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崩壊世界で僕は鬼とキスをする――これは恋じゃない。たぶん、もっと危険なものだ  作者: ユキマル02


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第6話『地獄の執行人は、幽霊を皆殺しにすること誓う』



「ご、極卒って……」


 寺さんから話には聞いたことはある。

 地獄にいる鬼のことだ。


「なんで、地獄の鬼がこんなところに?」

「仕事みたいなものかなー。ほら、ハチくん、お手」


 青さんが刀を肩に担いだ状態で僕に手を差し出した。


「?あ、ありがとう……っあれ?手が上がらない?」


 青さんの手を掴もうとしたけど、体がピクリとも動かなかった。

 脱力感がとにかく凄くて、体を起こすことも出来ない。


「ま、そうなるよな。……よっと」

「わっ!?」


 青さんは苦笑いを浮かべると、僕を抱き上げ片腕に乗せた。

 重くないのかな?と思って青さんを見ると、青さんは僕に優しい笑みを向ける。


「そのまま俺の背中に移動できる?」

「えっ、う、うん。できると、思う」

「じゃあ、移動して。俺がハチくんおんぶしてあげるから」

「え?だ、大丈夫なの?」

「うん。ハチくん軽いから平気」


 僕は戸惑いながらも、青さんの腕から背中に移動した。


「んしょっ」


 さっきよりも手の力が戻ってきている。

 僕は、落ちないように青さんの肩を掴んだ。


「準備OK?」


「え、うん。OKだよ!……ってなんの?」


「それはねー」


「ぎゃあああっ!!」


「!?」


 突然、僕と青さんの会話を遮るように悲鳴が聞こえてきた。


「やめてっ!お母さんを殺さないでっ!!」


 次に聞こえてきたのは、幼い子供の声だ。

 けれど、その子供の声も――


「ぎゃあっ!!」


 すぐに悲鳴へと変わる。


「っ青さん!」


 僕は咄嗟に青さんの名前を呼んだ。

 でも、僕が叫ぶよりも先に青さんは無言で走り出していた。


 凄いスピードだ。顔に強い風を感じる。

 そして、その風に交じって、血の香りもした。


「っ……」


 僕は青さんの服を強く掴んだ。

 血の匂いを感じるたびに、寺さんのことが頭を過ぎって、不安になる。


「――あぁ、お前らか。その顔と名前、全部覚えてるよ。『田村良助』『新藤 リン』」


「?青さん……?」


 風のように走っていた青さんがいきなり立ち止まり、誰かの名前を呼んだ。

 僕は、青さんの肩越しから顔を覗かせて前を見る。


「っ!……あ、あぁっ」


 二人の幽霊の足元には、狐の親子が無残な姿で倒れていた。

 幽霊たちの手には、畑を耕すための(くわ)が握られている。


 僕が今見ている間も、男たちはもう死んでいる狐たちの顔面を笑いながら、ぐちゃっぐちゃっと、鍬で潰している。原型がわからない、骨と赤い肉の塊を見て吐きそうになった。


〖あ?人間みてぇな、妖怪だな〗


 男の一人が青さんに気づいて顔を上げた時――


「えっ……」


 一瞬の風が吹いた。


 僕の横を綺麗な青い炎が通り過ぎていくのが見える。

 顔に再び風を感じた時には、すべてが終わっていた。


 僕の頭上には、体が真っ二つになった男たちが宙に舞って、青い炎に包まれていた。


〖ぎゃあああっ!!〗


〖熱いッ!痛いッ!!〗


 無残にも地面に転がった幽霊たちの体についた炎はどんどん大きくなっていく。

 幽霊たちは苦しい、熱いと叫び声を上げてのたうち回っていた。


 抜いた刀を肩に担いだ状態で青さんは幽霊たちを見下ろしていた。

 青さんはいつ刀を抜いたんだ?


「ゆ、幽霊が、苦しんでる?」


 肉体を持たない、寿命の無い幽霊は死なないはずだ。

 でも、こうして何もしてない間も男たちの上半身が消滅していくのが見えた。


「現実世界で青とは、全てにおいて異質。異質であるものは、異質でしか倒せないんだよ」


「異質?」


「ハチくんは、今、目の前にいる幽霊が普通だと思うかい?」


「えっ?」


 幽霊たちの悲鳴を前に、青さんはまるで世間話をするように僕に話をかけてきた。

 青さんの周りの空気がだけが違いすぎる。


「っぼ、僕は、妖怪を殺したいと思ったことがないから、笑いながら、命を奪う幽霊の気持ちなんてわからないよ」


 必死に絞り出した答えはそんなものだった。

 僕は、頭が良くないから、上手い言葉なんて言えない。


「ははっ、ハチくんって本当に純粋だよね。俺は、汚いものばっか見てきたから、ハチくんのそういうとこ好きだよ?」


 青さんは、楽しそうに笑うと苦しむ男たちを見下ろしながら淡々と話を続けた。


「田村 良助。お前も馬鹿だよなぁ、生前はまっとうな人間で天国に行く予定だったのに、一瞬の感情に身を滅ぼし、罪のない妖怪を殺した」


 僕と会話していた時の温かさというものがその声から感じられなかった。

 青さんの服を握りしめる手には、じっとりと嫌な汗をかいていた。


「新藤 リン。強盗殺人に、複数の少女をレイプ殺人。クソみてぇな人生だったなぁ。おまけにテメェは、生まれ変わる機会すら自分で潰した、どうしようもねぇ奴」


〖っな、なんでぇ、俺の名前をっ……〗


〖なんで、そんなことまで知ってんだよっ!お前、ただの妖怪じゃないのか!?〗


 一人の男の言葉に青さんが、喉の奥で笑った。


「さっきの答え。ハチくんは正解だよ。コイツ等は、幽霊からもかけ離れた異形だ。生きてる人間は普通の炎で焼くことが出来ても……」


 ――異形となった者の魂は、青い炎でしか裁けないんだよ。


「田村はわからねぇと思うが、新藤。テメェは、わかるだろ?」


 青さんは、刀を持ってないほうの手で髪をかき上げた。


〖わかるって、なにが……っ!? あ、あぁっ!?〗


 新藤と呼ばれた男は青さんの顔を数秒ジッと見たかと思うと、次の瞬間には顔面を真っ青にして上半身だけで逃げようとしていた。


 さっきまで自分の隣にいた男の変わりように、田村が目を見開いて男を見ている。


〖お、お前なにビビってんだよ。俺たちは、今ここで死んだって上に戻るだけだろ?〗


 顔の半分が消滅した状態で田村は笑っていた。

 それを見て新藤も「そ、そうだよな」と安堵のため息を吐いた時だった。


「お前らに輪廻転生はない」


〖え?〗


〖は?〗


 青さんの言葉に顔の一部しか残ってない状態の男たちが、口をポカンと開けて彼を見上げる。


「俺には焦る理由がわからねぇな。たった二万年だ。二万年、地球が再生されるのを待ってれば、お前らも人間世界の輪に戻れたのに――」


 青さんはそこで言葉を切ると、持っていた刀を男たちへと向ける。


「俺は、神からの執行人だ。欲深く、逆恨みで再生を邪魔するような魂は、ひとつ残らず殺せとな」


「執行人……」


 極卒で、神の執行人。聞いても意味がわからない単語ばかりだ。

 なんとなく、凄い人なんだってことしかわからない。


〖執行人だと!?ふ、ふざけるなっ!俺たちが何をしたって言うんだ!?〗


〖そうだっ!俺たちは、ただ普通に生活していただけなのにっ、崩壊世代?人間の罰?そんなこと知るかっ!まだ、生まれる前の娘には、そんなもの関係ないだろがっ!〗


「神は自分勝手だと思うか?なら、人間の尻拭いをしているなんの罪のない妖怪を殺したお前らは、どうなんだよ?自分勝手じゃないのか?」


〖……〗


 幽霊の悲痛な叫びに対して青さんは冷静だった。

 

 幽霊の言いたいこともわかる。

 人間世界が崩壊した経由を聞いた時に僕は、なんて理不尽だと思っていたから。


 けれど、理不尽に殺された人間たちが早く戻って来れるように、妖怪たちが日々頑張っていたのも、事実だった。


「さて、次、行こうかハチくん」


「へ?」


 僕が少し考えている間に二人は完全に消滅していた。

 そして、その二人が消えた場所には見覚えのある幽霊が立っていた。


「えっ、お、おばさん!?」


 そこにいたのは、あの日、森で出会ったおばさんだった。


「あの幽霊、ハチくんの知り合い?」

「う、うん」

「そう。じゃあ、ちゃんと「サヨナラ」しなよ」

「えっ?サヨナラって、どうして?」


 僕の質問に青さんは「うーん」と考えているような声を出した。


「さっきの幽霊は、冥界から零れ落ちた崩壊世代の魂さ」

「溢れ落ちる?」

「あぁ、神様が急に全人類殺すもんだから冥界は、対応に追われて、魂もすし詰め状態なんだよね」


 本当こっちのことも考えて欲しいよな、深いため息を吐いて青さんは刀で肩をトントンする。


「崩壊世代の魂たちは、理不尽な制裁に恨み辛みの塊みたいになってるんだよ。だから、冥界から溢れた魂がこの世界に残る幽霊の魂を乗っ取って、自分たちの国を取り戻そうとしているのが今の現状だ」


「の、乗っ取るって」


「俺の刀は、切った魂を消滅させるものだ。それは、乗っ取られた魂も例外ではない」


「えっ、そ、それって……おばさんも、死んじゃうってこと?」


 青さんの話を聞いて僕は、おばさんの方を見た。

 おばさんは喋ることができないのか、ただ僕に優しいほほ笑みを向けていた。


「……おばさんも、輪廻転生から外れるの?」


 僕が震える声で聴くと、青さんは一つため息を吐いた。


「言っておくが、俺の刀は見境なく魂を切るわけじゃない。穢れた魂限定だ。――あのばあさん、何人か妖怪殺してるだろ?」


「っ!」


 僕は、青さんの言葉に答えることができなかった。


「崩壊世代の奴らは少しでも力が欲しい。だから、人を殺せるほどの恨みや執念を持つ幽霊を媒体に選ぶ」


 青さんの言うように、おばさんは妖怪を呪い殺している。

 話を聞いて、おばさんが選ばれたことに納得してしまった。


「俺がこの世界に来たからには、生命の命を奪うものは粛清対象だ。人間世界の警察よりは優秀だと思うぜ?」


 そう言って青さんは再び走り出した。


 振り落とされないように青さんにしがみつきながら、後ろを振り返ると、そこにはもうおばさんはいなかった。


 青さんが向かう先には、口から泡を吹いて苦しむ狸の妖怪がいた。

 他にも周りに妖怪が倒れていたけど、動かないところを見るともう死んでいるのだろう。


 狸の妖怪の近くには沢山の幽霊がいた。

 複数の幽霊が妖怪を取り囲んで腹や顔を蹴っている。


「はっ、見覚えのあるやつらばっかで嫌になるな」


「青さん?」


「ハチくん。しっかり掴まってて。振り落とされるなよ」


「う、うんっ!」


 言われたとおりに強くしがみついた。

 また、強い風が吹いて、その風の勢いに僕は目をギュッとつぶる。


〖うわっ!?な、なんだおまえっ!〗


 強く瞑っていた目を開けると、青さんは幽霊たちのど真ん中にいた。

 そして、青さんが躍るように、その場で回転する。


〖ぎゃああっ!!〗


 周りの幽霊が細切れになって、光の粒となって空中で消滅していく。


〖このっ……!死ねぇ!!〗


 刃から逃げた幽霊が青さんに向かって鉈を振り上げると

 青さんは身を屈めて蹴りを幽霊の腹に叩き込んだ。


〖ぐあっ〗


 そして、倒れたところを上から刀で突き刺し消滅させる。


「手間かけさせんなよ」


 僕は青さんの背から降りると、倒れている妖怪に駆け寄った。


「っ大丈夫!?」


「ゲホッ!……あ、おまえ、ハチか?」


「う、うん!ハチだよ!」


 口元の泡を袖で拭って背中に手を添えて抱き起した。

 顔は血だらけで、瞼はぼっこり腫れている。


「動ける?みんな、裏山に逃げてるよ」


「っ痛、無理だ。たぶん、骨をやっちまってる」


「……っ青さん、どうしよう」


「そいつはそこに放置して大丈夫だ」


「えぇ!?なに言ってるんだよ、青さん!こんなところに置いて行ったら、また襲われちゃうかも」


「襲われないよ」


「え?」


 僕と狸の妖怪、二人揃って青さんを見上げた。


「だって、この村にいる幽霊全部――俺が殺すから」


 そう言って青さんが僕たちの方にゆるりと振り返る。

 青さんの背後、沈みゆく夕日が青色の髪に混ざって、美しい紫色に輝いていた――。




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