積極的な望み
序盤の衝撃が強すぎて、その後のランチコースとスティーブンの話は若干上の空だった。
スティーブンに見送られて馬車に戻り、待っていた御者とグローリアにパンを渡した。
「えっ、なんですかこれっ!」
グローリアが目を剥いて叫んだ。
「あのお店のパンよ。美味しかったからあなた達にもと思って、お土産用のよ」
「うそっクレア様がっ! 雪でも降るんですか!?」
「失礼ねっ、いらないなら返しなさいよ。ニコライにあげるわ」
「いります、いりますっ、クレア様ああぁ。ありがたき幸せ!」
グローリアは握った拳をもう一方の手のひらで包み込み、こくっと頭を下げた。
変な作法だが、グローリア曰く「忠誠を誓うポーズ」らしい。
多分、どこぞの外国の本でも読んで、かっこいいとかぶれて真似ているのだろう。
そういえば前世でも同じポーズを外国人がしているのを、何かで見たことがあると思い出した。
漫画だったかな。
そんなどうでもいいことを考えながら馬車に揺られ、家に着いてからもっと大事なことを考えた。
どうしよう、私やっぱり……スティーブンのことが好きかもしれない!
スティーブンは言った。
あの大会以降トマト嫌いになったのではない、元々嫌いだったのだと。
それなのに無理をして大会に出て、優勝したのは「君にいい格好を見せたくて」。
なにこれ、何フラグが立ったのよおおぉ!
もしかしてスティーブンは昔から私のことを――……?
それなのに私ったら、あれ以降スティーブンと顔を合わせるのが気まずくて、ツンケンした態度を取っていた。
そのうちスティーブンは警ら隊の学校へ進学し、寮に入ってしまったので、うちへ来ることもめっきり無くなってしまった。
だけどこうして再会して、誤解も解けていい感じの私達。
お母様は良い顔をしないけれど、もし、もしもよ、スティーブンの協力でお父様が詐欺に引っかかるのを防げたら、お母様からの評価も変わるはず。
スティーブンが詐欺グループの元締めを突き止めて、上司に報告して捕まえることができたら、出世だってするかも。
うおおぉ、俄然やる気が湧いてきた。
今までは「バッドエンドを回避する」という消極的なモチベーションだったが、「ハッピーエンドを手にする」という積極的な意欲が。
政略結婚を免れた暁には、目指せ恋愛結婚だ。
いくら地位やお金があっても、私を全く愛してくれず、ないがしろにする男なんて願い下げだ。
例え庶民でも、堅実な仕事に就いていて、真面目で、私を尊重し愛してくれる、そういう人と生涯を共にしたい。
ふと鏡に映った自分を見た。この堅実な望みとはかけ離れた容姿だ。
漆黒の髪と濃青の瞳、きつい顔立ちで長身、大きな胸が特徴的な、絵に描いたようなThe悪役令嬢。
ああ、物語の神様。こんな私でも、堅実・地味な幸せを願っても良いでしょうか?




