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7/4日、朝が来た。
詩織の頭は、昨日の美琴でいっぱいだった。
(「あんたなんか、この世で一番大嫌いってことだよ。」)
また、布団を被り直した。
(嘘だ…………美琴……………)
「詩織ーーー!!!いい加減起きなさーい!!」
母香織の呼ぶ声が聞こえる。
重いからだ。頭に響く美琴の声。全身に針を刺されたみたいに、チクチクと心が痛む。
学校に行くことが、あんなに楽しかったのに、今日は楽しくなかった。
「…らさか!ひーらーさーか!!」
クラスメートの男子に呼ばれ、はっとする。
「城谷センセーが、英語のプリント職員室に運べってさ。」
「…あ、うん!」
急いで机の上のプリントを掴み、職員室へと走る。
(今は、落ち着いて、集中するんだ…。じゃないと、美琴とも話せない…)
「シオンちゃん!!!」
その声に気づいたが、無視をした。
「待って」腕を捕まれた。抵抗するほど、詩織に元気はなかった。
「話があるんだ。」
「私は、用がないの5と」
「?」
「…っ好き…かもしれない。」
「やめてくれませんか」
空叶が驚いた顔をする。構わず詩織は続ける。「私に近寄らないで。勘違いされて、迷惑してるんです。先輩だからって、何でも聞こうとしないでください。」
「?何…」
詩織は相手を睨んだ。
「二度と私に近づくな。私はあんたが大嫌いだ!!!!!!」
足早に職員室へ向かう。
後ろを振り返ることは、絶対にしなかった。
7/5日、いとこの家に行く。
「詩織、最近おかしいよ。」
詩織は、適当に答える。
「何が?」
「んー…何て言うか、僕の知ってる詩織とは、なんか違う。」
母方のいとこである黒田 律は、詩織の顔をじっとみて言う。
「気のせいだよ。」
律はこくりと頷く。
「やっぱり変だ。いつもの男口調が抜けちゃってるし」
「!」
全く気がつかなかった。察されないようにしていたつもりだったのだが…
「僕をあまり見くびらないでよ。どれだけ詩織を見てきたと思ってんの?」
律は、いたずらっ子のような可愛らしい笑顔を向ける。
「で、何があったのさ。いとこなのに、水くさい。」
詩織はボソボソと言った。
「律にどうにかできる問題じゃないし。」
律は、むっと体を乗り出す。
「バカにすんなよ!僕もう高2だし、相談くらい…」
言い切る前に、泣き出してしまった。
「僕だって…やぐに………ぐすったでる…し。詩織ねー…ちゃんが、ぐるじ…そうなの…嫌だ。」
詩織は焦る。律は一度泣き出すと、止まらないのだ。
「わかった!話す!話してやるから!!」
泣きながら、律は笑った。
「へへっ…おじたもんがぢ…」
律が落ち着いたところで、話をした。
勿論、柔らかくしたり、隠したりした部分もあったが。
律は、
「大丈夫だよ!よくわかんないけど、詩織ねーちゃんなら、どうにかできるって!!」
と、励ましてくれた。ちょっと恥ずかしくて、詩織は少し顔を赤くした。
「ねーちゃん、は禁止って言ったよな!」
(よかった、いつも通りに戻ってるや…)
「ありがとな!律。じゃ、帰るわ!」
「うん。」
そう言って律は、玄関の外までついてきた。
「何かあったら、また相談して!今日みたいな放課後でも、いつでも!」
「ん。サンキュー!」
「ごほうび」
「ん?」
律が急にしょぼんとなる。
「頑張ったら、ごーほーうーび!でしょ!!」
「あ。」
思い出した。幼い頃、した約束。
(「律が何かいいことしたら、ごほうびやる。」)
(「ごほーび?」)
(「ほら、こうやって」)
(それで、頭撫でてやってたんだっけ…)
「却下。」
律は口を尖らせた。
「えーーーっ」
その顔は、幼い頃と何も変わっていなかった。
「あー、はいはい。ごほうびだろ。」
頭を撫でてやると、律は子犬みたいに喜んだ。
「全く…やっぱお前、小学生みたいだよな。童顔のせいもあるけど。」
「失礼だなー、これでも高2………………あっ!」
ふいに、律が喜びの表情をした。
「空叶せんぱーい!偶然ですね!」
背筋がぞっと寒くなった。
今、一番会いたくない相手に会ってしまった。
「律くん…?何でシオンちゃんと……?」
「?どうしたんですか?先輩?彼女になにかご用でも?」
その言葉を聞いた瞬間、空叶の顔はショックに固まっていた。
「いや、何でもない…それじゃ!」
空叶は、隣の家に駆け込んだ。
(え………失恋?)
空叶がいなくなってほっとしたつかの間、詩織は、あることに気づいてしまった。
「もしかしてあの人…律の家の隣の人?」
律は躊躇なく答える。
「そうだよ!!!!!!!!超いい先輩!」
「しばらく、ここには来ないかもな。」
「えーっ!何で?」
(言える訳がない……!あの人が事の発端だと!!)
律は本当に男か?と思った。
それだけです。




