それはパジャマパーティーですか?
夜になって帰宅したお父様は、ベロンベロンに酔って上機嫌だった。
仲良くしている建設団の人たちに接待されたらしい。
お父様は職権を利用して、仲のいい建設団へ優先的に仕事を与える代わりに、こうして接待を受けるし、物品もよく貰っている。
賄賂が横行しているこの世の中では、そう珍しいことではない。
「お父様、今日トリスタン様と一緒にマークス様がいらっしゃいましたよ。トリスタン様は苺の件でしたが、マークス様は別件でお父様にご用があったようで……」
「ああ、ニコライから聞いた。仕事のことは部下に任せておる。何も問題ないわい。マークスってガキはな、前から気に食わんのだ。伯の息子だからって偉そうに、ガキの頃から人を見下しおって。アイツは人として駄目だな! ああ、まだ可愛げのあるトリスタンなら良いぞ、クレア! あのボン、今更お前に気があるのか? お前に会いに家まで来るとはなあ」
「お父様っ! 家の中とはいえ、お慎み下さい。誰が聞いているか分かりませんわ。伯爵家の耳に入ればどうなるか……」
「うるせぇ。俺は先祖代々の子爵だぞ。伯爵には頭が上がらんが、爵位を継げぬ伯の息子どもよりは上だ。次男以下にヘイコラするもんか。俺の方がなあ、偉いんだよ」
ソファーへ倒れこんだお父様は、そのままムニャムニャと寝てしまった。
怪しい投資話の件も改めて釘を刺そうと思っていたのに、やっぱりお父様とは話にならない。
やはり頼みの綱はスティーブンだ。
間もなくしてそのスティーブンから連絡があった。
ついに詐欺グループの幹部たちを特定できそうだと言う。
詐欺グループは勧誘に勧誘を重ね、今では末端の者が新規を勧誘していて、幹部クラスは雲の上の存在となりつつある。
騙し取った大金を持ち逃げする段階において、尻尾を掴ませないようにするためだろう。
捕まるのは下のクラスの者で、自分たちは上手く逃げおおせようという訳だ。
そうは問屋が卸さない。
「どうも主犯格の者が参加するパーティーが今度あるらしい」とスティーブンが言った。
「特別な招待状がないと参加できないパーティーだが、ツテを駆使して招待状を手に入れた」
さすがスティーブンお兄ちゃま、デキる男!
と羨望の眼差しを向ける私に、スティーブンはなぜかとっても浮かない顔をしている。
「参加条件があってね。必ずパートナーを同伴すること」
「あら、そんなに変な条件じゃないわ。私が一緒に行けばいいし」
「そして、ドレスコードは仮面と夜着」
「え?」
ドレスコードというのは、服装の指定だ。パーティー主催者の趣旨で「赤い色を必ず身に着けること」や「花を一輪挿してくること」などがある。
仮面舞踏会なら、当然仮面は必須アイテムだ。
しかし、「夜着」がドレスコードとは聞いたことがない。
「……女性をナイトドレス姿でパーティーに連れ出すだなんて、あり得ないよな。仕事として引き受けてくれる女性を雇うという手もあるが、なるべく他人を入れずに調査したいし……」
「何言ってるの? 別にわざわざ同伴者を雇わなくたって。私がいるじゃない。私が行くわ」
「君こそ何言ってるんだ。今の話聞いてた? 夜着でパーティーに出ろってことだぞ」
「ええ、分かってるわ。いいじゃないそれ、パジャマパーティーよね! ワクワクするわ。パーティー会場までは上着を羽織って行けばいいんだし、会場では全員パジャマよ。みんなが同じなら、浮かないし」
スティーブンを説得する内にノリノリになってきた。
ドレスコードが仮面と夜着って。なにそれ、楽しそうじゃん!
前世で学生だった頃、友達の家に集まってパジャマパーティーをしたことを思い出した。
お気に入りの可愛いパジャマを見せ合って、お菓子とジュースと漫画を持ち込んで、深夜にホラー映画を見てきゃあきゃあ騒いだっけ。
あの「ちょっと悪いことをしてる」背徳感と深夜の悪ノリは他では再現できない、特別さがある。
「でも君は子爵家の令嬢だし、そうでなくても年頃の女性を……いや、そもそも問題は危険を伴うかもしれないってことだ」
スティーブンは難色を示し続けたが、
「大丈夫! お兄ちゃまが守ってくれるでしょう? それにそもそも、これは私が頼んだ、うちの問題だもの。他人を巻き込むくらいなら私が行くわ。ねっ、お願いスティーブン。私、行きたいの」
必死でおねだりすると、スティーブンは折れた。
そもそもお兄ちゃまは私のワガママに弱いのだから。




