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次の目標

隣り合って腰を下ろし、馬車が出発した。


「みんなそんなに悪い人じゃないのよ」とサリーが言った。


「警ら隊の人たちってかっこいいでしょう? でもなかなか知り合う機会はないし。だから警ら隊員目当てでやって来る女性が多いの。でも私、タマーラは違うと思ったわ。隊員目当ての人は接客を希望するのよ。でもまずは雑用を覚えてねって、見習い期間は裏に回されるんだけど。始めから裏方希望で入って来る人って珍しいのよ。裏方に回されても、どうにかして隊員を見ようとウロチョロしたり」


「なるほど……」


私の場合、なるべく警ら隊員に顔を見られたくない事情がある。


「そういう人って結局仕事には熱心じゃないし、すぐ辞めちゃうから。だからみんな新しい人はそういう目で見ちゃうの。でもタマーラはそうじゃないって分かれば、きっと変わるわ」


あー、胸が痛い。励ましてくれるサリーには悪いけど、私の目的は別にあるのだ。


「でも、もし警ら隊員を好きになっちゃったら?」


「え?」


「最初はそれ目的じゃなくても、長く働いていて、それなりに話す間柄になって、他に出会いもなくて、いいなあって思う警ら隊員ができたら? 警ら隊員ってかっこいいものね、好きになってもおかしくないわ」


「それはそうね……好きになっても仕方ないわ」


やはり心当たりがあるようで、サリーの表情が曇った。


「でも、難しいと思うわ……」


「それはやっぱり周りに冷やかされたり、妬まれたりするから?」


今日実際に働いてみて分かった。元警ら隊員のヘンリーは、自分たちが面白おかしく冷やかしたせいだと気に病んでいたが、本当はそれよりもサリーの同僚たちのやっかみが原因では?


あの「警ら隊員に色目を使う女は絶対許さん」感はすごい圧だ。

仲間内で牽制しあって、絶対に抜け駆けを許さない感じ。

あの先輩方や同僚と足並みを揃えるために、サリーはスティーブンと距離を置いたんじゃないだろうか。そんな気がする。


「それって馬鹿らしいわ。せっかく両想いなのに、彼を取らないなんて。もし嫌な目にあわされたら、彼に相談すればいいのよ。優しくて誠実な人よ、きっと力になってくれるわ」


サリーがぽかんとしている。

急に何を言い出したんだコイツはと驚いているのだろう、うん分かる。どうしたコイツって思うのが普通だ。

けどサリーには分かるはず、これはあなたとスティーブンのことだと。


「……え、ええそうね……、もしタマーラがそういうことになったら、それがいいわ」


ぎこちない笑顔でかわされた。


「タマーラは美人だし、性格もハッキリしているからいいわね。タマーラなら大丈夫そうね」


「サリーは? サリーは明らかに両想いの相手でも、周囲に気をつかって諦めちゃうの? もったいない。相手も可哀想だわ」


「私はそんな相手いないもの……ちょっといいなと思う人がいても、向こうがどう思ってるかなんて確信がないわ。はっきり分からないことに自信は持てないわ。そういう性分なの。ただの勘違いかもしれないし……」


やっとサリーの本音に触れることができた。


「じゃあ確信が持てればいいのね?」


「え?」


「相手が、好きですって告白すれば間違いないものね。両想いだと確信できるわね」


これだわ、スティーブンお兄ちゃま。

サリーは確信したがっている。


それとなく『良い雰囲気』なだけでは、都合のいい勘違いかもしれないと自制してしまう。

それで周囲から妬まれては割りに合わないもの。

だからここはスティーブンお兄ちゃまが、ちゃんと告白すればいいのだ。ちゃんと言葉で。

そして周りの嫉妬や悪意から、サリーをしっかりと守ってあげればいい。


スティーブンお兄ちゃまなら、きっとそれが出来る。

よしお兄ちゃまが出張から帰って来たら、サリーへの告白を焚き付けよう。

次の目標が出来た。


微妙な空気になり、サリーは言葉少なになったが、まもなくして馬車の停留場に着いた。

お疲れさまと言い合ってサリーと別れ、メイドのグローリアが待っている個室茶屋へ向かった。

ここでグローリアと落ち合って、身だしなみを整えたあと、辻馬車で家へ帰る。


「クレア様っ、お帰りなさいませっ! いかがでしたか、潜入ルポルタージュの初日は。良い体験手記が書けそうですか?」


グローリアの発するイキイキとしたテンションに当てられて、さらにぐったりとした気持ちになった。


「ええ、まずまずよ。とにかく疲れたわ」


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