誤解
そう気付くと居ても立っても居られなくなって、警ら隊の寮へ足が向かっていた。
スティーブンへ一言謝りたい一心だった。
しかし懐かしい建物を目前にして、はたと冷静になった。
約束もなくいきなり押しかけたところで、警ら隊員は出払っている可能性の方が高いし、居たとしても暇にしている訳ではない。
普通に迷惑だろう。
優しいお兄ちゃまはそんなことは言わないけれど。
それに今更、会って謝ったところで何がどうなるというの。
スティーブンお兄ちゃまには、もう恋人がいるのだ。
サリーと仲良くやっている、その邪魔をしてはいけない。
「……どうしたんです? クレア様……」
お供でついてきたグローリアが、警ら隊の寮の門前で立ち尽くす私の背中に声をかけた。
くるりと振り返って言った。
「用がなくなったわ。帰りましょう」
「えっあら、タマーラ?」
グローリアの後ろから、歩いてきた女性が私たちに気付いて目を丸くした。
「前も街中でばったり会ったわね。どうしたの、こんなところで。まさか、また食堂で働きたい……訳ないわよね。タマーラのその格好……もしかして、どこぞのご令嬢?」
サリーは私の身なりを観察し、探るような表情をした。
私もサリー以上に驚いた。ばったり再会したこともだが、サリーと親しそうに腕を組んでいる男性の存在に。
えっ、と……
「そちらはどちら様?」
何でスティーブンじゃないの!?
まさか浮気相手!?
「ああ、紹介するわね。こちら恋人のトビーよ」
サリーは堂々と男性を紹介した。
「えっ何で、恋人って、お兄ちゃ…スティーブンはどうしたの? まさかもう別れて新しい恋人……」
動揺して頭がぐるぐると混乱した。
「スティーブン? 何を言ってるの、タマーラ。タマーラに話したじゃないの。ずっと好きだった警ら隊の人がこの人、トビーよ」
「どうも初めまして、トバイアス・オーツです」
と紹介されたトビーが挨拶をした。
顎が多少いかつくて口の大きい、屈強そうなマッチョだ。
え?え!?えっ!
「サリーが話してた、ずっと好きだった人ってこの人? 警ら隊第3部隊所属で、この前まで長期出張に行ってて、頼りになって有能でって……スティーブンじゃないの!?」
「ねえ、さっきから言ってるスティーブンって、もしかしてスティーヴン・ウェストンのこと? タマーラ、彼のこと知ってるのね」
「よく分からねえけどお嬢さん、俺とスティーブンのこと知ってる感じ? サリーがスティーブンのこと好きなんじゃねえかって、しつこく絡んでからかってたことは、反省してる。サリーのことが好きだから、気を引きたくて嫌な振る舞いをしてたんだ。あの頃の俺は本当にガキだったよ。スティーブンにも嫌な思いさせて悪かった。けどまあ、今は素直になれて、こうしてサリーと幸せにやってる」
トビーがサリーを見て、愛しそうに微笑んだ。
「そうなの。私達が付き合っていることが職場でバレて、居づらくなっちゃったんだけど、トビーが俺の稼ぎで養ってやるから辞めていいって言ってくれて。私、結婚して良い奥さんになるの」
サリーもはにかんだ微笑みを恋人に向けた。
幸せ真っ盛りで見つめ合う恋人たちを呆然と眺めた。
えっなにそれ。えっ、私ったら……盛大な勘違いしてたの!?
サリーの好きな人っててっきりお兄ちゃまだと思っていたのに、まさか誤解だったとは。
ていうかトビーぃぃ!
好きな女子にダル絡みして気を引こうとして失敗して落ち込んでって……小学生男子かよ!
まあ結果オーライで良かった。今の2人が幸せそうで良かった。
でもじゃあお兄ちゃまは……今もフリーってこと??




