たちは、()()()()()()()()()


 時間停止を解く。彼女たちが玉座の前、私が入り口付近だ。


「……なるほど『魔王の宣言』が終わるのを狙って、この玉座の間に潜んでいたのね」


 宣戦布告の最中、私は全意識を外界へ向けていた。城の内側は、手薄だった。


 黒い天使が頷く。


「さすが魔王、御名答じゃ」


 白い天使が少し肩を竦める。


「タイミングが分かっても、大変でした」


 ……四つの塔を、眷属が配置される前に駆け抜け、四聖獣を倒す。

 魔王の宣戦布告……迷宮攻略ゲームのスタートの瞬間に、魔王城に忍び込む。


 ゲーム開始は、いつか?それが事前に分かっていた?常識では、あり得ない。


 ……そう、つまり!


「あなたたちは、未来が見える……もしかすると、過去も」


 双子は、驚きの表情を見せる……しかしそれは、ほどなく、イタズラがバレた子どもの無邪気な笑いになる。


「かっかっか。さすがは、魔王といったところじゃな?」


「ふふふふ。私たちの秘密を解き明かしてしまうなんて!」


 権能とは違う。そんなこと、時間を司る『サトゥルヌス』の権能にも不可能。


 その力を使って、この子たちは、ここにきた。

 まるで、開始直後のフレームを、正確に撃ち抜かれた気分。


「なんていうか……ゲームのRTAみたいね」


 思わず本音が漏れる。


 最短手順で、最速撃破。無駄を削ぎ落とした攻略。


 黒の天使が、口元を歪める。


「儂らには、叶えたい願いがあってのう」


 白の天使が、静かに続けた。


「魔王様、お覚悟を!」


 双子の周囲に魔力が迸る。空間そのものが軋み、床石に亀裂が走る。


 魔法壁を展開するか?いや、詠唱速度が異常だ。時間停止じゃなければ、間に合わない。


 二人は手を繋ぎ、さらに魔力を加速させる。無数の魔法陣が宙に現れる。それは……神代の歌!?


 嫌な予感が、背筋を這い上がる。


 やがて二人の魔力が、ひとつに収束した。


「……飽和せよ」


 黒。


「……満ちて、零れよ」


 白。


 次の瞬間、玉座の間全体が、魔法陣で埋め尽くされた。


 たまらず、時間を止める。だが……


「これは……範囲、全域……!?」


 魔法陣から放たれる魔弾。その数が異常だった。

 止まった世界の中でさえも、魔弾は隙間なく配置されている。前後左右、上空、足元。回避経路が存在しない。


 時間を動かせば、私は弾幕に呑まれる。


 逃げ場のない破壊力が、停止中であるのにもかかわらず、破滅を告げてくるのだった。

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