初恋の相手
「トリスタン様はどれがお好みですか?」
尋ねるとトリスタン様は少し間を置いて、
「どれもいいと思うよ。私が、これと言えば他のものを選びにくいからね。あなたに決めてもらいたい」
と優しく、ごもっともなことを仰った。
「今すぐここで決めなくてもいいよ。持ち帰ってゆっくり考える?」
「そうですね……」
帰ってから、家のみんなに意見を聞こうかしら。
でもお父様お母様の意見が割れたら揉めそうだし、グローリアはちょっとアレな子だから、ちょっとアレなものを選びそうだし。良識的な執事のニコライに聞くのが良いのかしら?
いや、良識って何さ。新商品名に求めるものは果たして良識なのか。やっぱり目を引くインパクト?
ううむ、ここは圧倒的大多数の意見を聞きたい。
実際に商品を購入するのは世間の皆様であるわけだし、皆が良いと思うものが最善。The民主主義、万歳。
パッとひらめいたのは『領民の皆様からの人気投票』という方法だ。
みんなに決めてもらえば、万一外したとしても全領民の責任。私のせいじゃないわと責任転嫁できる。
いやいや待て待て、何を考えてるの。ここで自己保身って超ダサい。
トリスタン様は、私に決めてほしいと仰っているのだ。
発案者である私にネーミングの決定権をというトリスタン様の英断と、このお心遣い。無下にするわけにいかない。
「決めます! 今すぐここで。こういうのはパッとインスピレーションで選ぶのが一番ですもの! どどんとお任せください。必ずヒットさせます!」
ハッタリ一番、勢い大事!
ずずいと身を乗り出して、候補名が書かれた紙を再度睨みつけた。
リズ姫……リズりん……この「リズ」は言わずもがな「リズノール」のリズだ。
このリズノールで作った苺だと、産地名を打ち出したネーミングは良いと思う。
リズという名前と、苺という果実の少女っぽいイメージも合っているし。
そう、候補名のどれも女性をイメージしているという点で共通点がある。
グーチさんの恋人は女性だろうし、サンシャインクイーンも女性で、スイートルビーも女の子を連想させる。
苺は赤くて小さくてコロンとしていて、甘酸っぱくて、やはり女性や少女、初恋をイメージさせるからだろう。
初恋……リズ姫……
「リズ姫の初恋! って良くないですか!? 可愛らしくて甘酸っぱい、苺のイメージにピッタリです!」
「ああ、それは、すごく良いな。だがしかし……」
「あ、……この中から選んで決めるっていうお約束ですもんね。申し訳ありません、ルール無視で興奮してしまって。グーチさんの考えた候補名を眺めていたら、閃いたんです」
「リズ姫の初恋。うん、良いな。正直、この5つの候補名はどれも今一つだと思っていた。グーチと話し合ってみよう。もしグーチが了承すれば、その名を採用しても構わないかな。グーチ次第だが」
「ええ、勿論です。採用されなくても大丈夫ですし、グーチさんの意見を優先してくださいませ」
ほっと肩の荷が下りた気分で帰路に着いた。
リズ姫の初恋――……私の初恋っていつだっけ?
物心ついたときからスティーブンのことは好きだったけれど、「よくワガママを聞いてくれる優しい親戚のお兄ちゃま」として、好きだったわけで。
やっぱり初恋の相手は、絵本の中の王子様かもしれない。
その王子様を具現化したようなトリスタン様に、毎度見惚れてしまうのも仕方ないことなのだろう。うん、仕方ない。はい自己擁護。




