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<83>リュートルートは家族ぐるみでのお付き合いにまで発展中です

 金曜日は朝から母と美容担当の侍女達に捕まって、シャーロットは朝から着せ替え人形になっておとなしくされるがままになっていた。

 宰相の家から来た招待状には普段着で気楽にお越しくださいとあったのに、母は妙なやる気を見せていた。

「こっちの方がいいんじゃないかしら、」

「奥様、こちらもいかがですか?」

「まあ、こっちも似合うわねえ…!」

 そんな会話が何回も繰り返されて、何回も着替えている気がするのよね…、とシャーロットは心の中で呟いた。

 馬車が迎えに来る予定の時間ギリギリに決まったのは、やわらかい桃色のアンサンブルのワンピースだった。手には白いハンドバッグを持たされ、髪は後ろでハーフアップに括られて、ベルベットの真っ赤なリボンで結ばれる。黒い仕立てのいいコートを羽織り、仕上げにスズランの香水を吹き付けられて、シャーロットはやっと開放された。


 シャーロットの住む公爵邸よりお城に近い町に、リュートの住むアルウード侯爵邸はあった。町中にある大きな屋敷で、シャーロットは宰相ともなると生活の規模が違うのねと思った。

 よく手入れされた広い庭を横切って馬車は玄関前に停まり、降りたシャーロットをリュートと夫人が出迎えた。リュートは赤紫色のセーターに茶褐色の品の良いズボンを履いていた。小柄な夫人はゆったりとした白いセーターに灰色の膝下丈のスカートを合わせていた。胸には大きなサファイアのブローチが光っている。

「ようこそ、シャーロット様、」

「今日はお招きくださってありがとうございます、今日は楽しみに参りましたの。」

 シャーロットが微笑んでお辞儀をすると、リュートはシャーロットの手を取って屋敷の中へ招き入れた。

 執事やメイド達が総揃えで出迎えてくれた。シャーロットは母から預かってきたお土産を夫人に手渡し、リュートに応接間に通された。羽織っていた黒いコートは、執事が預かってくれた。

 部屋の中には、リュートの双子の妹達が立って待っていた。

「シャーロット様、今日はお越しくださってありがとうございます。」

「お見かけしたことはあっても、お話しする機会はなくて、今日はとても楽しみにしておりましたの。」

 ピンクのワンピース姿と水色のワンピース姿の双子は茶金髪の髪を肩で一つに括っていて、白いリボンで結んでいた。二人はにこやかに言った。どっちがどっちなのか判んないわね…。シャーロットは思った。区別はどうやってするのかしら。

「私も嬉しいわ。シャーロット・ハープシャーです。今日はよろしくお願いしますね。」

 公爵家の娘であるシャーロットの方が、立場は上になる。相手に名乗らせたければ、自分が名乗った方が早かった。

「私がシルヴィアです。」

 ピンクのワンピースの方が言った。ひと呼吸おいて水色の方も答える。

「エリーゼと言います。シャーロットお姉さまとお呼びしても?」

「どうぞご自由に。」

 シャーロットは二人に微笑んだ。シャーロットよりも背が高い緑色の垂れ目な双子は、微笑むととても優しい表情になり可愛かった。

「まあまあ、おかけになって下さいな、」

 お茶の用意をしたカートを押したメイド達と夫人が入ってきた。

「今日は主人抜きで楽しみましょうね。シャーロット様がいらっしゃるのを、私達はとても楽しみにしておりましたの。」

 シャーロットが3人掛けのソファアに座ると、両隣に双子達が座った。リュートは斜交いに置かれたソファアに座ると、足を組んで3人を眺めている。

「少しお茶にしましょう。」

 シャーロットの前におかれた可愛い花模様の白いカップに、紅茶が注がれる。立ち上る薔薇のような甘い濃い香りに、シャーロットはこの家はこういう紅茶が好きな人が揃っているのねと思った。紅茶は家によって好きな銘柄が違う。シャーロットの家の紅茶の銘柄は母の好みで、もっと蘭の花のような香りがする。

 口に含むと、「美味しいわ」とシャーロットは微笑む。この前お城で飲んだお茶も同じ銘柄だわと思った。ほっとした様子の夫人や妹達の様子を見て、シャーロットも安心する。


 昼食会は和気あいあいと進んだ。アルウード侯爵家の領地は王都より北方で、酪農が盛んな地域だと夫人から説明を受ける。リュートはもくもくと食事していてあまり話さなかった。ほとんど、夫人と双子達が話をしてくれた。

 シャーロットは聞き役に徹していて、出される料理を「美味しい」と時々言いながら、微笑みながら食べていた。乳製品と肉料理が多いのねーとこっそり思っていたが、そんなことは猫かぶりなシャーロットは顔にも出さないし口にも出さない。

 夫人が嬉しそうに披露した侯爵家の自慢のタルティフレットが出てくる頃には、シャーロットはさすがにもう食べれないわと思っていた。料理長が誇らしげに持ってきたタルティフレットは、自家製チーズと自家製ベーコンが沢山使われていて、焼き目もカリカリとしていて美味しそうだった。ジャガイモに絡めるようにチーズとベーコンを料理長自ら取り分けてくれた。シャーロットはもうそれ以上は無理だわと思って眺めていた。リュートも双子達もよく食べる。みんな太っていないのに、どういう体の構造をしているのかしらと疑問に思う。

 一人分しか食べないシャーロットを見て、夫人や料理長は「遠慮せずにどうぞ」としきりに勧めてくれた。シャーロットは微笑んで、「美味しいので余韻を味わいたいのです、」と誤魔化した。

 リュートが「シャーロットの分は私が貰うよ」と言ったので、妹二人はニヤニヤとしていた。

 デザートはガレットだった。アルウード侯爵領の独特の食べ方らしく、チーズと焼きリンゴがそば粉でできたクレープ生地に包まれていた。

「うちの領地では、ガレットはこうして食べますのよ?」

 夫人が微笑んだ、「シャーロット様の領地ではどうやってお召し上がりになるのかしら。」

「うちの領地では…、うちの公爵家の食べ方なのですが、ガレットはチーズとレモンのはちみつ漬けを刻んだものを包んで、仕上げに蜂蜜を掛けます。母がそうやって食べるのが好きなのです。」

「蜂蜜ですか? 珍しい食べ方をするのですね。そう言えば今日頂いたお土産にも蜂蜜がありましたわね。早速いただきましょうか。ねえ、持って来てくれるかしら。」

 夫人は執事に指示すると、執事は礼をして部屋から立ち去り、やがて蜂蜜の瓶を恭しく持ってきた。もしかして、今日のお土産はローズにもあげた蜂蜜とシロップのセットも入ってたのかなとシャーロットは思った。美容クリームがいくつか入っていたのと、王都で有名な店の焼き菓子を持たされたのは、聞いていたので知っていた。

 料理長は蜂蜜の瓶を受け取ると、それぞれのガレットの上にスプーンで綺麗に格子模様を描いていく。

「どれどれ…、ではいただきますわね、」

 さっそく夫人が、フォークとナイフで蜂蜜を絡めるようにして食べた。妹達も目を輝かせて食べ始める。

「あら…。美味しいわ、」

「お母さま、今度からうちもこういう風にして食べましょう、」

「美味しい蜂蜜ね、お母さま。チーズに蜂蜜って最高ね。」

 シャーロットは微笑んで、自分も食べた。ほろ苦いガレットの皮に、最高級の蜂蜜と濃厚なチーズと、焼きリンゴの酸味が甘酸っぱい。

 リュートも、もくもくと美味しそうに食べていた。

「お父さまが帰っていらしたら、さっそくご報告しなくてはね。」

 夫人が嬉しそうに微笑んでいる。

「お母さま、ガレットをもう一皿頂きたいわ、」

 双子が揃っておねだりをした。「もちろん、蜂蜜もたっぷりかけてほしいわ。」

「あなた達は…、おかわりはお行儀悪いのに。今日だけよ? あら、リュートも? シャーロット様はいかがですか?」

「ええ、十分に頂きましたから、お気持ちだけで。ありがとうございます。」

 シャーロットは微笑んで断った。ここの家の食事の量は絶対多いと、内心毒付いた。


 昼食会が終わると、先に応接室で寛いでほしいと執事に案内された。その前にお手洗いに行きたい旨を伝えると、連れて行ってくれた。帰りは一人で応接室に戻れると伝え、シャーロットはお化粧を直しに行く。

 応接室に戻る途中、赤紫色の深い絨毯の敷き詰められた廊下を歩いていると、深い緑色のカーテンの陰から白い塊が出てきた。

 よく見れば白くて毛の長い猫で、首に青いリボンで鈴を付けている。足音を立てずに近寄ってくると、シャーロットの足に身をこすりつけてきた。珍しい長い毛並みの白い猫は、あまりこの国では見かけない種類だった。異国から来た猫なのだろうとシャーロットは思った。

「わあ…、大きな猫ね。」

 青い瞳をぱちくりさせて見上げた顔をシャーロットが撫でてやると、白い猫は嬉しそうに目を細めた。

「お前の名前は何て言うの?」

 シャーロットはしゃがんで猫を抱き上げた。ずっしりと重い猫は、暴れることもなくシャーロットの腕の中で丸くなった。

「いい子ね…、」

 シャーロットが撫でててやると、シャーロットの体に身をこすりつけてきた。猫ってこんなに懐くものなのかしら、シャーロットは首を傾げた。

 重くて歩くに歩けず、その場でどうしようかと考えていると、廊下の向こう側からリュートがやって来た。

「シャーロット、ああ、重くて動けないんだね?」

「そうなの。大人しくていい子なんだけど、思ったより重くって。」

「貰うよ、おいで?」

 リュートは軽々と猫を抱き抱えた。

「応接室へ行こう、ここは寒いだろ?」

「この子が暖かかったから…、」

 猫はリュートの腕の中で耳を立てて、青い丸い瞳でシャーロットを見つめていた。

 応接室に行くと、双子と夫人がすでにソファアに腰かけて待っていた。お茶の用意がすでにしてあって、それぞれが寛いでいた。

「あら、シャルを連れて来てくれたのね?」

 シルヴィアがリュートから猫を貰いながら言った。

 シャル…?

 シャーロットはリュートを見た。リュートはシャーロットからわざとらしく視線を逸らした。

「この子の名前はシャルって言うの。うちに着た頃は違う名前だったんだけど、お兄さまが名前を変えちゃったの。」

「どこかのお屋敷に遊びに行って、帰ってきたら変えちゃったの。結構子供の頃の話よね。」

「うーんと昔だから、もう本当の名前、忘れちゃったわね。」

「シャルはシャルであってるから、ね。」

 双子は顔を見合わせて笑った。

 シャーロットはリュートに促されて双子の間に座った。シャルがシルヴィアの腕の中から逃げ出すと、シャーロットの膝の上にぴょんと飛び乗った。シャーロットを見上げてニャーニャーと鳴くので、シャーロットはシャルを抱っこする。ずっしりと重い猫は、嬉しそうに抱かれている。

 まさかここの家でもシャルという呼び方を聞くとは…。シャーロットは内心苦笑していた。公爵家の領地の別荘にいる大きな白いプードルも、最初は違う名前を付けられていた。エリックの誕生日にやって来た犬は、チャックという名前だった。でも、シャルとシャーロットを呼ぶエリックの声に反応して、いつの間にかシャルと呼ばなければ返事もしなくなった。幼い頃はシャルと呼んでいた父も母も、その頃にはシャーロットの事をすでにシャーロットと呼んでいたので、家族の中でシャーロットをシャルと呼んでいたのは、エリックだけだった。犬も、シャーロットのことはシャーロットと認識したのだろうと、父は言っていたけれど…。

 エリックがシャルとシャーロットの事を呼んでいたのは犬が来たすぐ後までなので、シャーロットがミカエルと婚約する前までのことでもあった。ミカエルと婚約するまでは生活の時間に余裕があったシャーロットは、エリックのところに来た友達に会う機会はあった。その中に、リュートもいたのだろうか。でも、エリックの友達に基本興味のないシャーロットは記憶になかった。

 シャーロットがリュートを見ると、リュートは澄ました顔をしていた。

「シャルはシャーロットお姉さまが気に入ったのねえ。」

 腹を見せるように抱かれても目を細めている白い猫の腹を撫でてやりながら、エリーゼは微笑んだ。

「シャルが懐くくらいだもの、シャーロット様とはご縁があるのだわ。」

 夫人が紅茶を飲みながら言った。

 猫被りなシャーロットは自分の幼い頃の愛称がシャルだとは言えず、みんな気がついててこの話題をしているのかしらと、内心冷や汗をダラダラと流しながら聞いていた。

 白い猫はシャーロットの腕の中で、満足そうにじっとしている。

「ねえねえ、シャーロットお姉さまは新年の祝賀行事にいらっしゃるんでしょう? チーム・フラッグスのリーダーだってお聞きしたわ。」

 エリーゼが興奮したように言った。

「お兄さまと一緒に行かれるんでしょう? 王都の広場での演武、お兄さまと関係者席で見られるなんて、羨ましいですわ。」

「関係者席ですか?」

 シャーロットは初耳だった。演武を見に行く約束はしていたけれど、貴族席で見るのだろうと思っていた。リュートと関係者席に行くとは思ってもいなかった。

「ええ、お兄さま、そうでしたわよね?」

「すまない、シャーロット、まあ、そういう事だ。」

 まあどういう事だ、とシャーロットは思ったけれど黙っておく。

「迎えに行くから、正装で支度しておいてほしい。」

「わかりました。よろしくお願いします。」

「私も、シャーロットお姉さまとお兄さまについていこうかしら。チーム・フラッグスの関係者なんてかっこいいもの。」

「今、一番王都で流行っている人達だものね。みんなかっこいいし、賢いんでしょう?」

 それは知らなかった。シャーロットは王都の流行りはほとんど知らない。寄宿学校に通っていると、学校の世界がすべてになってしまう。

「お兄さまが関係者だって建国記念行事で初めて知った時は、驚いたわー。」

「そうよね、あのお兄さまがそんなすごい人達とお友達って言うのもびっくりしたし、公爵家のお嬢様と一緒に謁見するって聞いた時も驚いたわ。」

「お兄さまがシャーロット様のお誕生会に呼ばれた時も驚いたわね。」

「寄宿学校に行ってから、お兄さまのお友達関係は随分変わったと思うわ。」

「びっくりする事ばかりだもの、早く私達も通ってみたいわね。」

「寮生活は一緒の部屋がいいわね。」

「二人でなら寂しくないもの。早く4月にならないかしら。」

 双子は興奮しているのか嬉しそうに話をしている。二人は話す言葉が早いので、シャーロットは聞いているので精一杯だった。

 リュートを見ると、リュートは足を組んで黙ってシャーロットを微笑んで見つめていた。

 この人も機嫌が良いと黙っている人なのかしら。猫を撫でながら、シャーロットはリュートを観察する。

 そんな二人を見比べて、夫人は静かに微笑んでいた。


「ガレットの新しい楽しみ方も知ったし、今日は来ていただけて嬉しかったわ。またいらしてくださいね。」

 和やかにお茶会を楽しんだので、いつの間にか夕方になろうとしていた。コートを着たシャーロットに、シャルが抱っこをせがんで鳴いた。

 夫人と妹二人は名残惜しそうに、馬車に乗るシャーロットに手を振った。

 リュートが、馬車に乗り込んだシャーロットの向かいに座った。「送っていくよ、シャーロット、」

「え、大丈夫よ?」

「話したいことがあるから、いいんだ。」

 リュートはそう言って微笑んだ。


 二人を乗せた馬車が動き出すと、見送った夫人と双子達は家の中に入って執務室に入った。3人で家族会議を始めるのだ。

「シャーロットお姉さまは、うちにお嫁さんに来るべきだと思うわ。」

 ソファアに座りながら、エリーゼが言った。リュートが送っていくと言ったのも、珍しいことだった。3人は密かにリュートの恋を応援していた。

「お兄さまの初恋の人でしょう、シャーロットお姉さまって。」

 シルヴィアがもソファアに座って、シャルを抱っこして撫でている。

「今日頂いたお土産も素晴らしかったわ。特に蜂蜜は美味しかったわね。どこかでまた手に入れたいわ。」

 夫人は美容クリームを手にしながら言った。「これも高価で、いいものなのよ。こんなに沢山頂いてしまって、今日は楽しかったし、いい日だったわ。」

「お母さまはどう思う? シャーロットお姉さまのこと。」

 双子の頭を優しく撫でて、夫人は微笑んだ。

「素敵な方だと思うけれど、ご婚約されているの。王太子殿下が婚約破棄なさらない限り、お友達のままだと思うわ。」

 双子は顔を見合わせた。

「婚約破棄って、して貰えないの?」

「そうねえ、違約金を払って婚約破棄して貰う事は出来るわ。」

 夫人は静かに微笑んだ。「シャーロット様がご婚約されたのはずいぶん昔で、子供の頃の話だから、金額は大したことないと思うわ。それくらいのお金なら、うちでも都合がつくのよねえ。」

「お兄さまにもまだ可能性はあるのね?」

 双子の瞳がきらりと光った。

 夫人は黙って微笑んだまま、肯定も否定もしなかった。心の中では、そうなればあの美しいお人形のように整った令嬢が、この先もずっとうちの家で暮らしてくれるんだわと思っていた。


 リュートはシャーロットの向かいの席に座って、シャーロットを観察していた。馬車の窓から街並みを眺めていたシャーロットは、気がついていたけれど気がついていないふりをして黙っていた。

「今度の研修旅行、私も申し込みをしたんだ。」

 リュートの言葉に、シャーロットは驚いて瞳を向けた。

「理事長に申し込むように勧められたから申し込んだんだ。シャーロットも行くんだろ?」

「ええ、好奇心に負けちゃったわ。」

 シャーロットは祖父の言葉を思い出して自嘲した。

「他に、誰が行くのか知ってるのか?」

 エリックとブルーノ以外は知らないわ。ふるふると首を振ったシャーロットに、リュートは「そうか、」と呟いた。

「楽しくなるといいな、シャーロット。」

「そうね、」シャーロットは微笑んで答えた。

 行き先がブルーノの国で、一緒に行くのがエリックとブルーノとリュートって、楽しい気がちーっともしないけどね、と思った。何かがありそうな気しかしない。しかも引率は祖父なのだ。

 やがて、公爵邸が見えてきた。

「今日は楽しかったわ、ありがとう。お母さまや妹さん達によろしく伝えて? あと、お父さまにも。」

「そうだな、また来てくれないか? みんな喜ぶ。」

 リュートは優しく微笑んだ。

「機会があれば、ね?」

 あんまり気が進まないんだよなーとシャーロットは思った。いい人達だとは思うけれど、リュートとどう仲を深めていけばいいのか、方向性が見えてこない。

「私達は、一緒に過ごす時間から始めるんだろう? なら、またくればいいよ。」

「そうね、そうだったわね。」

 困ったなあとシャーロットは思いながら微笑んだ。

 馬車がゆっくり公爵邸の玄関の前に停まった。馬車を降りたシャーロットに、リュートがわざわざ馬車から降りて来て、さよならを告げた。

 リュートの乗った馬車を見送って家の中に入ったシャーロットを、執事や侍女達が驚いて出迎えた。

「すごい猫の毛ですね。お嬢様、お着替えをなさって下さいませ。すぐにお風呂の支度もいたします。」

 脱いだコートを手渡し、侍女達が急いで掃除道具を手に集まってくる。

「ごめんなさいね、あちらのおうちの猫に懐かれちゃったの。」

 シャーロットは項垂れて謝った。ここまでの大事になるとは思ってもいなかった。

「エリック坊ちゃまをこちらにお呼びしてはいけないよ、くしゃみが出てしまわれるからね。」

 執事達が大慌てで掃除し始め、侍女達に指示する。公爵家で犬や猫を飼わないのは、エリックが動物の毛に反応するからだった。別荘のプードルは、毛が抜けにくいのと、別荘限定で飼うことを条件にやって来た犬だった。

 シャーロットは黙って侍女達に毛を払われ、黙ってお風呂場へと連れていかれた。

 家に帰ってからが面倒なので、リュートの家にはもう行かないかもしれないな、とシャーロットは思った。

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