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赤いそいつ

赤いそいつは幸いミニサイズのもので、サラダの彩り担当的な1個のみだ。

しかしそいつにアレルギーを持っているスティーブンには大敵!

目に入るだけで気分が悪くなってしまう。


赤いそいつを認識した私は、さっと瞬時に視線を外した。

じっと凝視していては、スティーブンの視線を引きつけてしまう。幸いスティーブンは店員の方へ顔を向けていて、まだ恐ろしい事態に気づいていない。


ど、どうしよう!

サラダを下げてもらおうか。しかしそれを申し出ることによって、スティーブンは赤いこいつを見てしまう。

スティーブンの視界に入れては駄目だ。


見ないで!と言って、目を閉じてもらってからサラダ皿を下げてもらう手もあるけれど、その理由を告げることも、なるべくなら避けたい。


だって蒸し返したくない。

私のワガママのせいで無理をさせられて、酷い目にあったことを、スティーブンは赤いこいつを見るたびに、その名を聞くたびに思い出すに違いない。


ああ、この女のせいで酷い目にあってアレルギーを発症してしまったんだと、思い出してほしくないんだもの。


店員が部屋を出て行ってすぐ、「あっ」と声を上げて、スティーブンの背後を指さした。

古典的な方法だが、スティーブンはあっさり引っかかり、くるりと後ろを振り向いた。


急いでサラダ皿から赤いそいつを摘まみ上げ、ひょいと口の中に放り込んだ。

私の分とスティーブンの分、2個をひょいとひょいと。

ナイナイしてしまえばいいのだ!

私って天才的!


しかしスティーブンが向き戻る前にと慌てたため、失敗した。上手く噛めずにつるんと滑ったそいつは、スポンっと口から飛び出した。

勢い良く飛んだそれは、ちょうど向き戻ったスティーブンの顎に当たって跳ね返り、テーブルの上にバウンドした。


スポンッ、バンッ、ゴンッ、ゴロゴロゴロ…………

そしてシンと静まり返った。


これ以上ないくらい大きく目を見開いたスティーブンが、転がり止まった赤いそいつを凝視している。

ど、ど、どっ……どうしよう!!


終わった。作戦大失敗だ。大失態!

スティーブンの目の触れないうちに胃に葬るつもりが、逆に大注目させてしまっている。

とりあえず口の中に残っているもう一個をもぐもぐと咀嚼した。


スティーブンは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。(実際に食らったのはトの付く赤いこいつだ)


「一体何が……どうしたんだ、大丈夫か?」


「スっ、スティーブンこそ、大丈夫? 具合悪くない?」


「大丈夫だよ。ちょっとビックリはしたけど。君に何があったか理解したいから、ゆっくりでいいから説明してくれる?」


嘘みたいに落ち着いているスティーブンにビックリした。

見るだけで卒倒するくらいの重度のトマトアレルギーじゃなかったの!?


しどろもどろに訳を説明すると、スティーブンは再度目を丸くした。


「まさかそんな理由で。確かにトマトは苦手だが、普通に食べられるよ」


「えっ!?」


スティーブンの話によると、あのトマトの大食い大会でトマトを食べすぎてお腹を壊し、当分トマトは食べたくも見たくもないと思ったことは事実だが、その状態はほんの一時期で、継続していないそうだ。


スティーブンの両親がネタにして、面白おかしく何度も親戚の間で大袈裟に話していたため、誤解されたままだったのだろうとのこと。


「そんなぁ〜、じゃあ何も焦ってトマトを食べなくても良かったのね。でも良かった、トマトアレルギーじゃなくなってて。責任感じちゃうもの」


心底ほっとする私をまじまじと見つめ、スティーブンが言った。


「君には何一つ責任はない。あの大会に出る前から俺は元々トマト嫌いだし、そのくせ意地を張って、君にいい格好を見せたくて。長年気に病んでいたことも知らずに、申し訳ない」


「スティーブン……」


好き!と思わず口走りそうになって、言い換えた。


「……優しいのね」


そうだ、スティーブンお兄ちゃまは昔から優しくて、誠実で、生真面目なのだ。

対面に座った女が口からトマトを吹き飛ばしてそれが見事に顔面にヒットしても、爆笑しない。

真面目な顔をして、ニコリともしない。これこそスティーブンお兄ちゃま!


「本当に無理していない? あのときみたいに。本当は卒倒しそうなのに我慢してたり、しない?」


「しないよ。本当に大丈夫だ」


そう言ってスティーブンは、テーブルに転がっているミニトマトを拾って、ぱくりと食べてみせた。


そ、そそそれ、私が口から吹き出したやつ!!


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