リハーサル会場にて
トリスタン様の前では格好をつけたけれど、負けると分かっている戦に赴くのはやはり億劫だ。
コンテスト前日、事前の打ち合わせ――いわゆるリハーサルに臨んだ私は、そこで初めて件の公爵令嬢を拝見した。
国王陛下の甥の娘――ジェニファー・エリザベス・ウッド、14歳。
透き通るような白い肌に、絹糸のようにサラサラの金髪をきっちりと結い上げ、アイスブルーの瞳はどこか憂いをたたえている。
浮世離れた雰囲気があり、なるほど、雪の妖精だと思った。
正直言って、甘ったるい可愛さを前面に押し出したフィリスや、元気で爽やかな春風みたいなスザンナのほうが、苺のイメージがするが、贅沢は言ってられない。
この高貴なご令嬢が『リズ姫の初恋』大使となって、公爵の絶大な権力をもって各方面へ宣伝をしてくれるというなら、とても有り難い。
などと同じ出場者でありながら、審査員目線でこっそり失礼な品定めを胸の内で行っていた私だったが、ある事に気付いた時点でそれどころではなくなった。
えっ!!と思わず二度見してしまった。
ジェニファー嬢には当然、従者がついている。そして領内の貴族令嬢とは違い、この場に自前の護衛も従えている。
嬢のすぐ背後に控えている二人組とは別に、広い会場の隅に立っている者がいる。
あー、あの人もご令嬢が連れてきた護衛なんだなーと最初はぼんやり認識した程度だったが、あることに気付いたのだ。
えっ、ちょっと待って。あれって……スティーブンお兄ちゃま!?!?
すんごく似てるけど、まさかね。警ら隊の制服着てないし、他人の空似?
……なわけない。
私がスティーブンお兄ちゃまを見間違えるわけがない。
あれは絶対本人だ。
そう確信したが、公爵令嬢の護衛として任務に就いているらしきお兄ちゃまに話しかけることも出来ず、ずっと気になりながらもリハーサルを終えた。
その後、トリスタン様に聞いた話によると、先日他領で行われた王族関係の行事に、リズノールから手伝いに行っていた警ら隊の第三部隊の中でも、働きの良かったスティーブンが公爵の目に止まったらしい。
その後イチゴ大使の話を耳にして、娘をコンテストに参加させたいと考えたときに、スティーブンのことを思い出し、現地のガイド役兼の護衛として、直々にご指名があったらしい。
さすがお兄ちゃま!とその話を聞いて思った。
出張先の仕事ぶりで公爵に認められるなんて。どんな仕事でも真面目にコツコツと誠実にこなしている証だ。
「彼ったら有能で〜」とデレデレに惚気ていたサリーをふと思い出し、じくりとした気持ちになった。
そうだ、お兄ちゃまはもうサリーのもの。
だからもう距離を置こうと決意して、会わないようにしていたのに、こんな形でまた顔を合わせるなんて。
正直、ものすごく嫌だ。
スティーブンには見られたくなかった。
明日、私はこのコンテストでぶっちぎりの最下位になる予定なのだ。
トリスタン様を始め、ウェストブルック家とその関係者である審査員は計10名。
そのうち、6票は公爵令嬢へ、3票はフィリスへ、1票はスザンナへ入ることが決まっている。
トリスタン様と話し合って決めたことだ。
トリスタン様は「優勝者はジェニファー嬢とするにしても、次点は3人同票でいいのではないか」(つまり、7:1:1:1)等と「みんな仲良く手を繋いでゴール」的なことを仰っていたが、それでは嘘くさすぎる。
それにフィリスは私に差をつけて勝てるからと、出場を辞退せずに出てくれるのだ。
そのフィリスの面子も立てなくてはいけないし、個人的にスザンナにも1票は投じたい。
だから、「6:3:1:0」という配分にしてほしいとトリスタン様にお願いしたのは私だ。
それで良いと思っている。最下位に据えてほしいと、当て馬に志願したのは私なのだから。
だけど、まさかスティーブンがそれを近くでリアルタイムで見ることになるとは思わなかった。
コンテストの結果を人づてに耳にするくらいはあるかもしれないが、仕事人間のスティーブンのことだから、そういう噂話にも疎いだろうと高を括っていた。




