成就
「わ、私はっ…スティーブンが好き!」
言った!
「親戚のお兄ちゃまとして、だけじゃなくてっ! 1人の男性として……愛しているの」
もういっぱいいっぱいだ。
想いが胸からせり上がってきて、喉が押し潰されそうだ。
だけど声を振り絞って、必死で伝えた。
今言えなければ、一生後悔する。
「ずっと昔から優しい兄のような存在で、どんなワガママもきいてくれて、でもあのクマのぬいぐるみを欲しがったせいで、嫌われてしまったと思い込んでいたの。けど、そんな私にスティーブンは変わらず優しくて、頼りになって、かっこ良くて、好きっ…好きなの!」
一気に言い切って、酸欠寸前の呼吸を整えた。
悲しいわけでもないのに、堪えていた涙がじわっと浮かび上がった。
泣くな私、泣くなよ。ここで泣くのは何だかずるくてあざとい。
目をまん丸く見開いているスティーブンを見て、はっとした。
謝らなくちゃ。
謝るために話したかったはずが、ただ自分のいっぱいいっぱいの気持ちをぶつけただけになってしまった。
「あの、それでね、次期子爵を継いでほしいっていうあの話、他に当てがないから仕方なくスティーブンにお願いしたいって、失礼なことを言ってしまったけど、本音は違うの。スティーブンでもいい、じゃなくて、スティーブンがいいの。好きだから。でもお兄ちゃまは私のこと、妹のようにしか見てないって知ってたから、本音を言えなくて。プライドがあって言えなくて……あわよくば、仕方なくの体裁で結婚できればいいなと思っていたの、ごめんなさい……」
ばっと頭を下げた。
「クレア、顔を上げてくれ。謝らなくちゃいけないのは俺の方だ。俺には勿体ないと断ったくせに、今さら後悔して、思いが募って苦しくて、その苦しさを吐き出すだけ吐き出して。いま君が言ってくれたこと、信じられないくらい嬉しいよ」
顔を上げて、スティーブンを見た。
ああ、この優しくて包み込むような眼差し。深い夜のように安心できる。
「俺も勇気を出して、意地を張らずに言うよ。クレア、俺と結婚してほしい。ずっと一緒にいよう。愛している」
堪えきれず、涙がこぼれた。
嬉しいなんて一言で表せないほど嬉しくて、号泣しながら頷いた。
スティーブンに抱き寄せられて、子供をあやすような手つきで背中をさすられた。
ああ、この優しい手、大好き……
大きな背中に手を回して、幸せをぎゅっと抱きしめた。
もう少しこのままで……と願ったとき、勢いよく部屋のドアが開いた。
「何してるのっ、あなたたちっ離れなさい! クレア!」
お母様の姿に、反射的にソファーから飛び上がった。
「クレアっ、お母様は許しませんよ! あなた今の話が本当なら、マークス様の結婚のお申し入れ、受けるに決まってるわよねぇ!?」
しまった、今の話もしかして全部聞かれた!?
ドアの外で聞き耳を立てていたんだろうか。
「ねぇ、スティーブン。あなたも好きな女の幸せを願うなら、クレアのことは諦めてちょうだい。あなたはいい子だけど、ただの警ら隊員だし、釣り合いの取れる相手が他にいるでしょう? ねぇ」
お母様が喚きながらスティーブンの腕を掴んだ。
「ねぇ、スティーブン。ここでハッキリと娘を振ってちょうだい。ねぇったら!」
「やめて、お母様。私はスティーブンと結婚したいの!」
「あんたは黙ってなさいっ。伯爵家から婿取りすれば、生涯お金には困らないわ。マークス様のこと好きでしょう!? 金髪碧眼であんたの好きな王子様顔じゃないの。何が嫌なのよ、贅沢言わないのっ!」
お母様が鬼の形相で叫んだとき、
「やめろ、みっともない」
だみ声が響いた。
開け放しになっていた部屋に入ってきたのは、お父様だった。
領主様に隠居を言い渡され、お母様との言い争いにくたびれたお父様は、長らく自室に引きこもっていたので、顔を合わせるのは久しぶりだ。
顔色が悪く、目の下のたるみが以前より目立っている。老け込んだなと思った。
しかし気迫は十分だ。ぎろっとした目でお母様を睨みつけた。
「あんのクソガキを婿にするなんて、絶対に許さん。私を陥れたのはアイツに決まっとる。あのガキが、私の先祖代々の座を奪い取ろうと画策したんだ。投資詐欺だのをでっち上げてな。罠に嵌められたんだ」
憎々しげにお父様は仰った。
「あのガキの思い通りにはさせん。クレア、お前は信頼できるスティーブンと結婚し、子爵家を存続させてくれ。これは家長命令だ。マリア、反対するなら離婚だ。家を出て行って好きにしろ」
お母様は目を見開いて、パクパクと口を動かして声にならない言葉を発すると、その場にへたりと崩れた。
慌てて使用人が飛んできたが、それよりも早くお母様を支えたのはスティーブンだった。
お母様が落ち着くのを少し待って、スティーブンが言った。
「今は無理でも、いつか認めてくださるよう、精一杯努力します。どうか近くで見ていてください。それが僕たちの励みになります」
ポロポロと子供のように泣き始めたお母様をなだめるスティーブンを見て、私も泣いてしまった。
嬉し泣きだ。




