苦手意識
「クレア様はぁ、トリスタン様からお願いされて? 今回のコンテストに参加されることになったんですかぁ?」
リハーサルの合間に男爵令嬢のフィリスが話しかけてきた。
ゆるゆるウェーブの銀髪をふんわり編み込んで、低い視点から上目遣いで見上げてくる表情は今日もあざと可愛い。
揺らぎのある声質で、語尾が上がったり間延びしたりする話し方が特徴だ。
「ええまあ、そんなところですわ」
「ええ〜、それじゃあ断われないですよう。クレア様のお家のお家騒動?大変だったですもんねぇ。足もとを見られて?ってやつじゃないですかぁ。フィリスも嫌だったんですけどぉ、マークス様が?どうしてもフィリスに出てほしいって、必死で懇願?っていう感じでぇ、だからフィリスはマークス様のお顔を立ててっていう感じ?なんですう。優勝者は決まっているのに、わざわざ恥をかきに来たんですよぉ、どう思いますう?」
ああ、やっぱり駄目だ。私はこの娘が苦手だ。
話を聞いているとどうもいらつく。
しかし急遽出場者になったものの、気持ち的には主催者側である私にとって、フィリスの出場はありがたいことだ。
他の出場予定者がごっそり抜けてしまった今、出てくれるフィリスは貴重だ。動機が何であれ、ありがたい。
なのでいらつきを抑えて、にっこり笑顔で返しておいた。
「立派だと思うわ。結果はどうあれ、出場することに意義があるとわたくしは思っているの。少なくともフィリスさんにはマークス様の1票が入ることは決まっているのだから、羨ましいわ」
そう言うとフィリスは顔つきを変えて、ムッとした様子を隠しもせず離れて行った。
えっ、ちょっ、待てよ。その態度何なん?
もしかして今の、嫌味に聞こえちゃいました?
「マークス様からの1票しか獲得できないわね」という嫌味に聞こえてしまったのかもしれないが、実際フィリスには3票入ることが決まっている。
公爵令嬢が6票、フィリスが3票、スザンナが1票。
私とトリスタン様で話し合って、そう決めた出来レースだ。
だから明日になれば、損ねてしまったフィリスのご機嫌も良くなるだろう。
マークス様からの1票だけではなく、計3票を獲得して、公爵令嬢の次点に着く。そして1票も獲得できなかった私に対し、優越感を感じられるはずだ。
きっと気分がいいはず。
そう、それでいいと本当に思っていたんだ。
元々社交界での評判が悪く、フィリスやスザンナのような愛らしさや爽やかさを持ち合わせていない私だもの。
何もわざわざ自分から頼まなくとも、1票も得られず0票という可能性は大いに有り得るのだ。
だからそれはいい。
だけどスティーブンの目の前で恥をかく予定はなかったのに。
まさか公爵令嬢の護衛に選任されているなんて、知る由もなかった。
あああ神様ってなんて意地悪!
だけどそれもこれも全部、自分が望んで決めたことだ。
せめて誰よりも堂々と胸を張って、真っ直ぐに前を見通して、コンテストの大舞台に立とう。
鼓動よ落ち着け、足よ震えるな。
私は私、それで十分だ。




