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身内びいき

適当に座れ、と案内されたマークス様の執務室は、トリスタン様のそれより雑然としていた。机の上には書類が山積みだ。


「で? 用事は何だ」


「あ、はい……次期子爵候補について、確認なのですが。他領の事業家で本業を別に持っている方であれば、その本業を続けても良いのかどうか。トリスタン様にもお聞きして、良いと仰られたのですが」


「良い。他で儲けているなら結構なことだ。その分、税収が増えるしな。せいぜい金持ちを捕まえてくれ」


「はい。あの、それとは別件で……、トリスタン様からお聞きになっていないのなら、私が申し上げることではないかもしれませんが……」


と前置きして、昨夜の商人と女性の話をした。


「なるほど。まあ気にするな」


マークス様はクールに相槌を打った。

私と同じ熱量で憤慨してくれることを期待したのに、拍子抜けだ。

私の不満を察したのか、マークス様はさらに続けて仰った。


「よくある接待の1つだ。いい女を抱かせてやるから、商売に融通をきかせてくれと。ぐうたら強欲親父が好きな賄賂と同じことだ」


「おっ、お父様とトリスタン様を一緒にしないで下さい。失礼です!」


つい声を荒げると、マークス様は面食らった顔をしたあと鼻で嗤った。


「まあな。お前の父親は褒められんが、汚い世の中を渡っていく処世術があったとは言える。トリスタンはな、とにかく綺麗なんだよ」


思わず絶句した。

お父様がどうしようもないこともトリスタン様がとにかくお綺麗なのも、間違いなくそうだけど、こうも堂々と言い切られると。

だって貴方、同じ顔していらっしゃいますし。


「弟は3男ということもあってな、兄や俺ほど期待されず、厳しく教育されなかった。それに弟は、生まれながらに天使のように可愛くてな。それはもう可愛くてな。俺たちが世話を焼きたがって、甘やかしたせいもあるかもしれん。根っから優しく、穏やかで素直な、騙されやすいボンボンといった感じだろう。弟にはなるべくクリーンで綺麗な仕事を、汚れ仕事は俺が引き受けたいと常々思っている。しかし、それが良くないと最近兄に指摘されてな。先回りして小石を拾い、綺麗な道を歩かせるだけでは、トリスタンのためにならないと。小石に対処できるように、あえて放っておいて転ばせることも大事だとさ」


なるほど、「綺麗」というのはそういう意味か。思わぬ方向へ話が向かったが、やはり滲み出る兄弟愛に感嘆した。いい話だなー。

けど、ということは……


「ではもしかして、あの商人と女性を仕込んだのは、マークス様ですか? トリスタン様の『小石に対処するスキル』向上をはかるために」


「んなわけあるか。わざわざ仕込むかよ。ただ、そういうことは世の中に横行しているからな。自力で対処する術を、身をもって勉強する良い機会だったかもしれんなと。兄の考えに基づけばな。俺は全くそう思わんが。くそっ、どこのどいつだった? 逃げ帰りやがって」


結局、憤慨し始めたマークス様は、やはり私と同志だと深く確信した。

トリスタン様を冒涜する者は絶対に許さんマン、だ。

むしろ第一人者だ。トリスタン様が赤ちゃんの頃から可愛がり、愛してきたのだから。良いなー兄弟って。


一人っ子ゆえ、兄弟姉妹に憧れる。

そして私にとって兄的な存在と言えば……スティーブンお兄ちゃまのことを思い出してしまい、胸の空洞が疼いた。


「ああそうだ、それで思い出した。お前の親父が足を突っ込んだ例の投資話だが」


マークス様が話を変えられた。


「あの一件で世間に騒がれて以降、新たな投資者は減り、既存の投資者への配当金は支払われているため、詐欺事件にはなっていないと、前に伝えたな」


「はい」


「異国の農場へ飛ばしていた調査団が戻って来てな。調査団からの報告を元に、詐欺を立証できる見込みがついた。だが向こうもタイミングを把握していたんだろうな。元締めはすでに我が領にはいない。高飛び済だ。やれるだけのことはするが、個人の取り戻せない損失は、手痛い勉強代として胸に刻ませるしかないな」


冷淡に告げるマークス様に、はいと相槌を打った。

愛する弟であるトリスタン様には、小石にも躓いてほしくなくて、先回りして綺麗に道を作るが、他の者には手痛い勉強代もやむを得ないとする、か。

分かりやすい身内主義だが、当然だとも思える。


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