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人の書〜エルドラド建国記〜  作者: 水井竜也(仮)
第8章・女騎士アルテミスと統合世界の公爵様

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『迷宮革命』第1話・魔王と世界

この作品では、神話や伝承の偉大なる存在に対しての独自解釈があります。

宗教や信仰への敬意を払いながら描写していますが、エンタメ作品として読んでいただけると幸いです。

 魔王城に取り付けられた巨大な鏡が光を放つ。

 私、サティーナは魔王の鎧を着て、転移門である鏡から魔王城に着く。


 魔王城。かつて私が作り上げ、勇者たちを打倒した地。


 その玉座から、私は“世界の意志”に語りかける。


「エルドラド。『魔王』としての活動を始めましょう。力を貸して欲しいの」


 魔王城の壁が輝きだし、空間に思念が満ちる。


 この世界は、生きているのだ!


「……魔王、サティーナよ。お前の、おかげで、“他者”を知った……『友達』を、理解した」


 エルドラドは“捕食者”だった。


 巨大なアメーバ状の身体を持つ、超生命体。

 他の異世界を取り込み、維持のために拡張し続ける存在。


「我は…取り込ま、なければ、崩壊する……と思っていた。彼らには、意志がない。世界と、は、そういうものだと思っ、ていたのだ」


 取り込んだ世界にも人間はいた。最初はエルドラドの内部に住み着いたが、後から取り込まれた者は、住民やエルドラド自体を攻撃してくるようになった。


 エルドラドの独白は続く。


「我、は痛か、った……だ、から、抗体……『勇者』を召喚して、取り込ん、だ者共を倒さ、せた」


 エルドラドは、その方向に進化した。

 『勇者』の記憶を操作し、動機づけのために『欲求』を強化する。

 そして『種属』を作り出し、住民に『勇者』の血を取り込む。


 長い間、それが繰り返されたのが、この世界……エルドラドなのだ。


「私は、それを止めさせようとしている……あなたも、変わりたいのでしょう?」


 その言葉を聞き、堰を切ったように、エルドラドの感情が溢れる。


「あぁ……あぁぁぁっ、すまない……!」


 魔王城の壁面が軋む。空間が歪み、天井が波打つ。


「我は、多くの命を弄んだ……我は、恐怖から、奪い、操り、利用した……!」


 地鳴りが走る。それは怒りではない。自己否定。

 世界そのものが、自らを拒絶し始めている。


「我は、我はぁぁぁ……消え、たほうが……」


「いけない!」


 私は、自らの権能に働きかける。


「私は、英霊級の神格『女王サティーナ』!」


 私の周りに権能の波動が渦巻く。


「『仲間との絆』を司る権能よ、私の想いを伝えなさい!!」


 権能は膨らみ、魔王城を包み込むほどの大きさとなって、世界であるエルドラドに触れる。


「……消える必要はないわ、エルドラド」


 権能の波動が、エルドラドの意思に届く。


「罪を知ったのなら、それはもう捕食者ではない」


 世界の震えが、わずかに弱まる。

 エルドラドが、とつとつと語り始める


「……取り、込むこ、とは呼吸の、ようなものだった。拡、張は本能だ。維持のた、めの代謝だ……彼、らは粒、子に過ぎなか、った」


 世界の声は、怒号でも懺悔でもない。戸惑いだった。


「だが、お前と出、会い、声を知、った。粒子、の一つ一つ、に、輪郭があ、ったと……知、ってし、まった」


 私は手を伸ばして、権能の力を込める。


「……エルドラド。あなたは強大よ。あなたからすれば、私たち人間は、ちっぽけな存在」


 エルドラドに、大きな私の『友達』に届くように、と。


「……でも、あなたは、その声を聞くことができるようになった。それは素晴らしいことなのよ」


 沈黙。長い、長い沈黙。

 意を決したように、世界が話し始める。


「……我は、赦されるのか?」


 私は、ゆっくりと言う。


「赦しは、私が与えるものじゃない……あなたが、自分で選ぶものよ」


 やがて、エルドラドの鼓動が整い始める。


「……あた、たかい。これが、お前の……サティーナ、の力なのか?」


 私は、エルドラドに優しく語りかける。


「あなたは“他者”を知った、私という『友達』を得た。でもそれ以前に、住民たちを守ろうとした……あなたは立派な守護者よ」


「我、が守護、者?」


 私の権能が、再度、エルドラドに触れる。


「……我は、共にあ、りたい」


 その声は、先ほどまでの絶叫とは違った。

 震えてはいる。だが、逃げてはいない。


「もう、奪うので、はなく……共に在、りたい」


 大いなる大地は、決意を新たにする。私は、微笑みかける。


「ええ。住民が生活できるのは、あなたのおかげでもあるわ……だから、もう『勇者』は要らない」


「『勇者』を……や、める? 我、を守、る抗体を……?」


 世界が、困惑する。


「では……我は、どうす、ればいい?」


 しかし、恐怖からは立ち直ったようだ。


「簡単よ!住民を、あなたの“力”にすればいいの」


「……力?」


 私は、力強く宣言する。


「彼らは勇者の末裔。血の中に可能性を持っている。守るとは、閉じ込めることじゃない。立ち向かえるようにすることよ」


 エルドラドは興味深く、続きをうかがっているようだった。


「最後の勇者たちを迎え撃った、四つの塔を使うわ!」


 クロノシア領に、侵入不可能の結界を張るための塔。

 それぞれの最上階に、四聖獣たちが鎮座している。


「四つの塔を攻略したパーティーが、クロノシア領に至り、ここ、魔王の城を目指す。これらを迷宮としてリニューアルするのよ!」


 魔王城の壁は輝き、エルドラドが告げる。


「承、知した。その迷、宮を試練の場、とするのだな?」


 悪巧みをするような、楽しそうな声。


「ええ。そして、私は最後の試練となる!」


 私は、玉座に座り直す。


「勇者の時代は終わりよ、エルドラド。これからは、『冒険者』の時代よ!」


 その宣言を聞き、エルドラドは耳打ちするように囁く。


「……なら、ば、こう、いうのは、ど、うだろうか?」


「ふふふ……それ、良いわね。じゃあ、ペルセポネにお願いして」


 ◇◇◇


 東西南北にある塔に、意思が宿る。

 床や壁に脈動する光が走り、塔の内部構造が組み替わる


 そして、迷宮の最奥。マナが集まり、形を成す。


 北の塔では、土の中から水晶が浮き出て兵士となり、隊列を組む。

 東の塔では、風と陽光が、木々を渡る獣のような幻となる。

 南の塔、火山地帯の熱が踊りだす。それは全てを灰燼と化す精霊のようだ。

 そして、西の塔。古戦場から蘇った、死霊の騎士たちが集結する。


 水晶の兵士、風光の幻獣、灰燼の精霊、死霊の騎士が、迷宮にて冒険者たちを待つ。


 その様子を眺める影が二人。


「何とか間に合いましたね」


「ふぅ、間一髪という所かのぉ?」


 二人は、魔王城を見上げる。


「それでは、行くとしようかの」


「ええ、お姉様」

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