提案
思い立ったら居ても立っても居られない性分の私だが、1週間の我慢をしてから伯爵家へ出向いた。
やはりトリスタン様へ相談しよう。
この案件に関しての直属の上司的な存在は、トリスタン様だ。
ご体調が悪いかもしれないからといって、勝手に頭1つ飛び越えて上に相談するなんて、失礼極まりないことだと思い直したからだ。
トリスタン様は領民との謁見中だったが、もうじき終わり休憩に入られるという。マークス様もご一緒らしい。
「マークス様がご一緒でも宜しいでしょうか」と取り次ぎの従者に聞かれたので、勿論結構ですと答えた。
案内されたのは、中庭に面したガラス張りのテラス席だった。
以前ここでマークス様に尋問されながら朝食を取ったことを思い出す。
今日はマークス様とトリスタン様が横並びに座っていらっしゃる。
「休憩中失礼いたします」と従者が言い、私も続けて挨拶をした。
「お忙しいところ、わざわざお時間を取っていただいて申し訳ございません」
「別にお前のために休憩を取っているわけではない。元々この時間にはここで休む予定だ」
とマークス様が無愛想に答えたので、
「(大好きな弟君との)憩いの場をお邪魔して申し訳ございません」
と殊勝に応じた。
「兄さん、わざわざそんな言い方をしなくて良いでしょう。せっかくクレアが来てくれたんですから。すまないね、今日はこのあと別の約束があって、今しか時間がなくて」
穏やかな口調でトリスタン様が仰った。
自然にさらりと私の名前をまた呼び捨てに。
「いえっ、こちらこそ急に押しかけまして。トリスタン様、ご体調はもう宜しいのですか?」
「ああ、この前の。もうすっかり良いよ。ありがとう、その節は世話をかけたね」
「いえ、わたくしは何も。あの、それでですね、今日伺ったのは、『リズ姫の初恋』の宣伝方法について、提案がございまして……」
あまり時間がないようなので手短に『イチゴ大使』について説明をすると、トリスタン様は「良いね」と二つ返事で賛同なさった。
「『リズ姫の初恋』を宣伝する役割の美女か。なるほど、確かに美しい女性が宣伝して回れば、華があって良いね。そのイチゴ大使には、貴女を任命しても?」
え!?
そんな話は想定外だ。
「いえ、わたくしは無理です! イチゴ大使には、『リズ姫の初恋』のイメージを背負うに相応しい、純情可憐で可愛らしく、初々しくて瑞々しい女性を。そういう方が適任かと」
私じゃないだろと断言できる。
トリスタン様はキョトンとした表情をなさって、「そうかな」と仰った。
「私はクレアが適任だと思うが。何といっても『リズ姫の初恋』の考案者だし、一番の協力者だ。それに綺麗だ」
ト、トリスタン様……!
社交辞令を額面通りに受け取るべからず、とは分かっているけれど。
トリスタン様から「綺麗だ」を頂けるなんて……あああ!
叫び狂いたい衝動を抑え、理性を働かせばすぐに理解できた。
取って付けたような最後の一言よりも、前半の「なんといっても」の部分にトリスタン様は比重を置いておられる。
このプロジェクトの功労者であるゆえ、私を大使というポストに起用したいとお申し出下さっているのだ。
律義なトリスタン様らしいご発言だ。
「いえ、トリスタン様。考案者だからといって、その役に相応しいとは限りません。もっと相応しい者に宣伝してもらった方が苺が売れます。それにイチゴ大使を選ぶという名目でコンテストを開催すれば、それだけで大きな宣伝効果がございます。話題になりますもの。注目されるチャンスですわ」




