<97>悪役令嬢とは焦がしたキャラメルみたいな甘苦い関係なようです
父と母と馬車に乗ってシャーロットが王都の屋敷に戻ってくると、学生達と別行動をしていた祖父が先に屋敷に帰ってきていた。
シャーロット達は夕食を済ませると、父の執務室で家族会議になった。
そんな会議なんてする必要ないんじゃないのかなと思いながら、シャーロットもソファアに座る。
「お父さま、遠く東方の国の軍師シュトルクと仰る方はご存知?」
母はシャーロットの隣に座って、ソファアに深く座る祖父の顔を見た。
「ああ、知っとるよ。ペンタトニークの国であったよ。強引で、魅力的な若者だったな。」
「その方に、シャーロットは婚約のお話を頂きましたの。」
「何だと? 来たのか? まさか追いかけて来たのか?」
「そうでしょうね。うちの港にあの方の軍艦が泊まっていましたのよ? ご存知なかったの?」
「すっかり癒されておったのでなあ…。あのスパは最高だのう…。」
祖父はうっとりとした表情で空中を見つめた。「学生達も喜んでおったぞ…。土産に美容クリームを持たせてやったら、大喜びしておったなあ…。」
母は引き攣り笑いをしている。
「おかげで私達は、シャーロットとシュトルク様が二人きりでレストランで食事するのを待ったのですよ? 何もなかったからよかったものの…。シャーロットから話は聞きましたが、エリックの件を絡めて向こうからはお話があったのですわ。」
「リルル・エカテリーナ王女のことか? エリックにはあの後、何も話はないだろう?」
祖父を見て、母は顔を顰めた。
「シュトルク様はエリックのことをご存知だったのですって。リルル・エカテリーナ様の最有力候補の婚約者として。」
「最有力候補…。それは…、それは困ったな。」
祖父は珍しく眉を顰めた。
「エリックの妻として公爵家に迎え入れるには身分は問題はないが、公爵家の跡取りはこの国の娘から生まれた子供が望ましい。」
「それはどうしてですか、おじいさま。」
シャーロットはリルル王女に好感を抱いていたので、理由が知りたかった。
「お前がミカエル王太子殿下と結婚しなかった場合、エリックの子供は王家に嫁ぐ可能性がある。異国の血が流れていると、内乱が起こった時に舅の国が口を挟んでくるだろう。そういう事態は避けたい。」
「公爵家を窓口にして他国の干渉が起こると言うのですか?」
「ああ、そうだ。だから、エリックには、この国の貴族から妻を探せとあらかじめ言い含めてあると、お前にも伝えたと思うが?」
そういえば、祖父が理事長だと知った時に、そんな話を聞いた気がする。
「では、例えば、ですよ? 私が他国に嫁いでも、同じことが言えるのではないですか?」
祖父は面白そうに笑って言った。
「隣国のサニー王子と結婚しても、お前は特に影響はない。あの国は国王に権力が集中する仕組みが出来上がっている。サニー王子自体が政治の場で大きな力を持たないだろうからな。ブルーノ殿と結婚しても、お前も見てきたように、軍事力がほぼない国だ。揉め事は金で解決するような国での内乱など、たかが知れていよう。だいたい遠方過ぎて、ワシらは干渉する気すらおきん。」
父も母も苦笑いをして聞いている。
「今回の軍師シュトルクは第三王子だろう? 国は第一王子が継ぐとほぼ確定しておるし、この国よりも軍事力も経済力もある。そうだな、一番お前には自由な結婚相手かもしれなんな。だが、軍師という立場を考えると、あまりつながりたい縁ではないな。」
シュトルクも祖父も、自由自由って…。ミカエルと結婚したって別に不自由じゃないと思うんだけどな、とシャーロットは思った。
「他に何か言われたか?」
シャーロットは母と顔を見合わせた。
「虫除けの婚約だと言われてしまいました。」
シュトルクに説明された話を祖父に伝えると、祖父ははっはっはと大きな声で笑った。シャーロットは心の中で煩いなーと呟いた。
「婚約自体をかりそめの関係だと言ってくるとは…。向こうは思ったよりも本気かもしれんな。」
「今のところあれから何の情報もありませんが、厄介なことになりましたね。」
黙って話を聞いていた父は執務机の前に座って困った顔をしていた。
「今回の旅行で、どちらかに決めて帰ってくるかと思っていましたが…、新たに一人増やして帰ってくるとは、思ってもいませんでした。」
そういう意図があったの? シャーロットは二人とは何もなかったけどなあと驚いた。ブルーノが言っていた旅行の目的って、そのことなのかな。
「そうだな、油断していたな。」
「シャーロットがこの冬期休暇のうちに、結論を出すと思っていましたのにね。」
え? シャーロットは目をぱちくりした。お母さままでそんな風に思っていたなんて!
「ミカエル王太子殿下にも新しいお話が来ているから、ちょうどいいと思っていたんだがなあ。」
祖父が何気なく言った言葉が、シャーロットには引っかかった。父を見れば、知っていたのか黙って頷いている。
「おじいさま、今、新しいお話って仰いましたよね? クラウディア姫以外にも、そういうお話があるのですか?」
「ああ、クリスマスの頃か? ユリス様の遠縁の侯爵家の娘の名前が国王の口から出て、王妃と口論されたそうだが…?」
だから、クリスマスにお城にお泊りに行った際に、ライトが言葉を濁したんだ…。シャーロットはなるほど~と納得した。
「今ミカエル王太子殿下と同じ統治のクラスにいる女子学生だぞ。シャーロットも知っているのではないか? お前の誕生会に来ていたからな。」
「はい?」
まさか。シャーロットは祖父の顔をまじまじと見た。
「クララ・サバール侯爵令嬢だ。年も同じだし、家も裕福だし、申し分ないだろうと国王が言い出してな。」
え? 私は? シャーロットはびっくりしすぎて言葉を失った。確かにクララはミカエルの愛の詩集の朗読を聞いてうっとりしてたけど…。
「国王が仰るには、シャーロット嬢が可哀そうだから、ユリス様と仲がいいクララ嬢と結婚した方がお互いに苦しまずに済むのではないか、とのことらしいんだよ、シャーロット。」
「あの、お父さま、私が可哀そうだから違う相手と結婚させるって…、私は可哀そうなままなのではないですか?」
「確かにな。ミカエル王太子殿下とお前に進展が見られない以上、少しでも執着のあるクララ嬢の方がいいと判断されたんだろう。」
「し、進展?」
父の口から意外な言葉が出てきて、シャーロットは焦った。自分の親から進展とか発展とか聞きたくないなと思う。
「ああ、お前達には恋人同士にあるような甘い空気が全くないと嘆いておられたのだ。やはりシャーロットに無理をさせているのではないかと、気遣われたのだよ。」
ええ…、それは…、ミカエルがミチルとして傍にいるための約束だから、そんなことを言われても…、シャーロットは心の中でいろいろ言い訳を考えた。でも、口には出せなかった。
祖父がシャーロットを見てにやりと笑った。
「お前よりも、クララ嬢はのぼせ上っているようだぞ、シャーロット。お前達の間に流れる空気は、腐れ縁のような乾いた熱量しか感じられないからなあ。」
腐れ縁とか、乾いた熱量とか。随分な言われようだ。
「シャーロットは、きちんとミカエル様とお話は出来ているのかしら?」
母まで心配しているのか問いかけてくる。
「会話は大事だよ、シャーロット。好きならばなおさら、思いは伝えないと。」
父の言葉に、母はうっとりと父を見つめた。この二人は最近妙に仲がいいのよねとシャーロットは思う。プチ・プリンスの影響が私じゃなくて親に出てるのなら、ゲームの親密度はまたおかしなことになっていそうだなと思った。
「乾いた熱量にあるのは愛じゃないだろう。」
祖父がにやりと笑った。なんだと言いたいんだろう。
シャーロットはこれ以上聞きたくないなと思い、立ち上がるとぺこりとお辞儀した。
「明日、学校の寮に帰ります。ミカエル王太子殿下に会って、お話を伺ってきます。お父さま、お母さま、もう疲れたので寝ます。おじいさま、御機嫌よう。」
シュトルクが言った、婚約者がいてもいないのと同じだ、という言葉を思い出して、無性に腹が立っていた。
部屋を出て行ったシャーロットを黙って見送って、公爵と夫人は前公爵の顔を見た。
「お酒の件があったので、ブルーノ様と距離を置くようにと旅行の前にエリックに言い聞かせたのは、正解でしたね。シャーロットがブルーノ様に決めて帰ってくることはエリック次第では無理だろうと持っていましたけれど、エリックはきちんとやってくれたんですね。」
「そうだね。私達が見ている限り、リュートとどうにかなる可能性は今のところないからね。」
「シャーロットはブルーノ様に、道具を使って食事出来ない人とは結婚は出来ないと、言ったのですって。」
夫人は、執事が持ち帰ったペンタトニーク公夫妻からの手紙で得た情報を話した。ペンタトニーク公と公妃が、ブルーノを矯正しようと思っていることも手紙には書いてあった。
「そうか、酒での醜態ぶりを知ったか。」
「ええ、あの国では、シャーロットはブルーノ様の妃候補と認識されたようですの。子供から大人まで、評判は上々だったようですわ。」
「シャーロットはあの見掛けだし、お人好しだからのう。子供達にじゃれつかれておったのを見たことがあるが、貴族の娘でああいう振る舞いが出来るのは、基本学校に行かせずに、偏見を持たせないよう、ぬくぬくと育てからかもしれんなあ。」
「軍人達に絡まれた際も、あの子一人で解決したとの話ですのよ?」
「そういう度胸がある一面を、シュトルクなんぞに見染められたのかのう。」
夫人は公爵を見ながら、言葉を選びつつ言った。
「シャーロットは…、自分のお土産を、地図と絵本のたった2冊しか買ってこなかったんですの。私の宝石と、あなたの腕時計と、エリックの分の腕時計の代金の半分と、ミカエル様への懐中時計で満足して帰ってきているの。私には、なんだか哀れに思えて。お土産を買ってくるお友達もいないのかしら、あの子。」
「最初、ワシが声を掛けてやらなんだら、シャーロットはお前の分の宝石しか買わないつもりだったようだからな。若い娘が自分を磨くために宝飾品を望まないなんてと思ったが…。地図と絵本か…。」
「私にこの前、クマのリュックをねだってくれたのは嬉しかったですね。あの子が欲しがるものは、エリックと分けて食べる為のお菓子が多かったからなあ…。」
前公爵は考え込んで、言った。
「宰相のところは、シャーロットの獲得に乗り気なようだぞ。夫人と双子の娘達がシャーロットを気に入ったと喜んでおった。」
「そうですか。旅で、シャーロットは、二人に対してどう振舞っていましたでしょうか?」
公爵は前公爵に不安げに尋ねた。
「エリックが始終傍におったから何もなかろう。リュートはシャーロットを見守り、ブルーノはシャーロットに付きまとっておった。そういう印象だ。」
夫人は、公爵に躊躇いがちに言った。
「ねえ、あなた。今回のシュトルク様の一件で、私、ブルーノ様の国へシャーロットを嫁がせるのは怖いと思いましたの。」
「ああ、そうだね。何かあった時に、力になってやれないね。」
公爵は夫人の言葉に頷いた。前公爵も頷く。
「遠すぎるなあ。船で約二日。シャーロットの身にもしものことがあっても、何もしてやれんだろうなあ。」
その言葉は深く心に響いて、3人は黙って溜め息をついた。
混乱しながら寝た割にはきちんといつも通りの時間に起きれたシャーロットは、朝食を済ませると侍女達に手伝ってもらって寮へ帰る支度をした。白いニットのアンサンブルのワンピースに茶色のタイツを合わせて、美容担当の侍女に髪は編み込んでもらった。ピンクのリボンで括ってもらうと、鏡の中の自分はいつもではない自分になったようで、もう休暇は終わったのだと気持ちも切り替わってくる気がした。
昼食を父と母と食べて、ハウスキーパーに残りの荷物を持って来てもらう手配を頼んだシャーロットは、ひとり、トランクを二つ持って馬車に乗った。ミカエルへのお土産を入れたピンクのクマリュックに隣に座らせて座ると、自分の懐中時計の姫様人形とまふまふキツネを見た。どれも手洗いしているので綺麗なままだった。
お城のお茶会で心に思い浮かべた友達のうちの一人だと思っていたクララが、まさか自分の恋敵になるとは思ってもいなかった。まふまふキツネを見るたびに、お城のお茶会を思い出してしまうシャーロットは、複雑な心境になった。
シュトルクは青い姫君と言った。そういえば、建国記念日の際も、青いドレスを着ていたんだなあと姫様人形を見て思った。青い姫君ってなんだか熟してない果実のようで美味しくなさそうだわ、とも思う。
ローズは…、どうしているだろう。もう寮に帰って、勉強を始めているだろうか。
ミカエルは…、私に会って、なんて言うんだろう。クララの話を聞かせてくれるのだろうか。それとも、黙って誤魔化すのだろうか。
シャーロットは窓を流れていく景色を見ながら、嬉しいはずなのに不安ばかりだわと呟いた。
寮に帰ってきたシャーロットを出迎えたのはミチルだった。自分の部屋に戻ったシャーロットは、久しぶりに見たミチルなミカエルを見つめて、トランクを床に置くと無言で近寄って抱き締めた。甘い花の香りがする。ミカエルの香りだ。
自分の机の前で椅子に座り本を眺めていたミカエルは、部屋に入るなりコートを脱ぎ棄てて抱きしめてきたシャーロットに驚いて、小声で、「お帰り?」と尋ねた。
「会いたかった…!」
ミカエルはまふまふのピンクのセーターに灰色のキュロットパンツを履いて、ピンクと灰色のしましま模様のまふまふの靴下を履いていた。
「シャーロット、どうしたの? 何かあったの?」
「…何もないけど、沢山ある。」
「落ち着いてよ、話、聞くからさ。」
頷いて離れると、シャーロットはさっそく背を向けると、部屋着の、ざっくりとしたベージュのニットワンピースに着替えて編み込んでいた髪を解いた。ゆるく広がる美しい髪を、ミカエルは眩しそうに見つめていた。
シャーロットは嬉しそうに、ミカエルの前の自分の椅子に座った。
「まずは…、ミカエルに、これ、お土産。」
マリライクスのピンク色のクマリュックの中から、薄い緑色のラシャ紙で包まれたお土産を渡した。
「そのリュック、買ってくれたんだね。ありがとう、シャーロット。」
「お父さまにおねだりしたの。この子の恋人なの。」
トランクの中からミルクティー色のクマリュックを取り出す。机の上に2体を並べて、シャーロットは微笑んだ。
「ピンクがもしかして僕なの?」
「そう。旅行中も背負ってたのよ?」
「ありがとう。」
ミカエルは嬉しそうに笑った。
「見てもいい?」
「どうぞ。」
シャーロットが微笑むと、ミカエルは包みを開けた。黄緑色の宝石を指で撫でる。「綺麗な懐中時計だね。この石は?」
「クリソベリルっていうの。あの国で取れる貴重な鉱石なの。」
「へえ…、」
ミカエルが眺めている様子を見ながら、シャーロットは、ミカエルに尋ねた。
「でね、ミカエル。私、ミカエルに聞きたいことがあるの。」
「なあに? なんでも聞いてよ、シャーロット。」
冷静になりながら、シャーロットは上目遣いに尋ねてみた。
「婚約とか、クララ嬢とか、ユリス様とか、何か知ってる?」
「ああ、なんかそういう話があったみたいだね。クララ嬢と婚約してみてはどうかって、お父さまが言ったからお母さまが怒っちゃって、最悪なクリスマスだったって後でラファエルから聞いたけど、僕には特に何もないよ?」
ミカエルは視線を逸らしてシャーロットを見ずに答えた。そんなあっけない返事なの? とシャーロットは思ったけれど、追及しなかった。ミカエルは何かあったらきちんと説明してくれるだろうと思った。
「シャーロットは、何かあったりした? ブルーノとか、リュートとか。」
「何もないわ。」
シャーロットは首を振った。
「でも…、今週末、エリックとブルーノと出かけるわ。」
「どこに?」
「コーヒー屋さん。それぐらいかな。」
「ああ、サニーと行った店ね。サニーはもう寮に帰ってきてるみたいだよ? クラウディア姫も入寮したみたいだよ?」
「へえ…、ミカエルはいつ帰ってきたの?」
「昨日。シャーロットは昨日旅行から帰るって聞いた気がしてたから。それからミカエルで過ごして、今日はミチルでここにいたよ?」
「旅行が…、おかしくなっちゃったの。」
シャーロットは言葉に迷う。シュトルクとのことをどう説明したらいいのか悩んでしまう。
「旅行の日程って3日から12日までで、次の日に領地を出ても、13日には帰ってくると思ってた…。今日帰ってくるなんて、やっぱりなんかあったんだね?」
ミカエルの顔が見られなくなってしまったシャーロットは、視線を落として黙った。
「怒らないから、話してみて?」
ミカエルにそう言われると、つい話しちゃうんだよねと思いながら、シャーロットは軍艦が入港して日程が変更になった話をした。一日早めに帰国の船は到着したこと、領地に帰ってからは他の学生達と別行動を取ったことを、話す。
「その様子だと、軍師シュトルクと何かあったんだね? 一日遅れて別行動かあ…、そっか、君に会いに来たんでしょ?」
俯いてまた黙ってしまったシャーロットに、ミカエルは静かに聞いた。
「結婚の申し込みとか? 婚約かな? その話、受けるの?」
ふるふると首を振って、シャーロットは「そんな話はしてない、」と答えた。覚えている限り丁寧に、どういう会話をしたのかミカエルに伝えた。
「ふうん?」
ぶーたれたミカエルが、俯いたままのシャーロットの頬を指でつついた。
「虫除けの婚約なんだ。僕とシャーロットって。」
「ち、違うわよ。」
「他に何か言われなかった?」
何か言われたかなあ…? シャーロットは首を傾げた。
「で、どうするの? また会うの?」
「会いたくないけど、会わないと港に軍艦が停泊し続けるくらいなら、会う、かな。」
「嫌な脅し方だね。港に軍艦が停滞するのは、経済に影響するもんなあ…。」
余波を食らうので、大きな軍艦を嫌う小さな船は別の港に流れてしまう。小さな積み重ねが、港の停滞につながる。
「そういう軍艦が入港することで、得る物だって一応はあるんでしょ?」
ミカエルが首を傾げて尋ねる。
「例えば、物資がよく売れるとか、治安が守られるとか。」
シャーロットはミカエルの顔を静かに見つめた。
「軍艦が入港してくれると、不審船や海賊船が寄り付かなくてありがたいけど、友好国の軍艦と、見知らぬ他国の軍艦とでは、ありがたみが違うの。」
「僕からすると、違いがよく判んないんだけど。」
「私達にとっては、海賊船も見知らぬ他国の軍艦も、一緒なの。言葉は通じてるようで通じないし価値観が違うから、できるならどっちも来てほしくないの。下手な対応をしてつけあがらせるようなことをしたくないし、恨みを買うようなこともしたくないの。」
シャーロットは肩を竦めた。
「一応私、公爵領の領主の娘だから、領民を守らないとね。」
「一応じゃなくても、公爵家の娘でしょ? ご両親のいいとこどりの顔してるじゃん。」
ミカエルはシャーロットを見つめて言った。
「なんなら一緒に会いにいこうか。王太子のミカエルとして、正装してさ。」
「え? ミカエルが来てくれるの?」
「シャーロットと手を繋いで虫除けのかりそめの婚約じゃないよって言ったら、信じてくれないかな。」
手を繋ぐだけではダメかもしれない。シャーロットは祖父に言われた言葉を思い出した。
「ああ…、腐れ縁のような乾いた熱量…。」
「はあ? シャーロット、それ、なにさ。」
「おじいさまに言われたの。お前達の間に流れる空気は、腐れ縁のような乾いた熱量しか感じられないって。乾いた熱量の間にあるのは愛じゃないだろうって。」
ミカエルは目を瞑って黙り込んでしまう。怒ったのかな? シャーロットがドキドキしながら見つめていると、ミカエルが小さく言った。
「あのさ、シャーロット。君んちの家族って、僕に対しての扱い、ひど過ぎじゃないの?」
ぶーたれたミカエルが可愛いくて、シャーロットは胸のキュンキュンが止まらない。
「一応僕、この国の王子様なんだよ?」
「そうなんだよね? 不思議だよね?」
シャーロットも首を傾げて考える。ミカエルの可愛い見かけで侮られているのかしら。
「決めた。今年の目標は、しっとりとした甘い空気を漂わせた焼けるような熱量を感じさせる関係になる!」
ナニソレ…。それ、焦がしたキャラメルみたいな甘苦い関係になるんじゃないの?
「え、誰と…?」
「もちろん君に決まってるじゃないか、シャーロット!」
ミカエルがシャーロットを抱きしめようとして手を伸ばしてくる。シャーロットは可笑しくて笑い出してしまう。
くすくす笑うシャーロットを、ミカエルは「もうっ」と言いながらしっかり抱きしめた。
ありがとうございました




