第二十七話「全員来た」
第二十七話「全員来た」
壁が崩れた。
煙が入ってきた。
煙の中から、ほのかが出てきた。変身していた。炎が揺れていた。
「カノン」
「います」
「怪我は」
「してません」
「よかった」ほのかが所長を見た。「こいつが所長か」
「そうです」
ほのかが前に出た。
✦
後からレイが来た。リナが来た。アスタロトさんが来た。ベルフェゴールさんが来た。セキネさんが来た。
全員だった。
「帰るぞ」とアスタロトさんが言った。
その声が聞こえた瞬間、体の力が少し戻った気がした。
「待て」
所長が言った。
全員が止まった。
所長が部屋の奥に歩いた。壁に手をついた。壁が開いた。隣の部屋に繋がっていた。
隣の部屋に、水晶があった。
薄く光っていた。大きかった。人が一人入れるくらいの大きさだった。中に、何かがいた。
「……あれが」とほのかが言った。
「そうです」と私が言った。「初代の魔法少女」
所長が水晶の前に立った。水晶に、機械が繋がっていた。パイプみたいなものが何本も刺さっていた。
「近づくな」
所長が機械を操作した。
水晶が光った。強い光だった。
✦
所長の体が変わった。
老婆の体に、光が満ちた。魔力だった。水晶から吸い出した、強い魔力だった。
「……まずい」とレイが言った。「水晶の魔力を使っています」
「どのくらいですか」
「……私たち全員より、強い」
所長が動いた。
速かった。老婆の体とは思えない速さだった。
アスタロトさんが槍を構えた。ぶつかった。弾かれた。
「アスタロト!」
「……問題ない」アスタロトさんが立ち上がった。「だが、直接はまずい」
ほのかが炎を出した。所長が手で払った。炎が散った。
レイが氷を張った。所長が踏み砕いた。
「機械を壊せますか」と私が言った。
「守られています」とレイが言った。「所長が近くにいる間は近づけない」
「所長を引き離す必要がある」
「どうやって」
私は少し考えた。
「囮になります」
「カノン」とほのかが言った。
「引き離して、その間に機械に近づいてください」
「だめだ」とほのかが言った。「お前が一番狙われてる」
「だから囮になれます」
ほのかが「……っ」と言った。
「大丈夫ですよ」と私が言った。「勘がそう言ってます」
「勘かよ」
「大体当たるので」
ほのかが「……わかった」と言った。「絶対帰ってこい」
「帰ります」
✦
前に出た。
所長がこちらを見た。
「……失敗作」
「そうです」と私が言った。「失敗作なので、ここにいます」
「何が言いたい」
「失敗作じゃなかったら、リリスに会えなかったです。ほのかにも、レイにも、レナにも。失敗作で良かったと思ってます」
所長が動いた。
走った。当たらなかった。もう一回来た。杖で受けた。弾き飛ばされた。壁にぶつかった。痛かった。
でも、所長が私の方を向いていた。
後ろでレイが動いていた。
✦
「今です」とレイが言った。
ほのかが炎を出した。所長の視界を塞いだ。
リナが横から走った。機械に向かった。
所長が気づいた。振り返った。
でもアスタロトさんが前に出た。槍で受けた。
「早く」とアスタロトさんが言った。
リナが機械に手をかけた。
「やめろ」と所長が言った。
リナが止まらなかった。
機械を掴んだ。両手で、力を込めた。
所長がアスタロトさんを弾き飛ばした。リナに向かった。
私が間に入った。杖を出した。全力で魔力を込めた。
ぶつかった。
弾き飛ばされた。でも、時間が作れた。
「リナ!」
リナが機械を引き千切った。
音がした。大きな音だった。パイプが全部外れた。
所長の体から光が消えた。
老婆の体に戻った。
所長がその場に膝をついた。
✦
静かになった。
水晶への接続が切れた。機械が止まった。
終わった。そう思った。
ほのかが「カノン、大丈夫か」と言った。
「……なんとか」
「立てるか」
「立てます」
ほのかが手を出した。掴んだ。立った。
所長が膝をついたまま、水晶を見ていた。
「……ごめんなさい」
小さな声だった。
誰に言っているのかわからなかった。水晶に向かって言っていた。
「……ごめんなさい」
また言った。
私はそれを聞いていた。
✦
その時、水晶が光った。
さっきとは違う光だった。機械を通した光じゃなかった。内側から出てくる光だった。
「……何ですか」とレイが言った。
「わかりません」
光が強くなった。
水晶にひびが入った。
一本、二本、三本。
ひびが広がった。
「下がれ」とアスタロトさんが言った。
全員が下がった。
水晶が、割れた。
✦
光が溢れた。
目を細めた。眩しかった。
光が収まった。
水晶の中から、人が出てきた。
若かった。少女と言っていい年頃だった。白い服を着ていた。髪が長かった。
目が開いた。
何百年も眠っていた目だった。
部屋の全員を見た。
それから、所長を見た。
所長が「……会いたかった」と言った。泣いていた。
少女は何も言わなかった。
ただ、部屋を見回した。壊れた機械を見た。水晶の欠片を見た。私たちを見た。
それから、窓の外を見た。
空が見えた。
少女の目が、静かに細くなった。
怒っているのか、悲しんでいるのか、わからなかった。
でも、何かを決めた顔だった。
✦ ✦ ✦
次回「この世界ごと」
——世界を消す、と少女は言った。




