『迷宮革命』第2話・勇者制度の終焉
四つの塔に四種類の眷属たちが蠢く。
北には水晶の兵士。東には風光の幻獣。南には灰燼の精霊。西には死霊の騎士。
前三者はエルドラドの産物。最後の一種は、ペルセポネの手配だ。
迷宮は整った。けれど……
「……その前に『宣戦布告』という名のルール説明をしなきゃね」
私、魔王サティーナは、この世界の意思であるエルドラドに語りかける。
「エルドラド。各種族の都の上空に、私の虚像を映してくれるかしら?」
魔王の城が淡く光り、巨大な思念が応答する。
「良かろう」
さあ……魔王を、再開しましょう!
◇◇◇
各種族の都の上空に、虚像が映る。
ここ人間の都でも、漆黒の鎧を着た禍々しい姿を、人々が不安げに見上げる。
「この世界の住人たちよ。我が名は、魔王サティーナ!」
どよめき。ある者は恐れ、ある者は睨みつける。
「諸君らが送り込んだ『勇者パーティー』は、我が前より敗走した。そして我は『この世界』を手中に収めたのだ!」
『勇者パーティー』が敗れた。その衝撃に、へたり込む者もいる。
「……証拠を見せよう!地震!!」
魔王の号令に、エルドラドが身体を震わせる。ただそれだけで、世界に地震が起こった。
人間たちは、パニックに陥る。
この世界は安定していた。そして魔族は、魔王は、勇者によって滅ぼされる。
その価値観を、地震が打ち砕いたのだ!
空に浮く魔王を見つめる、一人の老人。人間族を束ねる族長である。
「……早く、次の『勇者』を召喚せよ!此度の魔王は、更に強大じゃ!」
若者が短く返事をして『勇者召喚』の魔法陣に駆けていく。
次第に大地の揺れが収まる。空には魔王サティーナの笑い声が響く。
「……ふふふ、満足いただけたかな?我はこの世界を『エルドラド』と名付け、支配下に置くことを宣言する!」
「……『エルドラド』?」
族長は思わず、声を漏らす。
名付け、それを自在に操る。
今まで想像していなかった、魔王による世界の掌握。
魔王の眼が光る。族長は心を見透かされた気がした。
「諸君らの事だ、新たな『勇者』を召喚しようとしているな?……『勇者召喚の魔法陣』は『エルドラド』の制御下。つまり、我が手中にある!」
若者が戻ってくる。
「駄目です!魔法陣の輝きが、失われています!」
「なんじゃと!?」
新たな『勇者』は来ない。絶望が辺りを支配する。
「ふはははっ!諸君らは自らの力のみで、我に挑戦し『エルドラド』を奪い返さなければならない!」
魔王サティーナは、声を上げて笑う。
「一人に全てを背負わせ、他を弱者のままにする制度……それが勇者だ」
『勇者』を打倒した強大な魔王。その事実が、今更ながらに人々を恐怖させる。
「……だが、我が城に行き着く前には、結界を破らなければならない!我が配下『魔王四天王』が守護する四つの塔が、結界の発生源だ!」
「……魔王にも匹敵する『魔王四天王』と、四つの塔じゃと?」
各種族の到達点……『勇者』とは、それほどの存在。
最後の『勇者』は、女騎士ながら、卓越した剣の技量を持っていた。
「迷宮や我が城へは『六人までのパーティー』で、挑戦してもらおう!」
若者が、叫ぶ!
「族長!他の種属とも話し合い、一番強い者を『勇者』として送り込みましょう!今度こそ、アイツを倒すのです!」
しかし、人間族の族長は、へたり込む。
「……無理じゃ。お前は『勇者』を、よく知らない。我ら普通の人間が、束になっても勝てない……それが『勇者』じゃ」
その目には涙さえ浮かべ、うわ言のように話す。
「あの女騎士を見ただろう。都の若い者を叩きのめし、剣の稽古を付けていった……彼女ですら、かなわなかったのじゃ」
若者は、両手を見つめる。最後の『勇者』……銀髪の女騎士に、木刀を叩き落とされた痛みを思い出す。
「我に挑戦するも、服従するも、諸君らの自由だ!……我は城にて、諸君らの挑戦を待つ!」
そう言い残し、魔王サティーナの姿が消える。
魔王の宣言は、世界中を駆け回る。
「これは魔王の戯言だ!」
冷静に分析しようとするエルフの学者。
「魔王め!差し違えても、倒す!」
自暴自棄になる獣人の戦士。
「新たな勇者を探せ!」
未だに勇者に縋るドワーフの鍛冶師。
「ふふふ……流石、魔王様」
堕天しつつある天使の司祭。
「勇者じゃなくても、挑めるのか?……僕だって!!」
自分の可能性を信じるフィッツの若者。
◇◇◇
『ルール説明』を終えた私は、玉座に深く腰掛ける。
「……ふふふ、どうだったかしら?エルドラド」
城の壁は脈打ち、世界の意思を私に伝える。
「見事だ、サティーナ」
エルドラドは、深く満足したように応える。
各地の様子を映し出し、住人たちが衝撃に打ちひしがれているのが手に取るように分かる。
「お前、の宣言により、この世、界の全ての住人、たちは理解しただろう。これまでと、は異なる、新たなルール、が課せられ、たことを」
私とエルドラドは、イタズラが成功した子どものように笑う。
「もしかしたら『エルドラド』……黄金郷、理想郷という意味にも、気付く冒険者が現れるかもね?」
私の声に、エルドラドは映像を映し出す。
「……ならば、その時、は望む物を、望む、だけ与えよう」
壁面に映るのは、地下深く眠る鉱脈。過去の魔王たちの時代に、蓄積された財。
……過去に思いを馳せながら、私たちは、しばらく眺めていた。
「……そろそろ、結界を張らなければ、ならないかしら?」
私は『仲間との絆』を司る権能に、力を込める。
玄武。青龍。朱雀。白虎。四つの塔へ、呼びかける。
「……あれ?」
「どうした?サティーナ」
エルドラドが不安そうに聞いてくる。
「……四天王の権能の気配が……消えた……?」




