イチゴ大使
マークス様との別れ際、大事なことを言い忘れていたことに気づいた。
「あの、私はトリスタン様のことを、優しくて素直で騙されやすいボンボンだとは思いません。お優しいですが言うべきことはきっちり仰り、冷静な判断力をお持ちのしっかりなさったお方です。さすがウェストブルック家のご令息だと感心いたします。お兄様方から見れば、思わず手を差し伸べたくなる位置にいらっしゃるのでしょうが、私どもからは見上げるほど高いところに咲いている花ですから」
マークス様は意外そうな顔で私をじっと見て、ありがとうと仰った。
マークス様の口から「ありがとう」が聞けるなんて、それこそ意外だった。衝撃だ。
家に戻り、一休みしてから、この度の会合で得た収穫を振り返った。
メモを読み返しながら、あのモデル女性のことをぼんやりと思い出した。
『夜の接待』をしようとしたことはけしからんが、商品を身に着けてアピールしに来たのは、良い宣伝だったと思う。
彼女が着ていたワンピースそのものを、商人が持参していただけであれば、あそこまで注目されなかっただろう。
美しくて雰囲気のあるモデルが着ていたからこそ、皆の目を引いたのだ。
勿論実際にお金を払って入手できるのは「商品」だけなので(トリスタン様は例外として)、物が良くないと話にならないが、まずは興味を引く手段として「モデルを起用する」というのは有効だ。
洋服など身に着けるものは特に、着ているときのイメージを具体化して見せることで購買意欲を高められる。
だからファッションショーは前世でも現世でも人気だ。
これを食品に当てはめてみよう。
『リズ姫の初恋』の購買意欲を高めるためにモデルを起用する?
美しいモデルが『リズ姫の初恋』を食して絶賛コメントをする。
前世であれば、その様子を映して全国へ、いや世界へ配信できるシステムがあったが、この世界では無理だ。そのシステムを構築する技術も頭脳も私にはないし。
この世界で商品を売り込むには、アナログだがやはり行商スタイルとなる。
売りたい地に商品を持参して、宣伝あるのみ。後は口コミで広がればいいな的な。
『王室御用達の最高級イチゴ』というキャッチコピーですでに多大な宣伝効果があると踏んでいたが、王室に献上している特産品は、全国に数多くある。
さらに差別化を図るために、もうひと工夫あったほうが良いだろう。
『リズ姫の初恋』をPRするための美女――イチゴ大使を任命する、というのはどうだろう?
地域の特産品を宣伝する『○○大使』は前世では各地にいた。
ああ、それとゆるキャラだ。
特産品をPRする、梨の妖精や黒い熊などが大人気だった。むしろ商品よりもインパクトがあったような。
ゆるキャラかあ、ゆるキャラなあ。ぬいぐるみを作る技術はこの世界にもあるんだし、作れないことはないだろうけど、ちょっと前衛的すぎるかしら。
着ぐるみ制作に試行錯誤しそうだし。
それならやっぱり『イチゴ大使』かな。
大使になりたい人を募集して、コンテストを開いて任命する。それだけで一大イベントとなり、『リズ姫の初恋』を売り出す前宣伝になる。
苺を王室へ献上する際にも、そのイチゴ大使が同行してPRすれば良い。
うん、我ながらナイスアイディアだわ。
早速トリスタン様に……
いや駄目だ、トリスタン様はご体調がまだおもわしくないかもしれない。余計なことを言って、トリスタン様の負荷を増やしてしまうことになるし。
うーん、マークス様にちらっと相談してみる?




