割り切った結婚
「そ、その人は駄目ですわ、お母様っ。ブルジョワなどと言っても所詮平民ですし、下品な野心家の、卑しい成り上がりですわ」
実際のパーシーは、野心家ではあるが真っ当な好青年だ。
しかしパーシーの運命の相手は私ではなく、エノーラだと知っている。
私は2人の運命的な恋の障壁であり、より燃え上がらせるための燃焼材に過ぎない。
そんなものに宛てがわれてたまるか!
「でもねぇ、クレア。その辺の貴族よりよっぽどお金持ちらしいのよ。なんてったって、結納金を相場の5倍用意できるらしいのよ。素敵じゃない」
お母様の言葉に目を剥いた。
そこぉ!?
結局お金!!
今まで散々他の候補者に「身分が」「家格が」「肩書が」「品性が」と言ってきたのは何だったのだ。
うんうん、確かに結納金が相場の5倍は魅力的だ。
でもパーシーだけは駄目!
パーシーとエノーラは私の人生の鬼門なのだから。
「でもお母様っ…」
「会ってみるだけ! ハーマンの顔を立てると思って、ね。ハーマンのお友達で仕事で関わりがあるって言うじゃないの。ハーマンから話を持ちかけておいて、断らせるなんて出来ないでしょう? 失礼すぎるわ」
そう言われると、確かに。
ハーマンというのが遠方に住む私の従兄弟で、ハーマンからパーシーに話を持ちかけたのだから。
会いもせずに断ったら、ハーマンの面目が丸潰れだ。
「……分かりました……では、会ってみるだけ……あまり気乗りではありませんが」
渋々さを前面に出して了承した。
よし、初対面の場で絶対に嫌われてみせる!
本筋の物語では、これは断ることの出来ない、こちらに選択の余地のない縁談だった。
我が家は借金で首が回らない状態になっており、どうしてもパーシーのお金が必要だったから。
だけど、お父様が投資詐欺で大損する前に領主様に罰せられたため、借金苦による没落は免れた。
これでパーシーとの政略結婚は回避できた!と安堵していた矢先の、コレ。
やっぱり舞い込んできた、パーシーとの縁談。
なにこれ、宿命なの?
どう足掻こうが結局、私はパーシヴァル・クラレンス・ワイズと割り切った結婚をして、ヒロインと本気の恋をされて、自滅の道へ?
嫌だ嫌だ、絶対嫌っ!
ハーマンの顔を立てて、一応会うとして、あえて嫌われるか、こちらからお断りだ。
お母様がなんと言おうとも。
そう心に誓い、パーシーからの返事を待った。
パーシーは仕事で多忙ゆえ、では今すぐ会いに来るという話にはならないようだ。
少なくとも1か月先にはなるだろう。
それを知ったお母様が、ますますパーシーを気に入った。
「仕事で忙しくて、あまり顔を合わせなくていい夫なんて最高じゃない。うちに婿入りしても、向こうを本拠地にして生活するんでしょう。たまに帰ってくるか、旅行がてら貴女が会いに行くか、どちらにしても気楽でいいじゃないの。生活費はきっちり入れてもらって、ねぇ」
なんなら自分が結婚したい、くらいの乗り気さでお母様が仰った。
確かに、愛し愛されることを望まなければそれはそれで気楽で良いかもしれない。
新婚の時点から別居で、たまーに会う通い婚。
それぞれ自由に好きなことをして――……パーシーはヒロインと恋をする、と。
本筋の物語では、それを知った私はエノーラを目の敵にして排除しようと躍起になるのだけど……
もし黙認すれば?
見て見ぬふりをして、ただ「妻」という座だけにしがみついていれば、それはそれで安穏と暮らせるのだろうか?




