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夜着でGO


パジャマパーティー当日、準備はバッチリだ。

もちろんこの世界は前世とは違って、パジャマといってもシャツ型セパレートタイプや、スウェット上下などではない。


女性らしい雰囲気のネグリジェとシルクのナイトガウンが、夜着に当たる。

その上からさらに外出用の上着を羽織り、パッと見は分からないようにしている。


「それにしてもよく許してくれたな」と行きの馬車の中、スティーブンが言った。


「お兄ちゃまの出世に関わる大事なパーティーなのって言ったら、快く送り出してくれたわ。親戚ですもの」


というのは嘘だ。スティーブンと謎のパーティーへ行くことは言っていない。

トリスタン様絡みのパーティーへ行くと言っておいた。


「挨拶しなくて本当に良かったのか?」


「ええ。2人ともいつもより早くに寝ているの」


お母様は遊び疲れて夕方に帰ってきて、早々にベッドに入ったし、お父様は昼間から酔い潰れている。


この間酔って帰ってきたときには、トリスタン様が私に関心を持っているのではないかと冷やかしていたが、そんな筈がないことはお父様もよく分かっている。


娘を気に入ってもらおうと、過去に散々媚びて頑張ったのに、ご令息方に塩対応されたことをずっと根に持っているのだ。


特にマークス様を毛嫌いしていることはよく分かった。

まあ私もあの方は苦手だけど。


「服装に関しては、グローリアが上手く誤魔化してくれたの。夜着で出掛けると言ったら、それはワクワクしますねってはしゃいでたわ。あの子が変わり者で良かったわ」


「ワクワクするって、君も同じこと言ってたじゃないか。メイドが変わり者なら主人もだ」


スティーブンが言った。

スティーブンも一見、普段と変わらないが、外套の下はパジャマだと思うと可笑しくなる。

まあ男性の場合、シルクブラウスにピタリとしたタイツのようなものを履くのが一般的な夜着だ。


「それにしても夜着と仮面をドレスコードにするなんて、変わったパーティーよね。舞踏会なのかしら?」


「それが全く謎でね。招待状を譲ってくれた者も、他の者から譲り受けたそうで、パーティーの参加者は『パーティーの内容について決して他言しない』という絶対的なルールがあるらしい。だから教えてくれなくてさ。行けば分かるそうだ。行かないなら、知るなって言われたよ」


「へえ、ますますミステリーね。ドキドキするわ」


「楽しそうだな。俺はビクビクしてるよ。もし危険なパーティーだったらって。裕福な金持ちばかりが客層だと聞いているから、物騒な心配はないとは思うが。もし万一何かあったら、俺を置いてでも逃げてほしい。いかなる事態でも、君を逃がすくらいの隙は必ず作るから。俺を信じて、逃げろ。いいね?」


真面目くさった真剣な調子で言われ、フワフワと浮かれていた気分がしぼんだ。

と同時に胸がきゅっと締めつけられた。


「……嫌よ、嫌。スティーブンを置いて逃げるなんて。一緒じゃなきゃ嫌」


思わずスティーブンの着ている外套の端を握った。

そして、はっとした。


何やってるんだ、私。

嫌っなんて甘えて服の裾を掴むなんて、可愛い女子しか許されないやつ!


マークス様の好きな、小動物系の可愛い子なら似合う仕草だ。

私みたいな、ガタイが良くて気の強い顔をした女が、これやっちゃ駄目だろう。似合わなすぎる。柄じゃなくて恥ずい!


どう誤魔化そうかと内心であわあわしていると、服を掴んでいる私の手の甲に、スティーブンが手を置いた。


「ごめん。脅すつもりじゃなかったが、不安な気持ちにさせたね。大丈夫だ。今のは万に一つの話で、現実的じゃない。どうあっても君を守るから安心して、と伝えたかったんだ」


重ねられた手が優しく握られた。

なにこれなにこれ何?

きゃー!もう好きー!!

と内心でパニクる私に、スティーブンは言葉を続けた。


「君に何かあっては、子爵夫妻に顔向け出来ないからね。君は姉の嫁ぎ先の本家の、大事な一人娘だ。それを分かっていて、こんな風に連れ出している、俺の責任は重大だ」


はい、そこかー!

The責任感。


うん知ってた。スティーブンは真面目で責任感が強い。

親戚のお兄ちゃんとして、年上の男として、そして職業柄、私を守らなくてはという意識を強く持っている。


さっきの言葉は決して、愛の告白の類ではない。うん知ってる。


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