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勇気の出しどころ

踵を返して、警ら隊の寮を管理する事務所へ向かった。

もうサリーへ遠慮しなくてもいいのだ。堂々と会って、きちんと謝ろう。


しかしスティーブンは非番で外出中だった。

行き先や戻る時間などは教えられないと言われ、近々会いたいという伝言を残して帰宅した。


そして帰るとスティーブンが家にいた。

執事のニコライから「スティーブンさんがお越しになっています、今は奥様と応接間でお話なさっています」と告げられたときには、びっくりした。


長期出張へ行く際にも戻った際にも、お兄ちゃまは訪ねて来てくれたが、毎度すれ違いで会えなかった。

今日も下手をすれば、お兄ちゃまが帰った後に帰宅したかもしれない。

またすれ違いにならなくて良かった。


応接間へ足を運び、お母様に断ってからお兄ちゃまへ挨拶をし、着席した。


「お帰りなさい、クレア。まったくいつもぶらぶらして。いくら足繁くお城へ通ったって、ご令息は公爵の娘と婚約してしまったんだから無駄足よ」


お母様がウェストブルック家と私への不満をグチグチ言うのはいつものことだが、スティーブンの前では勘弁してほしい。


「お母様、わたくしはご令息目当てでお城へ通っていたわけではありません。イチゴ増産プロジェクトを立ち上げた件で、ご令息方と一緒にお仕事をしているんです。と、何度も説明申し上げたはずですが」


確かにトリスタン様のことはファン心理で崇拝していて、密かに心のオアシスにはしていたけれど。


「それに、今日は別のところに用事があって出かけていましたの」


といって、ちらりとスティーブンを見た。

お母様がいると話しにくいなぁ。


「実はスティーブンお兄ちゃまに大事な話があって……お母様、少し2人きりにしてくださいませんか」


なんなら外へ出ていって話したいくらいだが、そこまで秘密裏にすると変に勘繰られそうだし。


お母様の眉がピクリと動いた。癇に障ったときの癖だ。


「なぁに、私がいると話せない大事な話って」


「デイヴィー子爵夫人、僕もクレアと2人きりでしたい話があって参りました。どうか少しだけ、お時間をいただけませんか」


スティーブンが助け舟を出してくれた。

丁寧で真面目なスティーブンの物腰に、お母様も折れた。

「分かったわ、では失礼するわ」と渋々な感じで出て行った。


2人きりになると妙に緊張した。

お久しぶり、と言いかけて思い出した。言葉を交わしてはいないが、リズ姫の初恋大使を選ぶあのコンテストで、お兄ちゃまの姿は見かけていたのだ。


「リハーサル会場で、お兄ちゃまを発見したときには驚いたわ。まさか他領のご令嬢の護衛に任命されているなんて、思いもしなくて。後でトリスタン様から事情を聞いて、さすがお兄ちゃまだわと思ったわ」


「ああうん、俺も……まさか君が出場枠に入ってると思わなくて、驚いたよ。近くに行って話しかけたかったけど、さすがに任務についているときには動けなくてね……」


「それはそうよね。分かってるわ」


久しぶりにお兄ちゃまと顔を突き合わせて、言葉を交わしている。

それだけで、じんとした。

ああ…この声、この眼差し、この話すトーン、滲み出る優しさと生真面目さ。全部好きだと再確認する。


「あの、あのね……大事な話っていうのはね……」


早く本題に入らなくてはと気が焦って、舌がもつれた。

いざとなったら、なんて言いにくいのだ。


「えっと、まずは……手紙に書いた縁談の件、破談になったの」


「うん、それは夫人から聞いた。残念だったね」


スティーブンが穏やかに頷いた。今日のお兄ちゃまは心なしか、いつもより雰囲気が重い。どこか元気がない気がする。


「違うの、全然残念じゃないの。だって、私は…………」


お兄ちゃまが好きなんです。

妹のように、ではなく。

LIKEじゃなくてLOVEな意味で!


言え、言うのよクレア!

今よ、勇気を出して!

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