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お兄ちゃまの浮いた話

翌日、マークス様を訪ねて領主様のお城へ出向いた。

従者に取り次いでもらったところ、2時間待てば謁見してくださるという。では、と待つことにした。


「じゃあじゃあクレア様、せっかくですから図書室で待たせていただきませんか? 続きを読みたい本があるんで!」


グローリアが目を輝かせてせがみ、図書室で待たせてもらうことにした。

2時間もグローリアの話に付き合うのは苦痛だし、本を与えておけば大人しくて助かる。


どっしりとした本棚が並んだ、静かな図書室に案内してもらった。

グローリアはさっそく目当ての本を引き抜いて、一心不乱に読み始めた。


私も時間潰しになる本を探した。お菓子のレシピ集を見つけ、リズノールの苺を使ったスイーツを売り出すのも良い手かもしれないなと思った。

あれこれ考え出すと夢が膨らむ。


でもまあ、それよりもまず、お婿さん探しに精を出さなくてはいけないのだけど。


しばらくしてマークス様付きだという近衛兵が1人でやって来て、挨拶を交わした。

マークス様のご用事が思ったより早く終わって呼びに来たのかと思いきや、別件だった。


私に個人的な話があって来たらしい、その近衛兵はヘンリーと名乗った。


「昨年まで警ら隊の第3隊に所属しておりました。スティーヴン・コンラッド・ウェストンと同期です」


「あら、そうでしたの」


で?

どう反応していいのか困る。

うちのお兄ちゃまがお世話になってます? なってました?


「あの、小耳に挟んだのですが、スティーブンと婚約されたとか……おめでとうございます」


祝福のお辞儀をするヘンリーにぎょっとした。


「いえ、それは違います。まだ決まっていません。スティーブンと結婚するかどうかは」


「えっ、あ、そうなんですか?」


ヘンリーが拍子抜けした顔で言った。


「失礼しました。そのようなを噂を耳にしたもので。そうですか……違うんですね。実は私、スティーブンの浮いた話を潰してしまったことがありまして、それを気に病んでいたもので……。クレア様との婚約話を耳にして、ああ良かったとほっとしたんですが……違うんですね」


ん? 一体どういう話??

奥歯に物が挟まったような言い方でよく分からないが、


「スティーブンの浮いた話、というのは?」


とっても気になる。


「あ、いえ大したことではないんですが……私たち警ら隊員は浮いた話など滅多に発生しません。寮の食堂の女性くらいしか、話すこともなくてですね……あ、勿論業務上女性と話すことはありますよ。でもそれは職務質問とかで、プライベートな話は許されませんから」


それはつい昨日、スティーブンからも聞いた話だ。ええ、と相槌を打った。


「で、食堂にとても可愛い女性がいてですね……。どうもスティーブンに気があるようだと私が気付いて、お前のだけトマトオムレツが大きいぞと冷やかしたんです。私は応援の意味も込めて、最初に軽く冷やかしただけだったんですが、それに便乗して大袈裟にしつこく冷やかす奴が出てきて……。で、それまで明らかにいい雰囲気だった彼女とスティーブンの間がギクシャクしてしまって……。彼女がスティーブンを露骨に避けるようになったんです」


贖罪のテンションで語るヘンリーには申し訳ないが、予想の斜め下をいく話に唖然とした。

……何じゃそりゃ、思春期の中学生かよ!というのが、転生して人生2周目のすれた私の率直な感想だ。


それにしても驚いた。

「君だけトマトオムレツが大きいんじゃない?」は比喩的な話ではなく、実際言われてたんかーい、だ。


「……それが『スティーブンの浮いた話を潰してしまった』ということなんですね……」


こちらもつい調子を合わせて、神妙なトーンで相槌を打った。


「はい……」


「気にすることありませんわ。本当に好きなら、冷やかされたくらいで諦めることはないでしょう」


「そう…ですかね……。でも周りが変に冷やかさなければ、今頃2人は順調に交際に発展していたかもと思うと……胸が痛くて……」


ヘンリーにちょっとイラッとしたところで、マークス様のお付きの従者がやって来た。

ヘンリーはそそくさと去って行った。


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