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好きな人の好きな人

翌日、軽い筋肉痛を引きずって出勤した。

2日目ということもあり、昨日よりは手際よく動けている気がする。

たった3日間とはいえ、馬鹿にされたままでたまるかというプライドが頭をもたげ、一所懸命に働いた。


勤務中のサリーとは口をきけない。持ち場が違うため顔を合わせないし、合わせる休憩時には相変わらず皆からハブられている。

ただ今日は責任者のベックリーさんがいて、周囲の空気お構いなしに朗らかに話しかけてくれるせいか、誰も私に対して嫌味も悪口も言わなかった。


4時間の労働と賄いを食べる休憩が終わり、ベックリーさんと事務所に挨拶をして仕事を上がった。

「今週は早上がりの週なの」とサリーは言っていた。もしかしたらまた馬車の駅で待っていたら、会えるかもしれないと期待した。

サリーの先輩や同僚のいる前で話しかけるのは気が引けるが、2人だけならまた話せる。


そう思っていたが、馬車の到着まで待ってもサリーは姿を見せなかった。

次の便は2時間後だ。

どうしたんだろう? まさか私を避けている? いやでも私を避けるためだけに、せっかくの早上がりをわざわざ台無しにするものか?

モヤモヤしながら馬車に乗り、街の茶屋でグローリアと落ち合ってから帰宅した。


その翌日もまた筋肉痛だった。

貴族令嬢として育ってきた肉体に労働は向かない。

見習い期間最終日も一所懸命に働き、自分なりの精一杯は尽くせたと自負できる。

しかし元よりここで本格的に就労する気はなく、申し訳ありませんがと採用は辞退した。

ベックリーさんは大袈裟に残念がってくれたが、見習いが続かないのは慣れたことなのだろう。あっさりと事は運び、事務所で3日間の報酬を受け取った。

正規の報酬の半額で、3日間といっても短い時間だ。手にした金額は少なく、ちょっといいものを食べると1食で無くなってしまう位だったが、私は心から感激した。


私がこの世界で、生まれて初めて自力で稼いだお金!

こんなに特別感があるなんて、予想以上に嬉しい。


茶屋で待っているグローリアに何か甘いものでも奢ってあげようかしら、と少しウキウキしながら馬車を待っていると、


「お疲れさま、タマーラ」と声をかけてきたのはサリーだった。


「サリー! お疲れさま、今日は一緒の帰りなのね」


「ええ。昨日はちょっと色々あって……。タマーラは今日で最後なのね、残念だわ。貴女なら続くと思ったのに」


「やっぱり私には向いてないと思ったの。せっかく励ましてくれたのに、ごめんなさい」


「謝ることじゃないわ。そうね、タマーラならもっと華やかな仕事が向いていそうね。ファッション関係の仕事とか」


ファッション関係の仕事と聞いて思い浮かんだのは、この世界のヒロイン、服飾デザイナーのエノーラだ。

私にとっては鬼門の方角。近寄るべからずだ。


「無理よ、私センスが無いもの」


馬車が到着し、一昨日と同じようにサリーと隣り合って乗り込んだ。

何となく気まずい。

口火を切ったのはサリーだった。


「あのね、一昨日タマーラと話して、私決意したの。好きな人にちゃんと想いを伝えようって」


「えっ!」


びっくりして大きな声が漏れた。


「タマーラが言ったでしょう。もし自分が警ら隊員を好きになったら、周囲を気にしてその気持ちを押し殺すなんて馬鹿らしいって。恐れず、恋を取るって。堂々とそんなことが言えるなんて凄いな、と思ったの。そして羨ましいとも……」


「あ、あのっ、そのサリーの好きな、警ら隊の人って」


「第3隊の人でね、今は出張に出ていて当分戻らないんだけど、戻ってきたら打ち明けようと思うの。ずっと好きでしたって。何度も諦めようとしたけど、無理だった。見ていると胸が苦しくて、恋い焦がれて、無理だと思うのにわずかに期待してしまって……。ウジウジしてる自分が嫌になったの、タマーラを見ていると。だからね、ハッキリ告白して、キッパリ振られることにするわ。ウジウジした状態に決着をつけるの」


くりっとした瞳に強い決意が見える。


「勇気が出たのはタマーラのお陰よ、ありがとう」


こちらこそありがとう、だ。スティーブンお兄ちゃまをずっと好きでいてくれて。勇気を出してくれて。


「サリー、大丈夫よ。その愛の告白は絶対に成功するわ。私が保証する。頑張ってね。お幸せに」



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