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<68>お相手選びの選考はひとりでは決めません

 3人目はミカエルだった。

 緊張した面持ちでミカエルはシャ-ロットの手を取った。後に残されたサニーとシャーロットは目が合う。サニーは余裕の笑みを浮かべてシャーロットを見ていた。

 隣の部屋に戻ると、ミカエルはシャーロットをソファアに座らせ、本を手にシャーロットの前に立った。

「なんとなく君がここで何をして、どういうお礼をしていたのかは想像がついている。こんなイベントはゲームにはなかったから防ぎようがないともわかってるけど、僕の婚約者に何をやらかしてくれてるんだと腹も立っている。僕の後のサニーとも同じようなことをするんだろうとも想像がついている。ああ、腹が立って悔しくて仕方ない。」

 そんなことを言われてもなあ…。シャーロットも困ってしまう。体格差で負けている気がしなくもなかった。抵抗はしているけれど、抵抗できていないのが現状だった。

「お礼って、私が思っていたのとあなた達が思っていたお礼が違うんだもの。出来ないことは約束しないようにしてるわ。」

 憮然とした表情のミカエルに、シャーロットは言い訳をする。

「お礼が、ほっぺにチュッじゃ、みんな納得してくれないじゃない。ミカエルだって、そんな事、考えてこなかったでしょ?」

 ミカエルは黙ってそっぽを向いた。やっぱりチュッじゃダメなんじゃない。シャーロットはやれやれと内心肩を竦める。

「本なんて読む気にもならないけど、約束だから読むよ。」

 ミカエルはシャーロットの前に立ったまま本を読み始める。ミカエルの手にしている本は、この国のものだった。お城の蔵書印のある異国の言葉の本の方ではなかった。このために見つけてきたのかな…?シャーロットミカエルの顔を見上げていた。

 綺麗な顔。髪を後ろで括ってると、綺麗なハンサムなミカエルな印象なのに、髪を下すと可愛いミチルになる、整った顔。いつか国王みたいな大男になってしまうんだろうか。ミカエルは王妃に似て華奢なままでいいのに。

 ミカエルは本を読みながら、手を伸ばすとシャーロットの唇を開き、人差し指を入れた。

 シャーロットは入ってきた指を甘噛みして、舐めた。中指も入ってきて、1本だった指は2本になる。ミカエルと見上げると、それでも淡々と本を読んでいる。シャーロットは指を吸ってみた。どういう反応をするのか知りたかった。

 段々ミカエルの顔が赤くなってきて、照れているのかシャーロットを見ないように本で顔を隠して読んでいる。

 照れるくらいなら指を抜けばいいのに、と思いながらシャーロットはミカエルの指を口に咥え続ける。

 最後まで読んでしまったミカエルは、シャーロットの口から指を抜くと、ポケットから取り出したハンカチで手を拭った。照れて真っ赤な顔が可愛い、ミカエル。

「シャーロット、お礼は、クリスマス、一緒に過ごして?」

「去年までやったお城のクリスマス会?」

 クリスマスイブからお城の中のチャペルではミサがある。王家の人間はそこで祈りを捧げるのがクリスマスだった。それだけのクリスマスではつまらないでしょうと王妃が言ったので、お城では23日にクリスマス会が行われていた。ミカエル達、三人の子供しかいないクリスマス会で、シャーロットは何回か参加したことがあった。特に何かをする訳でもなく、ただケーキを食べる会だった気がした。

「違う、二人だけのクリスマス。」

「どうやって?」

「お城にお泊りに来てよ?」

「えー、ガブリエルやラファエルは? みんな自分の婚約者と過ごすんでしょう?」

「みんなお城に婚約者を呼んでるんだよ。だから僕も、君を呼ぶの。」

 二人だけのクリスマスなのに、みんな婚約者を呼んでるの? シャーロットは計算おかしくない? と疑問に思った。

「ちゃんと客室空いてるの? そのくらいの時期って、お城は忙しいんじゃないの?」

「お母さまが手配してくれてるから大丈夫。」

 王妃が公認の行事なのか~。シャーロットはそれならいいかなとも思い始める。

「わかった。じゃあ、お邪魔させてください。」

「決まり。じゃあ、僕はお礼の続きを貰うことにする。」

 ミカエルはシャーロットの膝の上に跨がって座った。ドレスを踏まれてシャーロットは身動きが取れなくなってしまう。

「ミカエル?」

「これで逃げられないよね、シャーロット。」

 シャーロットはミカエルに両手を掴まれてしまう。

「リュートには何をされたの?」

 ミカエルは静かにシャーロットの瞳を見つめている。シャーロットは思わず視線を逸らす。

「キスされたんでしょ?」

 シャーロットの唇を含むようにして、ミカエルはキスをした。

「ブルーノには何をされたの?」

 体を触られたとは言えない。下を向いてしまうシャーロットに、ミカエルはシャーロットの首筋を舐めた。舌の感触に身震いしたシャーロットに、ミカエルは「ふうん、」と呟いた。

「違うんだ、じゃあ、こうかな?」

 ドレスの裾に手を差し入れて、太ももを撫でる。

「や、やめて、違うから、」

 シャーロットがか細い声で反応すると、ミカエルはにやりと笑った。

「違うってことは正解は別なんだ。何をされたんだろうね。」

 言いたくないと思ったシャーロットは、身を乗り出してミカエルに近付き、キスをする。

「もう許して?」

「もう一回。ここにちゃんとして?」

 ミカエルは自分の唇を指を差した。羞恥で頬を染めていくシャーロットは、小さく頷いて、ミカエルの唇を、含んだ。

 ミカエルの手が、シャーロットの手から離れた。シャーロットの顔を両手で包んで、何度も口付けをする。

「ミカエル、」

 侍女達が来ちゃう、シャーロットは伝えようと必死で名を呼んだ。

「何? シャーロット、」

 ミカエルはシャーロットを抱きしめて、キスをした。侍女達が来ちゃうんだって、とシャーロットは心の中で叫んでいた。

 部屋に入って来た侍女達の気配で、ミカエルがキスを止めて立ちあがった。

「お帰りはあちらからどうぞ、お嬢様はそのまま、お支度を直しましょう。」

「僕の願いはこのまま一緒に帰ること、にすれば良かったなあ。」

 本を手に、ミカエルが残念そうに言った。シャーロットはその一言にキュンとときめいてしまう。

「ごめんね、明日には帰るから。」

「うん、待ってるから。」

 またね、と手を振って、ミカエルは部屋から出て行った。シャーロットはまたレモネードを口に含み、またお化粧を直されて、またドレスも整えてもらった。

「次が最後ね。何度も同じ作業をさせてごめんなさいね。」

 侍女達に謝ると、侍女達は揃って首を振った。

「お嬢様の方が大変なのですから、お気になさらないでください。」

 大変、なのかあ…。シャーロットは黄昏てしまいたくなる。


 隣の部屋に行くと、最後のサニーが待っていた。エリックはニヤニヤしている。

「では、最後のサニー第二王子、お姉さまとどうぞ。お姉さま、僕の役目はこれで終了。先に失礼するよ。」

 父や母はすでに部屋からいなかった。エリックも部屋から出て行ってしまう。

 ここでいいんじゃないのかしらとシャーロットは思うけれど、一応隣の部屋へとサニーを誘った。

 立ち上がり、サニーは余裕の笑みを浮かべて執事から本を受け取ると、シャーロットに本を手渡した。受け取ったシャ-ロットが戸惑っている間に、屈んでお姫様抱っこしてしまう。

「ちょっと、サニー、」

「じっとしてて、シャーロット。舌を噛みますよ?」

 シャーロットは仕方なくサニーの首を抱きしめる。

「あなたは美しい百合のようだ。まるで花嫁のようですね、」

 サニーはシャーロットの耳元で囁くと隣の部屋にそのまま入って行き、シャーロットを抱えたままソファアに座った。シャーロットはそのままサニーの膝の上に横抱きに座らされてしまう。

 サニーは首を抱きしめたままのシャーロットを抱きしめ、シャーロットの胸に顔を埋めると、しっかりと背中を抱いた。サニーの柔らかそうな栗色の髪が目の前に見える。ミカエルの髪なら触りたいと思うけれど、サニーの髪の毛だと見てるだけなのだから不思議よねとシャーロットは思った。身動き取れないし、どうしようかな。サニーとの体格差を考えれば、このままだと危険な気配しかしない。

「本など読まなくても、ずっとここのままではいけませんか?」

 サニーは胸に囁くように言った。息が当たってシャーロットはくすぐったくなる。

「いけませんよ? 本を読んで下さらないとお礼が出来ません。」

 胸から顔を離してほしいしね。なんだかサニーが肌を舐めている気配がしていた。シャーロットは気持ちが落ち着かない。このままどうにかされてしまいそうで、怖く思えてくる。

「ねえ、サニー、そろそろ離してほしいわ。」

 シャーロットは低い声で言った。このまま無言でいれば侍女達が入ってくる。それを待った方がいいのだろうか。そうすると、本を読んでもらうという目的が果たせない。

「シャーロット、本を読む間、首を抱きしめていてくれませんか?」

「どうやって読むの?」

「あなたを抱きしめながら読みます。」

「えー。」

 首に抱きつくって、まるでお父さんに本を読んでとおねだりする子供みたいだなーと、シャーロットは思った。

「嫌だと言ったら?」

「このまま、本は読まずにあなたの体を抱きしめ続けます。」

 どっちもどっちだなー。

「そういうのはズルいと思うわ。」

 シャーロットが口を尖らせると、サニーは嬉しそうに顔をあげて言った。

「ようやく私にも、そうやって本音で話をしてくれるようになったんですね。シャーロットは本当の気持ちをなかなか教えてくれない。」

 それはあなたが王子様だから。対等ではないから。そう思ってもシャーロットは口には出せない。

「じゃあ、本を読んで、サニー。普通に、教科書を読むみたいに、隣で読んで聞かせて。あなたの国の言葉で聞きたいの。」

「わかりました。それがあなたの望みなら。」

 シャーロットを抱きしめていた手を解き、シャーロットを自分の隣に座らせると、満足そうな表情でサニーは本を開いた。

 同じ挿絵なのに、まったく見たことの無い流れるような記号が並んでいる。

 サニーは一度シャーロットに微笑むと、滔々と読み上げていくように何かを話し始めた。どこから繋がっていくのか、何処までが一部分なのか判らない、流れる歌のような言葉が流暢に聞こえてくる。

 凄いな…サニーもブルーノも、こんな言葉が違う国からこの国にやってきて、普通に会話して普通に生活してるんだ…。

 私にできるのかしら、シャーロットは考えた。結婚してその国に行けば、私はその国の言葉を覚えて、自分の子供にその言葉を教えていくんだ…。

 サニーの肌の色は少し浅黒くて、シャーロットとは違う。髪の色も違う。瞳の色も違う。話す言葉が違うなら文化も違う。価値観だって、きっと違う。それでも、この人は私を欲しいと願ってくれる…。

 サニーを見つめていたシャ-ロットに気がついて、サニーは微笑んだ。

「終わりましたよ、シャーロット。」

「ええ、ありがとう、そうみたいね。」

「舞踏会で、私は考えを伝えましたね。」

「聞いたから、大丈夫よ?」

「お礼を願ったりして、負担ではなかったですか?」

「負担かどうかなんて、約束したのは私だもの。あなたは気にしなくていいと思うわ。できないお礼は断るから、大丈夫よ?」

「では、私は、お礼は冬休みに一度、一緒にお昼ご飯を食べて欲しいです。」

「は、はい?」

「学食でも、ななしやでも、どこでも構いません。あなたと一緒に食事がしたい。二人きりで、いいですか?」

「お昼ご飯を食べるだけなら…。」

「では、約束ですよ?」

「ええ。いつにしますか?」

「冬休み入ってからすぐの土曜か日曜で、どうでしょう。」

「わかりました。それでいいです。」

 シャーロットはデートじゃないしいいかなと思ったけれど、待ち合わせて二人で出掛けてご飯を食べる、それをデートと呼ぶのだと気付いてもいなかった。

「では、その通りに、」

 立ち上がって自分から部屋の外へ出ようとしたサニーに、シャーロットはキスしないんだとちょっとほっとしていた。

 サニーを見送り、ドレスを直そうと自分の胸元を見ると、赤い痣のようなものが出来ていた。小さな薔薇のような赤い跡。

 なにかしら、これ、と指でつついていると、侍女達がサニーと入れ違う様に部屋に入ってきて、シャーロットの胸元を見て驚いた。

「ねえ、何かしら、これ。」

「お嬢様、それはキスマークというのです。」

 年の若い侍女が顔を赤らめながら言った。

「お嬢様、悪戯されたんですよ。何日かで消えますから、ご安心なさいませ。」

 照れた表情の侍女に、シャーロットも恥ずかしくなる。

 サニーはこんなところにキスしたのか…。だからさっさと帰っちゃったんだわ。

「私、部屋に帰ってお風呂に入りたいわ、支度できそう?」

「いつでも大丈夫でございます、お嬢様。エリック様にすでに言い遣っております。お支度はすでに万全です。」 

 私の煩い弟は優秀過ぎてちょっと不気味だわ、シャ-ロットはそう思いながら、自分の部屋へと歩き出した。


 集まってきた十人前後の侍女達はそんなシャーロットの後ろ姿を見て、お嬢様、御婚約者決めお疲れ様です、と思うのだった。

 今日の会の事を、侍女達はシャーロットの新しい婚約者決めなのだと聞かされていた。侍女達には、裏側から誰が一番相応しいかを見極めるようにとも夫人から指示が出ていた。だから夫人付きの侍女も今日はシャーロットを手伝っていたのだった。

「やはり、ミカエル様でしょうか。」

 侍女達から見て、シャーロットの表情が一番柔らいでいた相手だった。 

「そうね、お嬢様が一番気安く話されていましたね。その点、ブルーノ様には言葉に詰まっておられましたね。」

「ブルーノ様は熱烈でしたね。」

 一番お化粧も直し、一番シャーロットのドレスが乱れていた。髪も巻き上げ直し、一番手間がかかった。

「サニー様の強かさも熱烈でしたね。あのキスマークはびっくりです。そういうお礼もありなんでしょうか?」

「王子様の考えることは大胆よねえ…。お嬢様はリュート様とは一番御縁が薄そうね。」

 二人にはまだまだこれから関係を深めていく最中のようなぎこちなさを、侍女達は感じていた。

「ミカエル様が一番素のお嬢様が出てましたね。」

 うんうんと頷いて、侍女達は納得している。彼女達は幼い頃からシャーロットを間近で見て知っているので、猫かぶりな性格をよく把握していた。

「困りましたね、どの方とも今ならうまく結婚生活が出来そうな気配ですよね。」

「お嬢様なら誰とでもうまくやって行けそうですからねえ。」

 侍女達には、猫を被っているシャーロットは個性的な家族の中でうまく生活していると思われている。

「奥様にはなんと報告しましょうか。」

「多数決で票を取っていきましょうか、」

 夫人付きの古参の侍女が提案する。

「女性に気遣いが出来るかどうかを試すという意味での質問です。一番お嬢様のドレスが乱れていなかったのは…、」

「サニー様でしょう。」

 満場一致でサニーに手が上がる。

「一番ドレスが乱れていたのは…、」

「ブルーノ様でした。」

 うんうんと頷き、誰も否定しない。

「紳士的な振る舞いができたかどうかの質問です。一番お嬢様のお化粧が崩れていなかったのは…、」

「サニー様でしょう。」

 これも満場一致で手が上がる。

「一番お化粧直しが大変だったのは…、」

「ブルーノ様でした。お嬢様は首も拭いてほしいとこっそり仰いました。」

 誰もが無言になり、否定しなかった。

「結婚相手にはときめきが必要です。では、お嬢様が一番表情が照れていたのは…、」

「サニー様でしょう。」

 うんうんとみんな頷きながら手を上げる。

「お嬢様が一番困っていらっしゃたのは…、ブルーノ様でしたね。」

 誰もがシャーロットが唇を噛んで表情を無くしているのを見ていた。

「では、奥様には結果を理由と共にお伝えしましょう。」

 その結果を聞いた夫人は意外そうな顔をしてから、「そう、ありがとう、よくやってくれたわね」と侍女達を労っていた。

ありがとうございました

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