気づき
マークス様は、私の判断を尊重する、両親の意見は聞かずに決めてくれと仰った。
話を受けて前へ進める場合のみ、マークス様からお父様へ話をしてくださるそうだ。
「まあ無理にとは言わんが、前向きに検討してくれ。断られても別に遺恨は残らんから、その辺も心配するな」
口は悪いがマークス様は人格者だ。私の立場を理解し、配慮してくださる。ありがたいことだ。
そう、これはとてもありがたいお話だ。
思いがけないことすぎて、すぐに受け止めきれない。
帰宅した頃に現実味が湧いてきた。
領主様のご令息、伯爵家のご次男に求婚されたという現実。
ありえない、本来なら飛び上がって喜ぶような話だ。
社交界での婚活を熱心にしていた頃の私なら、食い気味に快諾したはず。
身のほど知らずの高望みだった当時の私は、伯爵家のご令息を狙っていたのだから。
トリスタン様でもマークス様でもどちらでも良かったが、マークス様はタイプの女性以外には塩対応で、取り付く島がなかった。
トリスタン様は皆に優しかったが、きっちりと線を引いてくる感じで高い壁を感じた。
お2人に全く相手にされず、腐っていた。腹立ち紛れに身分下の令嬢を貶したり、周りに八つ当たりしていたら、すっかり悪評がついてしまった。
そんな私があのマークス様にプロポーズされた――ありえない逆転劇だ。本当にすごいことだ。
もっと喜ぶべきじゃないか。
なのにどうして、こんなにモヤモヤしているのか。
マークス様のことが苦手だから?
苦手……なんだろうか?
確かに昔のイメージはお互い悪かったが、今はきっと改善している。
マークス様は言動は乱暴だが実はお優しくて、面倒見の良いご性格だし、ハッキリ何でも口にされるから、もしかしたらその分付き合いやすいのかもしれない。
それに何といってもあの容姿端麗さ。
幼い頃に憧れた絵本の王子様にそっくりだ。
マークス様の長所を挙げ連ね、これは本当に良い縁談だと実感した。
良いじゃないか、良いじゃないか。
ねえクレア、いったい何が引っかかっているの?
『マークス様は、私のこと嫌いじゃないですか』
そうだ、あの質問。あの直球な質問にマークス様はお答えにならなかった。
好き嫌いの明言は避け、「タイプの女性と結婚したい女性は異なる」とお答えになったのだ。
つまり、私は好みのタイプではないが、政略結婚の相手としては良いと。
「兄と父を生涯支えるため、領内の貴族の跡取りになるのも悪くない」
「工事部門の引き継ぎもスムーズにできる」
「間を抜いて直に上に立った方が良い」
自分の家の都合と、仕事の話ばかりだ。
それが『政略結婚』だと言われればそれまでだが、いくら実質そうだったとしても、少しは個人的な好意を匂わせてほしい。
その点、パーシーは流石だった。
マークス様の話を聞いていると、いかにもお家のため、人生設計のために、仕方なく夫に収まってやってもいいと言わんばかりだ。
実際そうなんだろうけど、もうちょっと色を付けた言い方があるだろうに……
そう考えていると、何かとデジャブした。
あれっこれって……盛大なブーメランなんじゃ……
自分がスティーブンに求婚したときのことがよみがえってきた。
「子爵家を存続させるために急きょ婿が必要だ」
「猶予がなく他に当てがない」
「時間さえあればいい人を見つけられるのに」
やむを得ず、スティーブンに白羽の矢を立てたのだと。
本当はお兄ちゃまが大好きで仕方なかったのに、お兄ちゃまには妹のようにしか見られていないことを知っていたからだ。
本気の告白をして、断られることが嫌だった。
だから、仕方なくお兄ちゃまを指名するという形を取ったのだ。実家の都合を前面に押し出して。
もしかしてお兄ちゃまも今の私のように、複雑な気持ちになったんだろうか。
いくら政略結婚だと言えども、もう少し言い方があるだろうって。
仕方ないから貴方でいいなんて言われて、不愉快に思わない人はいないんじゃないか。
そんな当たり前のことに気付かず、ただ保身のためにあんな言い方をした私に、お兄ちゃまはやっぱり優しかった。
その優しさを当然のように思っていたんだ。
お兄ちゃま、ごめんなさい。私、きっとお兄ちゃまに嫌な思いをさせたよね。




